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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第三章「闇属性専門教師レイス・ディーン」
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第二十話「先生と生徒」

 朝起きて、俺はマナの食堂から出て、育成学校へと向かった。

 俺は今日から指導者になる。


 受付の人に話をすると、演習場の一つに二人とも居るから、そこに行けばいいと言われた。

 学長からは二人がどんな生徒かを聞いていなかったので、少々緊張してしまう。


 演習場に着くと、生徒が複数人居て、誰が闇属性の使い手かが分からなかった。

 どうしたものかと困っていると、人の集まりの中から、男女二人がこっちに向かって走ってきた。


「勇者のレイスさんですよね?!すでに話は聞いてます!勇者に闇属性の使い方教えてもらえるなんて、もう楽しみで楽しみでわくわくしてました!」


 嬉々として俺に話しかけたのは男の方で、黒髪の少年だった。

 二年生ということでおそらく十四歳で、身長はそれほど高くなく、身体つきも年相応だった。


 無愛想な顔でこっちに来たもう一人の女も黒髪で、長髪だった。

 こちらはこの年の女にしては身長が高く、細身だった。


「ああ、今日から闇属性についての指導をするレイスだ。卒業まで毎日付きっ切りってわけではないが、俺がここに滞在している間は、何度か教えることになると思う。よろしく」


 俺は自己紹介をして、右手を差し出すと、男の方が先に握手をしてくれ、女の方も少し遅れて握手をしてくれた。


「とりあえず、君たちの名前も教えてもらえるかな」


 男はそれを聞いて、ハッとして申し訳なさそうな顔をする。

 女の方は相変わらず無愛想な顔のままだ。


「はい!俺はモンデです!生まれも育ちもこの国です!この学校に入った理由は、小さい頃に歴代の勇者の話を何度も聞いていて、俺も魔族からみんなを守れるような強い人になりたいからです!」


 モンデと名乗る男は、早口気味に喋る。

 人を守れる強さが欲しいという理由で、この学校に入ったようだ。

 俺は軽く笑みを浮かべて、それを返事とした。


「じゃあ、次は君」


 俺は女の方を向いて、自己紹介を促す。


「・・・シックです」


 モンデとは対照に、自分の名前だけを告げた女は、シックという名前だった。

 名前以外の情報は特に話すつもりもないらしく、それ以上口を開くことはなかった。

 二人はまるで正反対の性格のように見える。


「モンデとシックだな。これからよろしく。早速だけど、授業を始めようか」


 俺は、彼らが今まで行っていた演習の担当の先生に、一言入れて、二人を連れて別の演習場へと向かった。


 向かった演習場は、主に属性による大きな力を発揮する時に使われる場所だった。

 雰囲気としては、魔王城にある闘技場に似ている。


「まずは、二人の能力を見せてもらおうか。まずはモンデからやってもらおう」


 最初に二人がどれほど闇属性を扱えるかを知っておかないと、何から教えていけばいいか分からない。

 

「は、はい!」


 モンデは服のポケットからハンカチを取り出し、右の手のひらの上に乗せ、力を込める。

 すると、ハンカチは真っ黒になった。

 正確に言えば、モンデが生成した闇に覆われている状態だが、あまり濃くなく、色が変わった程度にしか感じない。

 実力で言えば、闇属性が使えるということが発覚する段階で、扱いに関しては全然だった。


「今できるのはこれぐらいですかね」

 

 思ったよりも、闇属性に関してはまだまだで、少し面を食らったが、それを悟られないように、平然を装った。


「ありがとう、じゃあ次はシック。何かしらやってくれ」


 今度はシックの実力を見せるように促す。


「いや、私ができるのもあれぐらい。モンデと同じレベル」

 

