第二十一話「ファースト」
モンデとシックに闇属性の扱いを教えてから、二週間ほど経った。
二人の成長は目に見えるほどで、遠隔操作までは行かずとも、武器や身体に闇属性を付与することができるほどだった。
この二週間、闇属性の質を上げる訓練を、ひたすら行った賜物だ。
「二人とも、ハッキリと分かるほどに成長をしているな。今日はちょっと実践演習の方に行ってみようと思う」
「はい!」
「はい」
モンデは褒められたことと、次のステップに進めたことを、うれしそうにしながら、返事をした。
それに対してシックは、喜んだ表情は見せず、真面目な顔のままだった。
この対照的な二人にも、もう慣れてきた。
俺は二人を連れて、王国のはずれの山へと連れていく。
そこは、人族が魔族に襲われているから対処をしてほしいと、学校側へ依頼されていた場所で、学生たちは、そういったところで実践演習を行うことが、この学校の授業の一環だ。
魔族に困っている人は救助をもらい、生徒たちは実戦経験を積むことができるという、両方の利益が一致する形だ。
「今回の目的は、実際に魔族と戦って、実践経験を積むこと。武器に闇属性を付与することはできるようになったし、一年の段階で、最低限の戦闘はできるようになっているだろうから、落ち着いてやれば問題ないはずだ」
二人は無言で頷いた。
いつもは、目を輝かして俺の授業を受けているモンデも、真剣な表情なシックも、緊張のせいか、強張った顔をしていた。
「それじゃ、俺が先頭に立って、魔族の探索をする。周囲の警戒を怠らないようにして、何か異変を感じたら、まずは俺に声をかけるように」
そうして、俺たちは実践演習を始めた。
実践演習になるような依頼は、知性がなく、弱い魔族が対象のものが多く、学生たちだけでも解決できるようなものばかりだ。
今回は、俺も居るし、二人に警戒を任せているが、万が一に俺の意識外からの不意打ちにも備えて、アイリスにもこの演習を見守らせている。
本人は見えないが、彼女のことだから、きちんと仕事をこなしてくれるだろう。
俺が先頭で、その後ろに二人がついてくる隊列で、山の中を探索していると、小さなゴブリンが居た。
依頼の討伐対象に違いない。
「よし、あれが目標だな。教えたことは覚えているか?危ないと思ったらすぐ助けるが、極力自分たちの力だけでやってみろ」
「「はい!」」
実際に魔族と戦うことを前に、気合が入ったのか、二人はしっかりとした眼差しで目標を見定める。
俺が教えたことは、相手の動きをしっかりと見ること、攻撃をする際は相手がどう対応してくるか、守る際はどういった攻撃をしてくるかを、把握することが大事ということ。
そして、常に相手を飲み込むという意識を絶やさないこと。
これこそが、戦闘における基本だと俺は思っている。
モンデとシックは、自分の剣に闇属性を付与し、構える。
ゴブリンは棒立ちでこっちを見ながら動かない。
「うおおおーーー!」
埒が明かないと思ったのか、モンデは剣を大きく振りかぶって、ゴブリンめがけて振り下ろした。
ゴブリンは、それをすんでのところで、後ろに下がって避ける。
「イアーー!」
お互いが一歩距離を取った場所で、次に仕掛けたのはゴブリンの方だった。
右手で拳を作り、モンデに向かってまっすぐパンチをしてきた。
「ふっ!」
モンデはしっかりと剣で受け止める。
闇属性で付与された剣なので、衝撃も緩和されているのか、モンデは平気そうだった。
そして、それまで静観していたシックが、その隙を逃さず、ゴブリンに切りかかる。
「はぁぁぁぁっ!」
シックはゴブリンの腹を、左から右へと切ろうとする。
無防備のゴブリンに、シックの剣が届く。
「イエーーー!!」
シックの腕力にとっては、ゴブリンの皮膚は固く、打撃になってしまったが、その一撃でゴブリンは戦意喪失しているように見えた。
ゴブリンは、剣を構えて、いつでも攻める準備ができている二人を見て、反対の方を向いて、そのまま走って逃げていった。
後は、アイリスがあのゴブリンを保護して、レブリンたちの配下に置くように、手配してくれるはずだ。
何はともあれ、今回の依頼はモンデとシックの二人によって成功することができたと言えるだろう。
「や、やった・・・!」
「私、魔族を退治できたんだ・・・」
初めての実践演習が成功し、二人とも握りこぶしを作って、喜びを噛み締めていた。
