第二十四話「日常はなるべくして日常になる」
「よし、何かやりたいことあるか?」
「え、なげやり?」
遊びに行くとは言ったものの、特に決めてはいなかった。
そもそも、俺はあまり遊んだ記憶がないし、今の若者が何を娯楽にしているかが分からない。
「じゃあ、闘技会行きたいです。俺もちょっとは戦いのこと分かるようになったし、楽しめるかも」
「確かに、学ぶこともあるかもしれないし、良い案かもしれないな」
「遊びに行くって言ったのに、結局授業になっちゃうの?まあ、私も反対はしないけど」
モンデの提案に、俺もシックも了承したので、三人で闘技会に行くことになった。
闘技会が開かれる闘技場は盛況で、外からでも熱気が伝わるほどだった。
やはりヒューゼ王国の闘技場なだけあって、規模はとてつもなかった。
魔王城のそれとは、比べ物にならない。
城のみんなが、この規模のでかさを見たら、きっと驚くだろう。
俺たちが中に入ると、どうやらほとんど試合は終わっていたらしく、今日はもう決勝試合しか残っていなかった。
「決勝しか残ってないんですね。もっと見たかったのに」
「むしろ、決勝を見逃さなかったことを幸運に思おうよ、モンデ。決勝ってことは、単純に考えるなら、強さが一番と二番の人の戦いなんだから」
「それもそうだな。なあ、どっちが勝つか賭けでもしようぜ。手前側の人か、奥側の人か」
「全く知らない人同士の戦いで、どっちが勝つかなんて、分からないよ」
「だから賭けなんだろ?」
モンデとシックが楽しそうに会話をしていると、剣闘士の二人が闘技場に現れた。
剣闘士は鎧を着ていて、お互いに剣と盾を持っている。
もっとも、その剣は剣の形を模しているだけで、殺傷能力はない棒切れみたいなものだが。
「来たみたいだな。俺も闘技会なんて見るの初めてだから楽しみだ」
「私も初めて」
「面白いですよ!もちろん安全は考慮されてるんですけど、どうなるか分からないってハラハラ感がたまらなくて!」
モンデはとても興奮していた。
かくいう俺やシックも、初めての闘技会で、少しわくわくとした表情をしている。
試合が始まった。
剣闘士の二人が、お互いに剣や盾を駆使して、攻防が繰り広げられている。
はっきり言って、やっぱり見世物レベルと思ってしまう。
実際に命のやり取りをしていた身からすれば、本気度が足りないというか、相手より自分が上だということを証明するに留まるというか、本当の戦闘に比べると、見劣りしてしまう。
「ど、どうですか?先生、シック」
モンデも、試合前の興奮はどこへ行ったのか、苦笑いで俺とシックを見る。
モンデももしかしたら、拍子抜けしてしまったのかもしれない。
「私はなんか物足りなく感じるかな。別に命の取り合いを見たいってわけじゃないけど、本気の戦いが見れると身構えてたら、そこまででもなかったって感じ」
何の気遣いもなくに、シックは素直に感想を言う。
俺と同じ意見だった。
「俺もそんな感じだな。特に俺は修羅場を経験しているから、どうしても・・・・・・」
「俺もそう思いました・・・・・・。学校で戦い方を学んだからかな。せっかく行きたいと言ったのに、すみません・・・・・・」
モンデは落ち込んでいた。
さすがにモンデに落ち度はないので、ちょっとかわいそうだ。
「昔は好きだったのにな・・・・・・」
「まあ、本当の戦闘を学んでいたことを実感できたってことにしよう。成長を感じるいい機会だった」
「はい・・・・・・」
闘技場での試合が終わり、今度はシックの提案で演劇を見ることにした。
「私、物語が好きなんだよね。だって、都合が良いもん。人が楽しめるように作られてるんだから、楽しいに決まってる」
シックは演劇が好きだったようだ。
育成学校に入学してからは、娯楽とは縁のない生活をしていたようで、彼女にとっては久しぶりらしい。
「モンデって、レイス先生が来る前、座学の授業でよく寝てたけど、演劇とか大丈夫なの?ずっと椅子に座ってじっとしなきゃいけないんだよ?」
シックはニヤニヤとしながら、モンデをからかう。
「うーん、まあその時になったら分かるでしょ」
「ほんと、適当。先生は演劇とかどうなの?見たことある?」
「育成学校に入る前にちょっとだけ。でもその時は興味なくて寝てしまったな」
「ふーん、勇者様も演劇中に寝ちゃうんだね」
からかう相手が、今度は俺に変わってしまった。
シックには、人をいじる癖があるみたいだ。
「小さい頃は、な。でも、大人になってからは見ていないし、ちょっとワクワクしている」
「ふーん、まあ今楽しみにしてるならそれでいいか」
そうこう言ってると、開演の合図が起きた。
