第十四話「闇属性講座」
ここ数日マトモに鍛錬ができていなかったので、今日は闘技場を使って鍛錬をすることにした。
戦える能力を衰えさせるわけにはいかないので、極力毎日身体を動かしておかないと、身体がなまってしまうかもしれない。
闘技場は広く、開けた場所であるため、好きに動きやすかったため、選んだ場所だ。
今日は、アイリスには外で用事を頼んだので、俺の傍には居なかった。
いくら補佐とはいえ、こんな鍛錬にまで付き合わせるわけにはいかないと思っていたから、ちょうどいい。
まあ、用事がないなら、普通に俺の鍛錬を見に来るだろうが。
というわけで、今日は俺一人・・・・・・なんてこともなく、リザードマンと一緒にいる。
闘技場の管理はリザードマンで、鍛錬をしたいから場所を貸してほしいと頼んだら、見学をしたい、と言ってきた。
別に、見学するなとは言わないが、城内で一人で居られる場所は、自室と魔王室しかないんじゃないだろうかと思ってしまう。
「今日は見させてもらいますぜ、俺ンとってディザ様以上の人はいねェからな」
戦闘隊長のリザは興奮しているようだ。
今日は他の戦闘員の、リズとリゼも一緒だ。
リザが戦闘隊長ということは、リズとリゼはリザよりも強くないのだろうか。
戦闘が好きな魔族がリザードマンしか居ないということで、戦闘員になっているだけの彼らは、それほど強くないので、鍛錬に付き合わせて、戦力アップするのも悪くはないかなと思うことにした。
最近は闇属性を使っていないので、今日はその鍛錬をすることにした。
ダメになってしまってもいい、訓練用の人形でもないかとリザに聞いて、それを闘技場まで持ち込んできた。
「とりあえず、シンプルなのをやっておくか」
学生時代にイル先生に教えてもらったことを思い出す。
闇属性は主に飲み込むことを得意とする属性で、精神力が重要だと教えられた。
相手より自分が劣っていると思えば、飲み込もうとする意識は弱くなり、逆に自身が相手よりも優れていると思うなら、飲み込むというイメージがしやすくなるという。
明らかに対格上に向いてない属性で、自分より上がいると思うと、強くなることを挫折してしまいそうだ。
それこそが、人族で強力な使い手が居ない理由だと、俺は推測していた。
俺の場合は、強くなりたいという意識が強すぎて、その挫折とは無縁だったが。
俺は、息を整えて、精神を集中させ、闇を生成し、それを人形へと飛ばす。
人形の全身を闇が覆い、完全に人形が見えなくなった後、魔力を込め、そして闇を消した。
そこには先まであった人形は残骸すらなく、何もなかったのと同じ状態になった。
「す、すげェ・・・・・・」
「な、なンだこれ・・・・・・・」
リザードマン達は唖然としていた。
確かに、闇属性の技術の中でも、分かりやすく、驚きやすい技だった。
「ど、どうやってンすか?全くこンなの見たことなくて・・・・・・」
リズは驚いた表情のままだった。
純粋に理屈が気になる、というよりも、目の前で起きたことを理解の範疇にしておきたいと思ったのだろうか。
「じゃあ、説明しよう。闇属性は、飲み込むことを得意とする。それは物体だけでなく、魔法のような魔力を用いたものも飲み込むことができる」
リザードマン達は、うんうんと頷く。
こうやって素直に聞いてくれると、説明しがいもあるってもんだ。
「飲み込むことができたら、それはもう闇の一部になる。まずは闇で対象を覆う。それを闇と一体化させる。そして闇を消す。このステップで対象を消すことができる」
そう言って、俺は右の手のひらを上に向け、その上に火属性で小さな火球を作り、それを闇で覆う。
「こんな感じでね」
そして、闇と一体化させ、闇を消した。
当然、そこにあった火球は消えている。
「「「おおおー!!!」」」
リザードマン達は目を輝かせて、反応する。
良い反応するな、こいつら。
気持ちが良い。
まあ、俺の説明はすべてイル先生の受け売りなんだが。
「魔法とかはまだ概念的な方だから、精神力の消耗は浅いが、さっき消した人形のように、物体を消すのは非常に疲れる。今日はもうこれ以上大技を使えないぐらいだ。普段は物体は消さないんだが、久しぶりに本気を出したかったし、今日は部下の目の前だしな」
これを見せれば、信頼度は間違いなく跳ね上がっただろう。
「すっげェー!すっげェーッす!」
リズはものすごく興奮していた。
本当にリザードマンはシンプルで良いな。
好感が持てる。
「悪いが、今日のところはもう終わりだ。俺は部屋に帰るぞ」
「「「了解!」」」」
三人とも満足そうな顔で俺を見送る。
今日は、三人には俺の力を見せることしかできなかったが、次の機会は何かしてやりたいな。
魔王室に戻ると、アイリスが待っていた。
「ディザ様っ、お仕事終わらせてきましたよっ!」
アイリスはもはや恒例の敬礼をした。
俺がアイリスに頼んだ仕事は、魔王城の管理下になく、周辺で人族を襲っている魔族が居るかどうか調べてもらうことだった。
「成果は出たか?」
「はいっ、ばっちりですっ。リトレ村という小さな村がここから少し離れた場所にあるんですけど、そこは知性を持たないオーク達に襲われているらしいですっ」
「ああ、ありがとう。頭は撫でないぞ」
先手を打っておくと、アイリスは口を尖らさえて拗ねた。
「ところで、その情報は何に活かすんですかっ?」
アイリスは拗ねた顔をすぐ切り替えて、質問してくる。
確かに、わざわざ知性のない魔族が、人族を襲っている場所を調べてほしいだなんて、何をするか想像がしづらいかもしれない。
「ああ、その魔族を退治しようと思う。殺すまでは行かなくてもな」
「た、退治ですかっ?」
未だに何を言っているか分からない、といった顔をしていた。
「知性のない魔族は、欲望がないんだろ?だったら、その魔族を力で制圧し、もし俺に仕えたいという欲望が生まれるのであれば、知性が付くかもしれないという実験をしたいんだ。結果が良い方向に進むなら、それは魔族にとってプラスの話だしな」
表面上、こういうことにしておけば、魔族にメリットがあると思わせることはできるだろう。
実際の目的は、勇者としての活動をしたいわけだが。
「なるほどっ、ディザ様の力に魅力を感じて、仕えたいと思っている魔族は、城内にも居ますし、知性のない魔族にも上手くいく可能性はありますしねっ」
「そういうことだな」
俺は頷くことで、それが正しいと思わせる。
アイリスは納得してくれたようだ。
「それじゃ、明日にでもさっそく出向くつもりだ。俺は準備をしてくる」
そう言って、俺は部屋を出ようと、ドアに向かっていった。
「あ、あのっ!」
しかし、アイリスは俺を引き留めた。
まあ、何が言いたいかは、分かっているが。
俺は部屋を出ずに、後ろを振り向く。
「お前も、明日付いてくるか?」
「は、はいっ!」
アイリスは満面の笑みを浮かべた。




