第二十五話「すべてを飲み込む」
「この前演習で行った山の頂上が、コルソンの活動拠点ですっ」
「ああ、ありがとう」
俺とアイリスは、コルソンの場所へと向かって走っている。
時間は夕暮れで、あまり遅くなると夜も更けて、視界も悪くなってしまう。
それでも、俺の生徒たちを、遊び感覚で命の危機にさらしたあいつを一秒でも長く放置することは、俺が許さなかった。
「コルソンが何者か、目的は何か、調べがついているのか?」
移動をしながら、居場所以外の情報も聞いておきたかった。
「一応いくらかは。コルソンは魔王城に住むどの魔族にも関りがなく、野良もしくは私たちとはまた別の組織に属している可能性がありますっ。ここの近隣の人に聞くと、ここ一月ほど、ミニゴブリンが短い間隔で、少しずつ姿を見せるようになったらしいですっ。コルソンが山の頂上を活動拠点にしたのも、それと同時期ですっ」
「あのミニゴブリンは、やっぱりコルソンが指揮していたのか」
「直接指揮していたか断言はできませんが、関係はしていると思いますっ。ミニゴブリンは退治されるたびに、一匹ずつ現れて、また退治されてを繰り返していますっ。そして、コルソン自体が姿を見せたのは、ディザ様たちがミニゴブリンの討伐されたときですっ。彼の言動からするに、闇属性の人族にのみ関心があったのかとっ」
「人族の闇属性にのみ、狙いを・・・・・・」
今まで、人族が闇属性に対して、他とは違う見方をしていることは感じていたが、魔族が闇属性に関心を持つパターンは見たことなかった。
それとも、闇属性でも、人族という条件が付いているのか。
だとしても、魔王城の魔族に、俺のことを闇属性の点で、特別興味を持っているものは居ない。
色々考えても、あまりにも分からないことが多い。
本人に会って、聞けるなら聞いてみることにしよう。
「いつもすまないな。助かった」
「いえいえっ、どういたしましてっ」
走りながらの移動なので、アイリスはいつもの敬礼はしなかった。
しばらく走り続け、なんとか夜が更ける前に山頂にたどり着いた。
山頂にある木にもたれかかって、座って休んでいる悪魔が居る。
その姿は、間違いなくコルソンだった。
「おい、俺のことを覚えているな?お前の目的を話せ。そして、俺たちに関わるな。そうすれば、苦しまずに済むぞ」
俺は、コルソンを挑発する。
前に会った時もコルソンを挑発したが、あの時は意味がなかった。
今回も意味がないだろうと思ったが、調子に乗った奴を絶望させた方が、言うことを聞かせやすいと思い、必要な行動だと考えた。
「お、勇者さんじゃねーか。わざわざ来てくれるなんて、うれしーねぇ」
思った通り、飄々とした態度だった。
俺の姿を確認するとすぐに立ち上がり、俺の方を見てニヤニヤと笑う。
コルソンは俺が勇者ということを知っているらしい。
前に会った時から、コルソンも情報を集めていたのだろう。
「俺のことを知っているのか」
「お前さんには、最後まで手出さないほうがいいって言われてだけどさぁ、ここで殺しちゃっても問題ねーんだよなぁ」
「お前の目的はなんだ?何かの組織にでも属しているのか?」
「答える義理はないねぇ。そもそも今から死ぬんだし、どうでもよくなーい?」
俺がいくら質問をしていても、コルソンはまるで答える気はないみたいようだ。
「会話しても意味ないしさぁ、さっさとやっちゃうよー?!行くぜっ、ハーッヒャッヒャッヒャッ!」
コルソンは突然叫びだし、以前と同じように、俺に突風を飛ばしてくる。
確かにすさまじい威力だが、一度見た技だし、この場には、おそらく俺が守らなくても平気であろうアイリスが、後ろに居るだけだ。
風は魔力を纏って襲い掛かってくるので、闇属性で相手するには簡単だ。
俺は闇で壁を作って、突風をすべて飲み込む。
「その程度の技じゃ、何度やっても無駄だ」
「この程度の技で調子に乗っても惨めだぜー?」
コルソンは右の手のひらを上に向け、その上に球体の何かを作っている。
おそらく、風を密集させてできた、圧縮された風の球だろう。
「くーらえ!!!!!」
コルソンはそれを俺に目掛けて飛ばしてくる。
威力は先ほどよりはあるだろうが、攻撃範囲は狭くなっている。
俺は剣を取り出し、闇属性を付与して、風の球を受け止める。
剣に付与された闇が、風の球を飲み込んだ。
「どうした、次は?」
冷徹な視線でコルソンを見つめる。
今までのコルソンの態度とはまるで違って、やや焦りが見える。
