第十話「魔王&補佐会議」
結局、あなたは魔族だったっていうこと・・・・・・?
人を平気で殺せるなんて、魔族と同じじゃない。死んで当然よ・・・・・・。
お前を魔王にはさせない。必ず、お前が魔王にならずとも、幸せに過ごせる世界を作ってやる。その方法を見つけてやる。だから、俺はここでお前を止める。
「っっ!」
俺はベッドから不快な汗をかきながら、飛び起きる。
俺が自分の都合で勝手に殺した三人が、夢の中に出てきた。
善悪で考えるなら、間違いなく悪いのは俺だし、謝罪や反省をするのもおこがましいと思い、自分は悪だと思い込もうとしているが、こうして夢に出てこられると、やはり罪悪感を感じてしまう。
そう考えてるうちに、ベッドが突然もぞもぞと動き出した。
見てみると、真っ赤な小悪魔が中にいた。
「ちょ、うわぁ!」
寝ていて気付かないうちに、ベッドの中に誰かが居たことなど経験したことがないから、さすがに驚いた。
「ふにゅ・・・・・・、ディザ様おはようございます・・・・・・」
アイリスは眠そうに目をこすって朝の挨拶をする。
寝間着姿は着崩れ、肌が少しあらわになる。
羽や尻尾が無ければ、人族と勘違いしてもおかしくない風貌だ。
魔王になったのは昨日のことで、俺はその日はアイリスに寝室を案内してもらい、そこで一夜を過ごした。
魔王城には、寝食するための設備は十分に整っており、不自由なく生活ができる、もはや家のような城だった。
「いや、なぜアイリスは俺のベッドにいるんだ」
「ディザ様、まずは朝の挨拶からですよ・・・っ、ふぁ~あ」
「・・・・・・おはよう」
アイリスはいつも俺をからかっているのか、変わった距離感で接してくる。
「一人で寝るのが寂しいので、つい来ちゃいましたっ」
こんな風に。
「何か要求があるなら先に言ってくれ。そうすれば俺も対応できるから」
「はいっ。それじゃあ毎日一緒に寝てください」
「・・・・・・考えておく」
調子が狂いそうだ。
しかし、今日はアイリスに伝えいことがあったので、今回に限っては好都合だった。
「俺は人族以外のことをほとんど知らない。今日は魔族についてある程度の知識をつけようと思う。付き合ってもらうぞ」
「はいっ!」
頼られることがうれしいのか、アイリスは笑顔で返事をする。
アイリスに部屋から追い出し、朝の身支度を終わらせ、待ち合わせ場所にしていた、元魔王が居た部屋へと移動する。
便宜上、魔王室と呼ぶことにしている。
この部屋は、アイリスの許可なしには他の魔族は入室することができず、落ち着きやすい場所になっている。
許可さえ出さなければ、本当に誰も入らないのか、と聞いたことがあるが、
「誰も入れないようにしてますっ。入ろうとしても無理ですねっ」
と答えられた。
入ろうとしても無理ということがどういうことなのかよくわからず、詳しく聞いてみようとしたが、その時ははぐらかされた。
アイリスの言動はたまに謎だ。
俺は部屋にただ一つある椅子に腰かけ、その前にあるデスクに手を置く。
アイリスは、デスク越しに俺の前に立った。
「本題の前に、俺が魔王になっていることは、魔族全体に知らせる必要があると思う。その方法についての意見を聞きたい」
魔王になった日、支配者として自分の存在を魔族全体に知らせる必要があると思った。
昨日は、散々に調子を狂わされて、一度休みたい気分だったので、特に何か行動をしたわけではなかった。
なら、今日まず最初にやることは、魔王になったという認識を魔族全体に知らせること。
また、すべての魔族が俺に従うとも限らず、その対応も考えないといけない。
だから、魔族に関しては俺より何倍も詳しいアイリスに、参考になりそうな話を聞きたかった。
「それなら昨日のうちに済ませましたっ!ディザ様はもう自他ともに認める魔王ですよっ」
「え?」
しかし、アイリスはあっさりとした口調で、俺の今まで考えていた時間をすべて無駄にした。
「新たな魔王誕生なんて大事なこと、早めに終わらせたほうが良いと思いましたっ!姿形まできちんと見せているので、魔王城で他の魔族と出会っても、何の問題も起きないと思います」
「なんというか・・・・・・有能だな・・・・・・」
「えへへ~、ディザ様の補佐ですからねっ」
アイリスはうれしそうに微笑む。
デスクに乗り出し、頭を差し出してきたので、もしかしたら撫でろという意味かもしれないが、無視した。
なんだかこのままでは完全に言いなりになってしまいそうに感じた。
無視されたアイリスは少し頬を膨らませて、こちらを睨んだ。
「じゃあ、俺が魔王だということを知らせた話を詳しく聞かせてもらえるか?どういう手段で魔族全体に広めたのか、反対する者はいなかったか」
アイリスはデスクに乗り出した姿勢から、元に戻って、話を始めた。
「まず魔王城に住む魔族について説明しますねっ。現在の魔王城は、魔族全体で見て、優秀な知性を持っている者を集めています。そういった者は、だいたい同系統の生物の部下を持っていて、魔王城からは上級の設備を提供して、その代わりに、ある程度の仕事と、彼らの持つ情報をもらっている形になっています」
「簡単に言えば、エリート揃いってことか?」
「そうですっ!ここにいるゴブリンだったりスライムだったりは、その中でのトップクラスの存在になりますね」
確かに魔王城の施設は、人族の生活で考えても、優れたものが多い。
そういった生活に憧れる魔族は少なくないらしい。
また、部下を持つようなエリートが集まるのならば、それらから情報を得ることで、結果魔族全体の情報をかき集めやすい。
結構しっかりとした仕組みのように思った。
「逆に、こちらから情報を拡散するように伝えれば、その同系統の魔族全体に伝わるようになっているんですっ。だから私は昨日、魔王城内に、ディザ様が魔王になったこと、ディザ様の容姿を伝え、そのことをそれぞれの部下に伝えるよう、伝令を出しましたっ。もちろん知性を全く持たず、誰かの下についてるわけでもない野良魔族にはそのことは伝わりませんが、支配構造上、そもそも魔王様の管理下に置いていない存在なので、関係のない話ですねっ。あと、反対する者はいなかったかという話ですが、そもそも今の魔族は優秀な支配者を求めていたので、前の魔王より強い人が魔王になったと伝えたら、みんな納得しました」
アイリスは説明を終えた。
彼女は、魔族の支配構造を完全に理解していて、そしてそれを活かし、必要であろうことを迅速に済ませたというわけだ。
魔族の中では知力が高いほうらしいが、確かに素晴らしい能力の持ち主だと思った。
「なんというか、前の魔王が居なくなったあと、本当にアイリスがボスとしてやっていたんだなと思うよ」
「えへへっ、ありがとうございますっ」
再び、アイリスは頭を差し出してきたので、また無視をする。
しかし、さっきの話を聞いて疑問に思ったことがある。
「アイリスは、俺の姿を"見せた"と言ったが、いつどうやって見せたんだ?」
「いつ、はもちろんディザ様が魔王になったと伝えたときに一緒に、ですね。方法は・・・・・・」
アイリスは片目を閉じ、右の人差し指を自分の唇に当てた。
「秘密ですっ」




