第二十七話「魔族だって」
「ということで、運動会を開催します!」
「は?」
マモンの提案で、運動会を開催することになった。
話は、俺が魔王城に着いたときに戻る。
「アイリス、お疲れ様。今日はもう休んでいいぞ」
「了解ですっ」
俺とアイリスはヒューゼ王国から、魔王城へと移動した。
マモンの呼び出しが火急の要件であるならば、すぐさま話を聞きに行った方がいいと思い、何日も移動に付き合わせたアイリスを休ませ、一人で執務室へと向かう。
「ディザだ。入るぞ」
執務室のドアをノックし、声をかけて部屋へ入る。
中は以前見た時と変わらず、数人の悪魔たちが書類の処理をしていた。
「ディザ様、わざわざご足労おかけします」
マモンは、深々と礼をして俺を迎えた。
「城を長く離れていてすまなかった。アイリスも居なかったし、負担をかけてしまった」
「いえ、頼まれた仕事をこなすことは当然です」
マモンは当然のことであるかのように、平然と答える。
アイリスもそうだけど、マモンも無茶なことを頼んでも、文句一つ言わずに、卒なくこなしてしまいそうだ。
ありがたいのだけれど、優秀すぎて逆にちょっと怖い。
「本題に入る。俺はマモンから呼び出しがあると聞いてやって来たが、一体何の用事だ?」
「そうです!そのことをお話したかったんです!・・・コホン、すみません、少し取り乱してしまいました」
マモンはあまりにも興奮して、俺の右手を両手で掴んで近づいてきた。
だが、いつもと違う様子を見せたことを恥じたのか、咳払いをして、俺から少し離れる。
「ディザ様が魔王になられてから半年ほど経ちましたが、ディザ様は魔王城をしばらく空けていらっしゃいました。魔王城の魔族については、城内を回られていましたが、詳しい能力などは、まだご存じでないと思います」
「確かに、それはそうかもしれない」
俺は魔王になった翌日に、城内の魔族にそれぞれ会って、軽く会話もしたが、その程度だった。
「ということで、運動会を開催します!」
「は?」
優秀なマモンからの呼び出しということで、少し身構えていたが、完全に予想外の話が入ってきて、面食らった。
「すまない、説明してくれ」
興奮気味のマモンに対して、俺はまだ事態を理解できず、頭を抱えた。
「ディザ様は魔王城をしばらく空けていらっしゃったので、魔王城の魔族については、」
「いや、そういうことじゃないけど、まあ、いやそうか、ありがとう」
マモンの中では、運動会こそが俺が魔族の能力を知るのに適している、より良い案はない、と考えているのだろう。
もう俺は受け入れることにした。
「ディザ様やアイリス様が城を空けている間、私に何かできることはないかと考えました。ですが、私は人族のディザ様ほど活動範囲は広くなく、力も敵いません。ですので、内部のことでお役に立ちたかったのです。何せ、私は管理を欲望とする魔族。魔王城内部に関しては、お任せください」
マモンは誇らしげに語る。
本気で、俺の役に立ちたいと思っているようだ。
一体、その忠誠心はどこから来ているんだろう。
「なあ、マモン。どうしてそこまで俺への忠誠心があるんだ?俺はまだ魔王としてほとんど活動できていないのに、ふと疑問に思ってな。もちろん、その態度をやめろというわけではない。ただ気になるだけだ」
俺は純粋な疑問をマモンに投げかける。
「・・・・・・心の拠り所が欲しかったんでしょうね」
そう語るマモンの表情はどこか寂しそうだった。
「私は魔王城でしばらく過ごすことで思ったんです。昔は人族を襲うこともしていたのですが、いざ平穏な場所を手に入れると、これを手放したくない。同時に、相手の平穏な場所を奪うことも、許されざることだと感じました」
マモンの考え方は、とても人情に厚かった。
「でも、人族を襲う魔族が居るから、人族も魔族を恐れる。それどころか、魔族というだけで襲ってくる人族も居る。そのせいで、平穏に過ごしたいと思う人族と、同じように考える魔族はすれ違ってしまうのです。これは、私一人ではどうすることもできません。だから、魔族の長であるディザ様に、圧倒的力を持った人族の勇者に、勝手に期待をしてしまっているのかもしれません」
マモンの表情は確かに寂しそうであったが、絶望しきってはいなかった。
結局のところ、マモンも平穏な暮らしを求めているだけだ。
「すみません、突然こんな話をして。それに、無責任でした」
マモンは申し訳なさそうに頭を下げる。
「いや、話をしてくれてありがとう。お前の気持ちを知ることができてうれしいよ」
「その言葉だけでも、喜ばしい限りです」
マモンの願いも、俺やシックと変わらない。
虐げられている闇属性が、人族で幸せに暮らせるようになる。
人族に恐れられている魔族が、何にも恐怖することなく平穏に過ごす。
人族であろうと、魔族であろうと、皆が幸せを求めている。
だったらなおさら、俺は闇属性の人族を、魔王城の魔族を、守らないといけないと思うようになった。
俺は人族を救う勇者で、魔族を統べる魔王。
人族にも魔族にも、俺の大切な居場所は存在するのだから。
そして、俺に期待をしてくれている部下の、簡単な提案ぐらい受け入れられなくては、魔族の上に立つ存在として恥だろう。
「マモン、運動会を開催するぞ!」
「はい!」
独りよがりだった想いは、ますます貪欲になっていった。