「調子に乗んじゃ、ねーぞ!!!!」
コルソンは大量の風の球を生成し、様々な方向から俺へ飛ばしてくる。
「くらえっ!くらえっ!くらえーーーーっ!!!」
俺は、自分に命中するであろう球を、一つ一つ剣で弾きながら、コルソンへと接近する。
コルソンは遠距離攻撃しかマトモにできないらしく、俺が距離をどれだけ詰めていっても、風の球を飛ばすことしかしなかった。
俺は、自分の攻撃範囲まで接近し、コルソンの腹部を狙って攻撃する。
「やばっ!」
コルソンは引いて逃げようとするが、完全に避けきることはできなかった。
腹の奥深くまでは剣は届かなかったが、十分肉は切られている。
コルソンは、自身の得意とする攻撃範囲から、最も苦手である範囲まで敵の接近を許し、しかもその相手は無傷だ。
「で、俺を殺す技はいつ見せてくれる?」
俺は再び、コルソンを煽る。
コルソンは全身を震わせ、完全に恐怖している。
もう戦意は喪失しているようだ。
「も、もう俺はごめんだ!こんな舞台からは降りてやる!おもしれーのが釣れたと思ったら、最悪なのが出てきちまったじゃねーか!もう二度とお前とは関わりたくねー!」
コルソンはそう言うと、自身の翼を大きく羽ばたかせ、空へと飛んだ。
「飛んで逃げる気か・・・・・・」
やろうと思えば、コルソンの羽を闇で飲み込むことはできるが、闇の遠隔操作で、物質を飲み込むことになるので、かなり疲労してしまう。
「アイリス、あれなんとかできるか?」
「はい」
アイリスにダメ元で頼んでみたが、どうやらできるらしい。
途端に、場の空気が一気に冷えた。
自身がこの世界に飲み込まれてしまいそうなぐらいの、空気感がある。
アイリスは俺の前に出て、右手を広げ、コルソンの方へ手のひらを向ける。
「落ちろ」
アイリスは、コルソンに命令をした。
その声は、ひどく冷淡で、いつものアイリスからは想像ができない。
「ゲハァッ?!!!」
アイリスが命じると、コルソンは翼の機能を失い、地面へ落下した。
落下した後、コルソンはまるで地面に張り付けられたかのように、うつぶせの状態で、手足や顔が地面とくっついていた。
コルソンは必死でもがいているが、全く起き上がることができていない。
「このまま殺すこともできますが、どうしますか?」
アイリスはそのままの口調で、俺に提案をする。
「いや、こいつ自身から聞き出せることもあるだろう。このままにしておいてくれ」
「わかりました」
アイリスは、コルソンに右手を向けたまま、後ろに下がった。
「コルソン、お前の目的はなんだ?誰かに命令されたのか?俺たちを襲った経緯を話せ。さもなくば、殺すぞ」
「わ、分かった!は、話す!だから命だけは許してくれ!」
圧倒的な力を見せつけられたコルソンは、ものすごく簡単に要求を受け入れた。
「突然声かけられたんだ!よくわかんねーやつによ!人族に闇属性を使えるやつが居るから、もし見つけたら殺せ、ミニゴブリンが都度人族を襲わせるから、それに対応しているやつが闇属性かどうか見ろって。俺は、人族で闇属性なんて見たことなかったから、おもしろそーだったんだよ!ミニゴブリンが退治されてるの観察するだけで良かったしな!」
「声をかけたのが誰なのかは全く分からないのか?闇属性の人族を殺す理由は?」
「本当に何も知らねー!俺は、人族を襲う魔族の知り合いは複数いるが、そいつらの誰でもなかった。俺は他に特に知った奴はいねーしな」
どうやら、今回の首謀者に関しては、コルソンは何も知らないようだ。
コルソンからこれ以上は情報を聞けそうもない。
「な、なあ?俺が分かることはすべて話した。だからもう許してくれよ。もう二度と関わらねーから。頼むから!」
コルソンは必死に命乞いをする。
だが、俺はそれを無視して、剣をコルソンの心臓の位置に向ける。
「お、おい!話したら助けてくれるんじゃねーのか?!話が違うんだろ!」
「話さないと殺すとは言った。だが、話したら殺さないとは言っていない」
俺は、地面にうつぶせのコルソンの心臓を、剣で貫いた。
「グァーーー!!!!」
コルソンは大声で悲鳴を上げた後、全く動かなくなった。
「ありがとう、アイリス。おかげで楽だった」
「どういたしましてっ」
アイリスは敬礼しながら返事をする。
いつもの調子に戻っていた。
コルソンという、目先の敵の件は、これですべて終わった。
だが、実質的には、ほとんど解決してないように、俺は感じた。