話の内容は、主人公の想い人が魔族に攫われて、主人公がそれを救いに行き、最後に二人は結ばれるというシンプルなものだった。
内容も分かりやすく、頭に入りやすい。
演者の表現力も高く、純粋に楽しめた。
モンデは途中で寝てしまっていたが。
俺たちは次に行く場所を探すために、街をブラブラ歩きながら、さっきの演劇の話をしていた。
「結局モンデ寝てたじゃん」
「椅子の座り心地が良くて・・・・・・」
モンデは、自分は悪くないと言いたそうな顔をしていた。
「先生はどうだった?楽しかった?」
「ああ、楽しかった。主人公も幸せになれて、見ていて俺も感動したな」
「そうだね、だって物語は都合よくできてるんだから」
シックはそう言った後、一呼吸置いた。
「私も、そんな都合の良い未来を掴みたい」
「そうだな」
シックの小さな呟きに、俺は強く気持ちを込めて返した。
そのあとも様々な場所に行って、三人で楽しんだ。
モンデはやっぱり純粋な少年だってことや、シックが実はイタズラ好きだってことも分かって、充実した時間だった。
時間も夕方になっていて、最後に食事でもして帰ろうという話になった。
「最後に、俺がいきつけの食堂に連れて行こう」
「うおー!俺めちゃくちゃ腹減りました!」
「私も。どんな店なんだろう」
俺は、二人をマナの食堂へと案内した。
中に入ると、相変わらず、店にはほとんど客は居なかった。
「いらっしゃいませー!あ、レイス君と、もしかして生徒の二人?」
「ああ、今日は三人で色々と出かけていたんだ」
マナはいつもの笑顔で俺たちを接客した。
俺が教師をしていることや、二人の生徒の面倒を見ていることはすでに話していたので、察したようだ。
「ずいぶんフレンドリーな店員だね」
シックは人見知りなところがあるのか、俺に小声で言う。
「まあそういう人だからな。でも、そういうのが苦手でも、彼女は察せるタイプだから、あんまり気にしなくていいと思うぞ」
「う、うん」
シックと俺は席へ座った。
「もしかして、レイス先生とお知り合いなんですか?!」
「うん、レイス君のあんなことやこんなことまで知ってるよー」
「ええ!ずるい!」
モンデは入ってすぐのところに居たままで、マナとすっかり仲良くなっていた。
だが、話の内容は見過ごせないものだった。
「おい、適当なことを言うな。こいつはすぐ信じるんだから」
「ごめんなさいー」
マナには余計なことをこれ以上言わせないようにして、モンデも一緒に席に座らせた。
それぞれが自分の好きなものを注文して、三人で食事を楽しんだ。
もちろん、俺は羊肉のステーキを頼んだ。
モンデも同じく肉料理で、ローストチキンを頼んでいて、シックはキノコのクリームパスタを頼んだ。
食事を終え、しばらく雑談をしていると、ドアが開く音がした。
「レイスさんっ、居場所突き止めてきましたよっ」
「ああ、助かる」
正体はアイリスだった。
どうやら、コルソンの情報は集め終わったようだ。
「あなたはあの時の!助けていただいてありがとうございます!」
「あの時はありがとうございました。あなたが居なかったら、私たちはどうなってたか分からなかったです」
モンデとシックも、アイリスのことを覚えていたようだ。
ただ、普段俺に敬語を使わないシックが、アイリスには敬語を使ってるのが気になってしまう。
魔王城のときでもそうだったが、なにか不思議なオーラでもあるのだろうか。
「レイスさんのかわいい教え子なら、当然助けるよっ。あ、私はアイリス。レイスさんの相棒だよっ。ねっ?」
アイリスは俺の方を見て、ウィンクをする。
「まあ、そんな感じだな」
一応、間違ってはいないので否定はしない。
「アイリス、居場所は分かったみたいだが、今からでも行けるか?」
「はいっ、大丈夫ですよっ」
「じゃあ、行くか」
アイリスは先に食堂から出ていった。
俺はモンデとシックの方を向く。
「モンデ、シック。すまないが俺は用事ができた。二人は寮に戻っていてくれ」
「先生、用事って、悪魔のことですか?」
「先生・・・・・・」
モンデとシックは、心配そうに俺を見つめる。
これから俺が行こうとしている場所は、察しているようだ。
「大丈夫だ。生徒を危険から守ることが、教師がすべきことだと俺は思うからな。それに・・・・・・」
俺は二人の肩に、それぞれ手を置いた。
確かに、あの悪魔は、二人にとっては今まで見たことないような、恐怖の存在かもしれない。
心配するのも仕方がないかもしれない。
でも、大丈夫だ。
「俺は、人族最強と呼ばれている、四代目勇者レイス・ディーンだからな」