 シックはモンデを指差して、見せるような実力ではないと答える。


「なるほど・・・・・・」


 正直言って、初歩の初歩の段階から教える必要がありそうだ。

 彼らの生成する闇の程度では、扱うというレベルにまで達していない。

 濃度や大きさを成長させ、さらに練度を上げて、遠隔操作できるようになり、行く行くは遠くの物体を飲み込めるほどになるといいのだが、それは二人の頑張り次第だろうか。


「ハッキリ言うと、二人はまだまだ初歩の段階だ。だが、俺が初歩的なことからもしっかり教えるから気にすることはない」


 二人は俺の話を真剣に聞いている。

 意欲はしっかりあるようだ。


 おそらく、二人が最初にやるべきことはイメージを掴むことだろう。

 強力な闇属性の使い手が居ないなら、どうすれば強力になれるかのイメージが湧かない。

 俺も、イル先生がイメージを説明してくれるまでは、感覚が掴みにくかった。


 思えば、イル先生は無属性者にも関わらず、闇属性のイメージを理解していた。

 実際に自分で使ってみれば、感覚をものにすることができるが、先生は感覚を持つことなく、俺がコツを掴めるイメージを教えてくれた。

 改めて、イル先生の知識や想像力のすごさを実感する。


 それはさておき、二人に闇属性のイメージを説明するため、ついでに先生としての威厳を持つことができれば、と思い、実力を見せることにした。

 演習場の隅に並べられている、演習用の人形を一つ持ち出す。


「まず初めに、闇属性がどういう力なのか理解する必要がある。俺が実践しよう」


 魔王城でリザードマンたちに見せた時のように、闇を生成し、それを人形の全身に覆い、力を込め、そして闇を消した。

 闇に飲み込まれた人形は、闇が消えるのと一緒に姿を消す。


「すげぇ・・・・・・!」


「すごい・・・・・・」

 

 モンデもシックも驚いた表情を見せていた。

 どうやら目論見通り、上手くいったようだ。


「闇属性は、対象を飲み込むというのが基本だ。物体だけでなく、属性を用いた魔法なんかも飲み込むことができる。むしろそっちの方が簡単だな。とにかく、一番重要なのは、飲み込むというイメージだ」


 俺の説明を二人は頷いて聞く。

 理解はきちんとできているようだ。

 もちろん、俺の説明はイル先生の受け売りだが。


「ということで、まず最初はそのイメージを基に、生成する闇の質を上げていくことにしよう。さっそく、さっき説明したイメージ通りにやってみてくれ」


「「はい!」」


 モンデもシックも良い声で返事をした。

 その日は、色んなものや、俺が作る魔法を二人に闇で覆わせた。

 教えていきなり上達するわけではないが、コツコツと積み重ねていけば、きっと成長できるだろう。

 

 休憩も途中に挟みながらだが、夕方までその訓練はずっと続いた。

 二人に聞いてみると、俺が教えている間は、他の授業や演習は特に受けなくてもいいとのことらしい。

 おそらく、学長の計らいだろう。

 あの人には頭が上がらないな。


「それじゃ、今日はここまで。また明日来る」


「ありがとうございました!」


「ありがとうございました」


 演習場から二人が出ていくのを見送り、俺は演習場の片づけをし、帰る準備をした。

 俺はマナの食堂に帰ろうと、育成学校を出ると、そのすぐ先にアイリスが居た。

 突然のその姿に、俺は肝を冷やした。


「ディザ様、学校に居たんですねっ」


 周りには誰も居ないことを確認したのか、俺を魔王の方の名前で呼ぶ。

 アイリスはいつもの笑顔だが、俺の方は穏やかでなかった。

 彼女にとって、俺は魔王だが、今俺は魔王討伐のための育成学校から出てきた。

 完全に裏切り行為にあたるだろう。


 俺は困惑している脳みそで、アイリスがなぜ俺がここに居ることを知っているのか、どう言い訳をすれば考えていると、先にアイリスの方から話し始めた。


「本当にここに来たのはたまたまなんですっ。ディザ様は、この学校で教師をしているんですかっ?」


 ただ単に疑問だから、質問しているように見える。

 すぐに言い訳は思いつかず、たとえ何を言ったとしても、カンの良いアイリスなら、俺が少しでも焦った話し方をすれば、何かを察してしまいそうだから、俺は仕方がなく本当のことを話すことにした。


「ああ。闇属性が扱える生徒に対して、今日から指導をすることになった。人族で俺ほど闇属性が使える者は居ないからな」


 さも当たり前のことのように、平坦な声で話す。

 直感で、そうしたほうが良いと思ったからだ。

 アイリスはそれに対して、どう答えるのか。

 もうアイリスは俺を魔王として見限って、魔王としての俺の今後の活動に、影響が起きてしまうのではないかと、少し怖い。

 

 だが、俺の予想と反して、アイリスは優しい表情を見せた。


「私が、ディザ様には闇属性を大切にしてほしい、その力を誇りに持ってほしいって言ったことは覚えてますかっ?」


「ああ」


 リトレ村に行ったときに、アイリスに俺の昔話をした時の話だ。


「私は、ディザ様が自分の闇属性に誇りを持つために、その補佐をしたいと言いましたっ。だから、ディザ様が、その力を使って、誰かの役に立とうとするなら、私はその応援をしますっ」


 アイリスは、両手でガッツポーズをした。


「・・・ありがとう」


 素直な気持ちに、俺は素直に感謝の言葉を言った。

 彼女は、俺の行動に肯定的なようだ。

 魔族や人族といった枠組みではなく、レイス・ディーンという個人で見てくれていると感じた。

 

 だが、アイリスは、俺が闇属性の力を誰かの役に立てようとしていると思っているだろうが、本当は他の人のためではなく、根底は自分のためである。

 そのことが、アイリスを騙しているように感じてしまって、心が少し傷ついた。

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