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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第一章「勇者と魔王」
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第二話「闇は心を照らさない」

 「今日の模擬演習の一位はレイスだ。最近なんだか調子が良いようだな」


 「・・・・・・はい」

 

 まともに会話をしたことのない先生に、嫌味の意味が強く褒められたので、俺もいい加減な返事をした。


 模擬演習とは、低級魔族のスライムやゴブリンが湧く森に赴いて、実際に討伐を行う演習だった。

 俺は努力をし続け、もはや学内の生徒で俺に敵う相手はいないほどだった。

 それがおかしいことだった。


「・・・・・・あいつがまた一位かよ」


「闇属性って強くなれないんじゃないの?」


 顔しか知らないような生徒たちが、陰口を言っているのが聞こえる。

 だが、その通りだ。

 自分でも、この成長は異常だと思っている。


 もちろん、全く努力をせずに成長したわけではない。

 それを踏まえたうえでも、おかしいのだ。

 模擬演習において一位を取ったことは、もう数えきれないほどだ。

 

「先生はどう思ってくれるかな・・・・・・」


 誰とも顔を合わせたくないので、下を向いてつぶやく。


 いつも思い浮かぶのは、自分が尊敬する先生のことばかりだ。

 あの人に認められたい気持ちが、自分の原動力にもなっていた。

 しかし、そのころは魔族の活動が活発になっていき、それにつれて、先生の姿は学校からあまり見なくなってきた。

 

「みんなに認められたかったのに、これじゃ居場所がないみたいだ・・・・・・」


 頭が痛くなってくる。

 結局、今自分を認めてくれる人は、三人の仲間だけだ。

 入学のとき思い描いてた姿とは、明らかに違っている。

 居心地の悪さがひどい。


「今日はもう早退しよう・・・・・・」


 次の授業の先生に、早退を伝えようと、職員室に向かい、部屋の前まで着いたところで、中から気になる声が聞こえた。


「レイスという生徒の件ですが・・・・・・」


「?!」


 自分の名前が呼ばれたことに驚き、なんとなく気配を隠して、耳を立てる。

 なぜ自分の話題が出ているのか、声の主は今日の模擬演習の監督だった。


「闇属性の使い手としては、明らかに強力すぎます。こんな例に今まで遭遇したことはありません」


「そうですね、正直不気味ですよ。人の姿に酷似した魔族なんじゃないかって疑いたくなります」


「困ったことに、最も有力な勇者候補なんですよ。魔族が勇者にでもなったらたまったもんじゃない」

 

 近くで本人が聞いているというのに、言いたい放題だった。

 だが、正直分かっていたことだった。俺が最近疎まれていることには。


「このまま勇者になったらどうしますか?正直、アレを代表として扱うのは、いささか問題があるような・・・・・・」


 深刻そうな声色で話を続ける。だが、頭の中では面子のことばかりで、俺のことは考えていないのは明白だった。


「強さだけは確かなものです、勇者にしても構わないでしょう。魔王討伐できたなら、そのあとは事故に見せて処理すればよし。魔王に殺されるならそれでよし。とにかく、人族が不安にならないようにしましょう」


「まあ、それが一番ですかね。今のところ、学校の総意もその方向に進んでいます」


「・・・・・・っ!」


 とても命の話をしているとは思えないようなトーンの声が、心臓に重く響き、思わず声が漏れかけた。

 怒りは湧いてこなかった。しかし、泣いてしまいそうだった。

 認められたいと思って努力をし続けたのに、それを言葉でしっかりと否定されたから。

 

 もうその場には居たくなかった。俺は急いで寮の自室に帰って、ベッドに潜った。


「何のための五年間だったんだよ・・・・・・!」


 このままではどうしようもないと思っていた。

 逃げだしたほうが良いのだろうか。

 そもそもなんでこんな目に合わないといけないんだ。

 自己顕示欲に突き動かされた五年間は、自分という存在が否定されるための時間として扱われてしまった。

 

 ここで、他者を恨んで反発してみたり、すべてをあきらめて逃げてしまえれば、きっと簡単に終わることができただろうに。

 俺は、それでも認められたい、人族すべてに愛されるような人になりたいという気持ちが強かった。

 きっとそれは、誰しもが持ちうる感情だろうが、俺が持つには異常な感情なのだろう。

 それはもう、執着の域だった。

 そこから、俺は人族に愛されたいという夢を持った。


 ベッドで横になったまま、今後について考えた。

 魔王の脅威がある内は生かされる。

 でも、あまり魔族を放置していても、人族そのものが良い方向に進まない。

 まずは、魔王を討伐して、その後の立場を何とかしなければならない。

 ひとまずは、自分がまだ必要とされる状況。

 そこから、闇属性の偏見を消さないといけない。

 曖昧ではあるが、なんとなくの道筋は考えた。


 結局は勇者を目指すことには変わりはない。

 魔王討伐をまだ夢見ているあたり、俺は相当人族が好きなのだろうと思う。

 

 その翌日からは、より一層の努力を続けた。 

 そして、今後の自分のすべきことも考えていた。

 教師たちや、周りの生徒の目も極力気にしないようにした。

 もしかしたら、好きになってもらいたい対象のことを嫌いになってしまうかもしれないと思っていた。

 これ以上、自分の支えを失ってしまってはならないと感じていた。


 そして、入学から六年、学校を卒業する時が来た。

 もうすでに、計画は立て終えていた。

 まずは、魔王を討伐するところから。

 スタートラインのハードルが高いかもしれないが、俺にならできるはずだ。


 歴代最強と呼ばれる、四代目勇者に俺はなった。


 

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