第二十三話「一人じゃないから」
シックの部屋の中は簡素で、俺が想像している、女の部屋とは全く異なるものだった。
今思うと、異性の部屋の中に入るのは初めてのことで、緊張してきた。
「あんまり物とか置かないんだな」
「基本的に必要なものしか置かないから。遊びのつもりでここに居るわけじゃないし」
「それでも、すぐに中へ他人を入れるわけにはいけない物とかはあるんだな」
「だ、誰だって隠したいものはあるよ」
ちょっとした冗談で、シックの顔は少し和らいだように見えた。
だが、また落ち込んだ顔へと戻る。
「・・・・・・私が学校に来てないのが気になったんだよね」
「ああ」
シックは俺がここに来た理由は分かっているようだ。
「モンデから、シックが強くなりたいから学校に来たって聞いたんだ。モンデも似たような理由だったのも聞いた。モンデも今日は不調だったし、シックが今日学校に来なかったことが、昨日の出来事のせいだとしても、単純な話じゃないかもしれないと思って、話を聞いてみたい」
「そうか、あいつも・・・・・・」
シックは少し考える素振りを見せた。
その後、決意が固まった顔をして、こっちを正面から見る。
「先生には私の昔の話を聞いてほしい。不快に思ったらいつでも言って」
「ああ」
俺はシックの過去を聞くことになった。
「私が学校に来た理由は、モンデから聞いたとおりで、強くなりたいから。でも、強くなりたい理由があるの。私は、小さい頃に虐められていたんだ。理由は闇属性が使えるから。人の形をした魔族だなんて、罵られたこともある」
シックの話を聞いて驚いた。
闇属性が疎まれていることは何となく聞いていたが、シックは実際に被害を受けた人だった。
「だからそれが嫌で、勇者になろうと志した。勇者になって、みんなの役に立てるなら、私の闇属性がみんなに受け入れられるんじゃないかって。だから、妥協なんてできない。早く強くなりたいと思ってここまで頑張ってきた。でも、先生と悪魔の戦いを見て、勇者ってのは桁違いだって思わされた」
現実は厳しいと感じたのか、シックは諦めの表情をしている。
「でも、先生も闇属性の勇者だからさ。私には無理かもしれないから、先生に私の夢を叶えてほしい。闇属性の私が生きやすい世界にしてほしい」
シックは心が折れてしまっているようだった。
シックの夢は、俺の今の目標と同じだった。
ただ、俺は良い意味で現実を見ないまま強くなることができたが、シックはそうではなかった。
「仲間を失って、魔王討伐を一時断念した、今の俺の目標は、闇属性を人族に浸透させることなんだ。勇者になった今でも、闇属性というだけで俺のことをよく思わない人はいる」
「勇者でも・・・・・・」
シックはショックを受けていた。
でも、彼女に立ち直ってもらうためには、ある程度俺の話もしないといけないと思ったから仕方がない。
「俺の今の目標はシックと同じだ。闇属性の現状を変えたい。でも、俺一人が勇者になるだけじゃダメだった。そんな中、俺は闇属性で強くなりたいという生徒に出会えた。その存在は俺にとって大きいんだ」
「私が?」
「ああ。もちろんシックも、モンデもだ。人族の役に立つ、闇属性の人族がもっと多ければ、きっと人族の持つ偏見を変えることができるようになるだろう。シック一人じゃ、辛いと思ったかもしれない。心が折れそうかもしれない。でも一人じゃないんだ」
「そうか。私、自分一人で頑張らなきゃって思ってて。それが無理なら、もう自分で夢を叶えるのは諦めるしかないって思っちゃってたんだ・・・・・・」
「俺の夢もシックの夢も同じ。モンデの夢だって、人を守れるように強くなりたいって言っていた。それは俺たちと似ている。だから、共に頑張れる仲間と、頼りになれる先生と一緒に、頑張ろう」
俺は、本心で話した。
確かに俺は、自分の都合だけで生きてきたかもしれない。
でも、魔王城の魔族と出会って、闇属性の生徒と出会って、俺は俺以外を大切にしたいと思えるようになった。
俺を受け入れてくれる存在、俺と同じ境遇で苦しんでいる存在、それを無視してしまっては、心から居心地のいい場所を見つけることなんてできない。
「先生、今日は本当にごめんなさい。私、一回挫折しただけで、心が折れてたみたい。でも、強くなるんだったら、その心の弱さも克服しなきゃダメだよね」
シックの顔にはもう曇りが見えなかった。
もう心配する必要はないだろう。
「私、努力し続けるから。私とモンデと先生の三人で、三人の夢を叶えるために。それに、勇者の夢を叶えたなんて、私を虐めてきた奴らを見返す、最高の実績だよ。だから・・・これからもよろしくお願いします」
シックは深く頭を下げた。
それを見て、さらに決意が固まった。
先生を頼ってくれる生徒の気持ちを、無下にするわけにはいかない。
「それじゃ、学校に行くか」
「はい!」
俺とシックは寮を出て、モンデがどこに居るか探すために、学校内を探した。
俺が最初に授業をした演習場へ行くと、そこにはモンデが居た。
集中して自主練習をしている。
俺とシックが演習場に入ったのを見ると、急に明るい顔になって、こっちへと走ってきた。
「シック、来たのか!一人で落ち込んでないかと心配だったんだぜ」
「うるさい。モンデだってどうせ落ち込んでたんでしょ」
「そ、そんなことは!」
「動揺してるのがバレバレ。図星みたいね」
モンデにもシックにも笑顔が戻っていた。
「やっぱり一人じゃ、寂しいしさ。ライバルだってほしいんだ、俺。だから、これからも一緒に頑張ろうぜ」
「うん、私も気づいたんだ。一人で頑張らないといけないと思っていたけど、そんなことはないって。一緒に頑張ろうね」
モンデとシックは固く握手をした。
今回、落ち込んだ二人と話しているときに、彼らの過去の話を聞いて思ったが、俺は二人のことをまだまだ知らないと感じた。
授業ばかりで、彼ら自身のことを聞いたり、俺の話をしたりすることはほとんどなかった。
せっかく三人の想いが一致した良い機会だし、これを機に、二人と仲を深めたい。
「よし、今日は授業なしだ!初の実践演習の成功を祝って、遊びに行くぞ!」
俺とモンデとシックの三人は、繁華街へ遊びに行くことにした。




