第二十八話「運動会準備中」
俺が運動会の開催を許可してから数日間、魔王城は少し慌ただしかった。
マモン曰く、俺に断られてしまった時に、予め事を進めておいては、俺に失礼になったり、魔族に申し訳なさがあるから、準備はほとんど進めていなかったらしい。
マモンなりの気遣いだろう。
もしかしたら彼は少し心配性かもしれない。
とは言っても、全く準備が進んでいないわけではなく、種目だったり、何が必要かだったりの把握は済んでいて、残っている事は実際に物を用意したり、会場の用意だ。
それで、外から物が運ばれたりと、城内はいろいろな魔族が行き来している。
会場は、闘技場になった。
一番広く、一番様々なことができるからだ。
そんな準備の中、俺は特に仕事が無かったので、城内を回ることにした。
やはり俺の仕事のメインは、魔王城の代表だったり、人族での活動であって、こうした内部での仕事はほとんど無い。
倉庫に訪れてみると、リザードマンの一人、リズが居た。
「お、ディザ様、こンにちは。何か必要なもンでもあるンすか?」
「いや、運動会の準備の様子を見たくてな、この運動会に関しては、俺はやることがないんだ」
「そうなンすね。と言っても、俺の仕事を見てもおもンないすよ」
リズの仕事は、倉庫の管理で、準備に必要なものの出入りを確認するものだった。
確かに、見ていて興味惹かれるようなものではなかったが、精一杯仕事をしているのを感じられる。
それに、どの魔族が来ても、何のわだかまりもなく、スムーズに仕事が進む。
きっと、魔族内での仲は全く悪くないのだろう。
「俺はそろそろ他のところに行く。仕事、頑張れよ」
「ありがとうっす!」
次は、料理担当のケットシーに会いに、食堂へ行くことにした。
普段食堂を経営しているケットシーは、この運動会にどういう形で関わっているのかが、気になったからだ。
食堂は基本的には三人で回していて、城内で食事をしたいと思った魔族が食堂に訪れ、料理を注文する、という形式になっている。
「あ、ディザ様、ようこそニャ。何か食べますかニャ?」
食堂の厨房を覗いてみると、料理長のケイシーが居た。
ケイシーはただの猫をフリをして人族の村へ行ったとき、そこで食べた物があまりにも美味だったから、そこから美味しい料理を作ることを欲望としている魔族だ。
「ケットシーたちはこの運動会にどう関わっているのかと思ってな」
「わざわざ、部下のことを気にくださるなんて、優しいニャ」
ケイシーはうれしそうに尻尾をブンブン振る。
「まあ、やることないしな」
「暇ニャんですね!」
完全に悪気はないんだろうけど、まっすぐ言われると、それはそれで傷つく。
「まあ、そうは・・・そうだな。城の内部の仕事はみんなに任せてるからな」
「確かにそうですね。はい、お茶をどうぞニャ」
ケイシーから冷えたお茶を渡された。
ここで食事をしたことはあるが、人族も美味に感じる美味しいものばかりだ。
今もらったお茶も、香ばしく、食事中に飲むと、口の中がさっぱりとする良いお茶だ。
「僕たちケットシーは、今大量に飲食物を用意してますニャ。やっぱり体を動かせば、エネルギーは欲しくニャりますしね。塩にぎりや栄養価の高い果物、飲料の準備をしてますニャ」
「それはいいな。みんなのことを気遣ってくれてありがとう」
「食事は美味しさももちろん、身体を支えるのにも大事ですニャ。そして、それは僕たちケットシーたちのお仕事だニャ。運動会の成功のためにも、体調には気を付けないといけないニャ」
ケイシーは誇らしげに胸をたたく。
自分の仕事に誇りを持っているようだ。
ここの魔族は、みんな頼りになるな。
「それじゃ、俺はまた別の場所に行くよ。当日、楽しみにしているからな」
「はいニャ。美味しいものを準備させていただくニャ!」
気合十分のケイシーの頭をなでて、俺は食堂から出た。
せっかくだし、当日の会場も見てみたいと思い、俺は闘技場へと向かう。
会場のセッティングを主に行っていたのは、土木担当のオークと、それを指揮しているアイリスだった。
「あっ、ディザ様っ。こんにちはっ!」
「ディザサマ、コンニチハ」
こちらに気づいたアイリスとオークの長のオルクが、俺の元まで来てくれた。
「アイリスがセッティングの指揮をして、オークたちが主に動いているんだな」
「はいっ、オークたちは力仕事が得意なので、すごく頼りになってますっ」
「オレタチモ、アイリスサマノシキノオカゲデ、イツモイジョウニ、コウリツガイイデス」
アイリスもオルクも、適材適所に仕事ができているようだ。
オークたちは闘技場の真ん中に走路用の線を引いたり、大きめの運動会の用品を外から運び出していた。
これらを見るに、人族の運動会に参加した時と、同じような種目が開かれるようだ。
「結構本格的になりそうだな。楽しみになってきた」
「オレタチモ、タノシミデス。オレタチノチカラハ、ホカノマゾクニ、マケマセンカラ」
そう言って、オルクは力こぶを作って見せつけてくる。
巨体のオルクの身体は、がっちりとした筋肉質で、確かに他の魔族よりもたくましく見える。
「オークたちがどれほど剛力なのか、見せてもらうよ。応援してるぞ」
「アリガトウゴザイマス」
オルクは気合十分なようだ。
アイリスもそうなのだろうかと、ふと思った。
「アイリスは運動会に自信あるのか?」
「うーん、一応参加する予定ではあるんですけど・・・、あまり全力でやるつもりはないですねっ。私もどちらかというと、観戦を楽しみたいですしっ」
「そうか・・・・・・」
アイリスは、どうやら観戦メインに回るらしい。
だが、底の見えないアイリスの実力を少しでも見たい俺としては、どうにかして積極的に参加してもらいたい。
そこで、俺は一つ案を思いついた。
「残念だ、運動会の最優秀選手には、俺が叶えられる願いを一つ叶えようと思ったんだがな」
それを聞いた瞬間に、アイリスの身体が固まった。
「な、な・・・な・・・・・・」
途端、ものすごい勢いでオルクの方を向く。
「オルク君、後は任せたっ。私はやることができたのでっ」
「エ、エ?!」
困惑するオルクを置いて、アイリスは闘技場を出ていこうとした。
「ちょ、ちょっと待て!どこ行くんだ?!」
俺の声に反応して、アイリスは一度振り返る。
「作戦を立ててきますっ」
そしてまた歩き始めて、闘技場から出ていった。
取り残された俺とオルクは呆然としていた。
マモンに最優秀選手の話を通し、運動会当日を迎えた。




