第二十二話「強き者と弱き者」
コルソンの襲撃があった翌日も、二人の授業のために学校へ行った。
しかし、その日はモンデしかおらず、シックは居なかった。
そのモンデもひどく落ち込んだ様子で、授業に身が入っていない。
やはり昨日のことのせいだろうか。
今居ないシックのことは、後で話を聞くとしよう。
まずはモンデに話を聞いてみることにした。
「今日の授業はもう終わりにしよう。集中できていないみたいだしな。話をしよう」
「・・・・・・すみません」
モンデは見るからにふさぎ込んでいた。
俺は、校庭にモンデを連れていき、そこのベンチに一緒に腰かけた。
それまでモンデはずっと沈黙だった。
「今日ずっとそんな調子なのは、昨日のことか」
「・・・・・・はい」
いつも俺と話すときは、目を輝かせてこちらを見続けているが、今はずっと下を向いてしまっている。
相当深刻みたいだ。
「あの悪魔は確かに強かった。でも、俺が守るから、心配する必要はない」
俺は、モンデが安心できるように、とりあえず言葉をかける。
「俺、この学校に来たのって、みんなを守れる人になりたいからって言ったじゃないですか」
モンデは、突然初対面の時の話をした。
彼が立ち直るヒントが見つかるかもしれないと思い、俺は黙って彼の言葉を待った。
「小さい頃、俺は魔族に襲われたんです。俺も母さんも戦うことができなくて、父さんは家を空けていて。母さんは俺を庇って逃がしてくれて。近くの戦える大人を呼んで戻ったころには、もう母さんは殺されてたんです」
モンデは淡々と話し続ける。
「俺は弱かったから、どうすることもできなかった。俺が強かったら、母さんを守ることができた。それから、俺は強くなりたいと思って、育成学校に入ることを決めたんです。だけど・・・・・・」
モンデの声は震えていた。
「あの悪魔に襲われて、俺は完全に無力で、先生に守ってもらうことしかできなかった!最近はちょっと強くなれたと思っていたけど、やっぱり俺は全然誰かを守れるような人間じゃなかったんです!」
モンデは感情が昂って、大声を出した。
目には涙が浮かんでいる。
「不安なんです。俺はいつまで経っても先生に守られっぱなしになっちゃうんじゃないかって。誰かを守るために努力しても、もしいつまでも守られる人間だったらと思うと、怖くって・・・・・・」
モンデは唇を噛んで泣いていた。
彼は、誰かに守られるような人間は、誰かを守ることができないと思ってしまっているようだ。
でも、それは違う。
「モンデ、お前は誰かに守られている人間は、誰かを守ることができないと思っているだろうが、それは違う。確かに、俺は勇者として、多くの人を守ってきたが、俺だって誰かの助けが必要な時は幾度となくある」
「え、先生でも・・・・・・?」
モンデは驚いた表情をした。
「悪魔に襲われたとき、助けてくれた少女がいるだろう。あいつは俺の補佐をしてくれる人なんだが、あの場で二人を助けるためには、彼女の助けが必要だった。それに、今はもう死んでしまったが、魔王討伐の旅をしていた時は、仲間が居た。俺一人の力では無理だからだ」
人族で最強と呼ばれていても、俺一人でやれることには限度がある。
そのことがモンデに伝わってほしい。
「努力をして、強くなっても誰かに守られる人間のままなのが怖いと言ったな。心配するな。俺だって守られる人間なんだから。だけど、それでも強くなれば、人を守れるようになることは事実だ。だから、本当に強くなりたいと願うなら、その努力は無駄になんてならない」
俺はベンチから立ち上がり、モンデの方を向いて、右手を出す。
「お前が誰かを守れるようになるまで、俺はお前を守る。そして、強くなったときには、俺やみんなを守ってくれ」
「先生が言うなら、きっとそうなんでしょうね・・・・・・」
モンデは俺の右手を、彼の右手で握り、ベンチから立ち上がった。
「ありがとうございます、先生。俺、強くなれるように頑張ります。守られる人間は何も守ることができないだなんて考えは、もう捨てました。今はまだ実力が足りないけど、多くの人を、先生のような強い人も守ることができるようになります」
先ほどまでの、沈んだ表情のモンデは居なくなっていた。
決意に満ちた目をしている。
彼の気持ちが成長したのを感じる。
モンデは立ち直ることができた。
次は、シックのところに向かわなければならない。
「モンデ、シックはどこに居るか分かるか?会ってみようと思うんだ」
「シックは多分寮に居ると思います。あいつ、あんまり学校と寮以外の場所に居ないんですよ。部屋は分かりますか?」
「いや、分からない。教えてくれ」
「分かりました」
俺はモンデからシックの部屋を教えてもらった。
「先生、シックって俺と似てて、強くなりたいって思ってこの学校に来たんです。だから、あいつの気持ちちょっと分かって・・・・・・、心配なんです」
モンデは心配そうな顔をしている。
俺はシックがこの学校を入学経緯を知らないが、モンデは知っているようだ。
「ずいぶんと仲良くなったみたいだな」
「ええ、一応同じ先生に教えてもらっているし、闇属性の生徒は他に居ないし・・・・・・、切磋琢磨できる仲間が居ないと寂しいですしね」
「仲間が居ることは大事なことだ。大切にしろよ」
「はい!」
俺はモンデと別れて、シックの寮の部屋へと向かった。
シックの部屋の前に着いた俺は、ドアをノックした。
「レイスだ。シック、居るか?」
声をかけると、部屋の中から少しだけ物音がし、その後にドアが空いた。
「先生、何か用?」
シックは明らかに顔色が悪かった。
モンデと同様、ふさぎ込んでいるのが分かる。
「学校に来てなくて心配したんだ。もしよければ、話がしたい」
「ちょっと部屋の片づけするから、外で待ってて」
そう言って、シックは一度部屋に戻った。
どうやら、部屋の中で話をすることになりそうだ。
数分待った後に、中からシックが出てきた。
「入っていいよ」
シックに呼ばれて、俺は部屋の中に入った。




