第百二話「街のざわめき」
「着いた着いた。この街だ」
姉貴に連れられて来た場所は、ジーラ王国の城下町だった。
ジーラ王国にはでっかい城があって、その城下町で武道大会が開かれる。
ジーラ王国はかなり大きい国で、その城下町とかあって、街の繁栄っぷりは尋常じゃない。
ヒューゼ王国にも、ほとんど劣らない。
「すごい・・・・・・」
ここ最近は小さな村だったり、そもそも人の居ない場所で過ごしていたから、人族が多く居る場所だと、つい圧倒されてしまう。
「とりあえず武道大会の参加受付だけ済ませるぞ。その後、いくらでも街を楽しんでいいから」
呆然としている俺を見て、姉貴は苦笑しながら言う。
なんだか、少し恥ずかしい気持ちになった。
「分かりました。行きましょう」
そうして、俺と姉貴は武道大会の受付を済ませに、移動した。
武道大会は、闘技場で行われるらしかった。
やはり、栄えているところなら、どこにでも闘技場はあるのだろうか。
人気の娯楽だし。
武道会は、俺は結構お固いものを想像していたけど、結局のところ、一対一でどっちが強いか競うシンプルなものだった。
技の美しさとか競い合うものだったらどうしようと、ちょっとだけ思っていたから、安心だ。
まあ、姉貴が出ろという大会だから、強さを競うものだろうとも思っていたけど。
闘技場の入り口には、武道大会の受付も行われていた。
受付の女性に参加表明すれば、もうそれで参加できるようになるらしい。
栄えた街の、大きなイベントにしては、ずいぶん気軽に参加できるものなんだな。
「すみません、大会参加希望なんですけど」
「はい、かしこまりました!お名前の方をお願いします!」
受付嬢は美人で、俺が声をかけると、ニコッと笑顔を浮かべて、対応してくれた。
思わずドキッとしてしまう。
「モンデです」
「モンデ様、ですね。受付完了いたしました。今から二時間後にまたこの受付にお越しください。集合時間に少しでも間に合わなかった場合は、参加は取り消しになりますので、お気をつけください」
「分かりました」
参加受付はすぐに終わった。
後は時間を潰すだけだ。
本当に、あっさりと受付が終了した。
二時間、好きに時間を潰そうかな。
「あたしは適当に遊んでくるよ。金は渡しておくから、モンデも時間潰しとけ」
姉貴は小さな袋から、いくらかお金を出して、俺に渡してくれた。
「ありがとうございます」
姉貴は姉貴で、遊びに出かけるようだ。
どうやら一人の時間ができるようだ。
街を好き勝手探索しちゃおう。
俺と姉貴が別れて、俺は一人で街を探索し始めた。
二時間という短い時間だから、俺は街を歩く程度にすることにした。
相変わらず、人通りの多さに驚かされる。
その人々それぞれが様々な目的でこの街を歩いていて、それぞれに夢があったり、大切な居場所があったり・・・・・・。
って、臭すぎること考えてしまったな。
とにかく、みんな幸せならそれでオッケーってことでいいや。
街の真ん中に行くと、ざわざわとした様子が見られた。
そのざわつきは、何やら不安な声色のように感じる。
何か問題が発生でもしたのだろうか。
人々は、みんな同じ方向を向いている。
自分の背の低さのせいで、その先に何があるのか、何が起きているのかを確認することができない。
「え、もう時間じゃん!」
飛んだら跳ねたりして、何とか見ようと思っていたら、ふと時計が目に入った。
もう闘技場へと戻らないといけない時間になってしまっていた。
結局何が起きているのか知らなかったのは惜しい。
武道大会が終わったら、またここに訪れて確認しよう。
誰かに聞けば教えてくれるだろうし。
「はぁ、はぁ。モ、モンデです!時間、大丈夫ですか?!」
「はい、大会参加者のモンデ様ですね。どうぞこちらへお進みください」
闘技場には、走って何とか間に合った。
同じ道を戻ればいいと思っていた油断していたが、普通に迷子になってしまった。
幸い、闘技場は目立っていたので、何とかその方向に進むことで辿り着きはしたが、急いで来たので、息も切れ切れだ。
姉貴と再会することもできなかった。
受付の人の示す方向は、観戦者とは別の道だった。
おそらく、参加者用の道なのだろう。
俺はその道を歩いて行く。
時間ギリギリだったせいか、周りに俺以外居ない。
それとも、もともと参加者が少ないのだろうか?
答えは、前者だった。
おそらく控室であろうホールへと入ると、そこは大勢の人が居た。
百人ぐらいは居るだろうか?
大柄な男や、筋肉隆々な男など、強そうな見た目の人がいっぱい居る。
この中で優勝するなんて、俺にできるのだろうか?
知り合いも居ないので、ホールの隅で次の案内を待つことにした。
この人数で優勝を決めるとなると、相当時間がかかりそうだ。
詳しいルールとかは、どうなんだろう。
「あ、あなたは、モンデさんですか?」
突然、女性の高い声の人が、俺へと話しかけて来た。
聞き慣れない声だし、誰だろうと思ってそっちを見てみたら、意外な人物だった。
「ル、ルピナス?」
「はい!以前モンデさんに助けていただいた件、本当にありがとうございました!」
ルピナスはペコりとお辞儀をし、それからにっこりと笑った。
ルピナスは、俺が旅を始めて最初に訪れた村の住人で、誘拐されてしまって、俺が助けた女の子だ。
戦えるようになったら、一緒に旅をしようという約束をしたのだが・・・・・・。
この街に居るってことは、この子もう旅に出ているのか?
ってか、武道大会に出るってことは、もう戦えるの?
「え、えっと、武道大会に出るん、だよね?」
「はい。モンデさんと一緒に旅したくて、毎日一生懸命頑張ってるんです!今日は今まで頑張ってきた成果を確かめるために、ここに来ました!」
ルピナスは屈託の無い笑顔を俺に向ける。
武道大会に出ようと思うぐらいなら、もう一緒に旅をしても、心配はないと思うのだけれど。
でも、それを言うのはさすがに無粋か。
「そうなんだね。一緒に頑張ろう」
「はい!」
俺が右手を出すと、ルピナスも右手を出して、お互いに握手を交わした。
そうか、ルピナスも大会に出るのか。
正直、この屈強な男たちの中で、きちんと戦えるのだろうかと不安だ。
あともう一つ。
もし俺がルピナスより先に負けちゃって、不甲斐ない結果になってしまったらどうしようと不安だ。