「レイス先生、俺魔族を倒せたよ!強くなったって実感できた!」
「レイス先生、ありがとう。私、少し感動してる」
二人ともうれしそうな表情をしていた。
シックまでもが、いつもより柔らかい表情をしていて、俺もうれしくなった。
「二人ともよくやったな!初の実戦演習の成功を祝って、今日は食事でも奢ろう!」
俺たち三人は、学校へと帰ろうとした。
しかし、そこで突然、別の魔族が姿を現した。
「ハーッヒャッヒャッヒャッヒャッ!釣れた釣れた!おもしろそーなのが釣ーれたーーぁ!」
声は上の方からした。
その方向を見ると、悪魔が愉快に笑いながら、空を飛んでいた。
悪魔と言っても、アイリスやマモンのように人族に似た姿ではなく、赤色の肌に赤い目、尖った歯や耳を持っていた。
突然の出来事に、俺たちが状況を理解する前に、その悪魔は動き始めた。
「とりあえずくーらえ!せいぜい耐えて見せろよっ、ヒャッヒャッヒャッ!」
すると、悪魔の周囲で、急激に風が強くなってきた。
「お前ら!!俺の後ろに隠れろ!!!!」
危険を察知し、二人を俺の後ろに立たせる。
そのあとすぐに、悪魔から尋常じゃない勢いの突風が、俺たちを襲いかかってくる。
「くそっ!」
俺は急いで、自分の前方に大きな闇を作って、その突風を防ぐ。
俺の周囲の地面は、強力な突風によって、草がはげてしまった。
完全に防ぎきることはできたが、もし防御が間に合っていなければ、三人とも命が無くなっているほどの強大な威力だった。
「へぇ、やるじゃーん」
悪魔は、満足そうな顔でこっちを見る。
俺は後ろの二人を見ると、モンデもシックも酷く怯えていて、身体を震わせていた。
俺一人ならまだしも、二人を守りながら戦いは、正直言って勝てるかどうか不安だった。
悪魔の方を再度見ると、ニヤニヤとしているだけで、何かをする様子はなかった。
現状を変えるには、今どうにかするべきだろう。
「アイリス!来い!」
「はいっ!」
俺が呼ぶと、アイリスはいつの間にか、俺の後ろの二人の傍に現れた。
「その二人をこの場から逃がしてくれ。とりあえず学校まで連れて行けばいい」
「了解ですっ」
アイリスは敬礼をして後に二人の肩を掴み、その場からフッと消えた。
相変わらず原理は謎だが、この場において非常に助かったことは間違いない。
何はともあれ、この場には俺と悪魔の二人だけになった。
「おい、お前は何者だ。敵だと分かったら容赦なく殺すぞ」
俺は威圧として、凄んでみせる。
それでも、悪魔は飄々とした態度だった。
「適当に弱そーなのを使って人族襲わせて、誰か面白いやつ来ないかなーって思ってたら、まさかの闇属性使える人族が釣れちゃってさぁ!居ても経っても居られず、出てきちゃったわけよ!ハーッヒャッヒャッヒャッ!」
悪魔は顔を押えて大声で笑う。
はっきりとした意図は見えないが、間違いない、こいつは確定で俺の敵だ。
俺は剣を構えて、どう相手を倒すかを、頭の中で考えていた。
しかし、悪魔は唐突に両手を上げた。
「いーや、今はやっぱやるのやーめた。俺もそっちの情報は少ねーからな。後でじっくり楽しませてもらうぜ、ヒャッヒャッヒャ!」
空を飛んでいる悪魔は、さらに高度を上げ、遠くへ行ってしまいそうだった。
「待て!」
「待たねーよ!あ、俺の名前はコルソン!覚えとけよなー!」
コルソンはどこかへ飛んで行った。
さすがに追うことはできなかった。
詳しいことは分からないが、コルソンにとっては闇属性を使える人族が興味深い存在らしい。
向こうには、こっちを攻撃する意思があるようで、このまま放置するわけにはいかないだろう。
一度学校に戻ると、校門でアイリスが待っていた。
「お二人は寮へと戻りましたっ。ただ、ものすごく怯えていてて、ずっと何も喋らないままでした・・・・・・」
アイリスは心配そうな顔をする。
俺も二人のことが心配だ。
初めての実戦で、いきなり予定外のことが起きて、死の危険に晒されてしまったのだ。
「アイリス、あの悪魔について調べておいてくれ。名前はコルソン。知性がある魔族だが、俺を見ても闇属性の人族としか認識してないあたり、魔王城の管理下にではない気がする」
「了解ですっ」
アイリスは敬礼して、そのまま姿を消した。
コルソンもこちらの情報が無いと言っていたので、すぐに行動してくることはないだろう。
無視できない問題ではあるが、今すぐに解決できるものでもない。
その日はもう休むことにした。




