幕間
「不愉快だ!」
僕は強い。
僕は強いはずだ。
先天的な才能にも恵まれているし、後天的な技術も身についている。
そこらの人族はもちろん、魔族のワーウルフだって圧倒してきた。
なのに、このざまはなんだ。
サノンにも実質負けていたあいつは、とんでもない力を手に入れていた。
僕の攻撃が全て無力化されてしまった。
まるで、僕の全てを否定するかのようだった。
世界中、全ての存在は、僕の強さを証明するもので無ければならない。
どれほど相手が強かろうと、僕はそれを上回って、本当に強いのは僕だという実感を得たいんだ。
なのに、なのに、あいつは・・・・・・。
「違う!違う!!!」
今考えたこと、全部払拭だ。
僕は強い、間違いない。
次会った時は、必ず殺す。
確かに強い相手かもしれない。
だけど、強ければ強いほど、僕の強さの証明になるんだ。
僕は自分の家へと帰宅した。
とにかく今は傷の治療のため、しばらく安静にしなければならない。
さっきの戦いで、左肩の上部が完全に無くなってしまった。
これでは、日常生活で精一杯だ。
闇で消された部分は、治るだろうか・・・・・・?
「おかえり、イーニ!って、どうしたの?!」
家に入るや否や、サノンが迎えてきた。
サノンは、以前僕の家に来てから、ずっとこの家に住み込んでいる。
超上会としての働きも大してせず、家を出る時は、買い物に行く時ぐらいだ。
魔法を使うことも、随分見なくなった。
「勇者だが魔王だかにやられた。止血だけはしてある」
「ちょっと待ってて!すぐ治療するから!」
サノンは小走りで家の奥に行った。
おそらく救急箱でも取りに行ったのだろう。
サノンはやたらと俺に尽くす。
家に帰れば食事が用意してあるし、鉛玉やナイフが不足してきたと思えば、補充されている。
「お待たせ、椅子に座ってて」
サノンは救急箱を持って、戻ってきた。
俺が椅子に座ると、サノンは救急箱から消毒液とガーゼと包帯を出した。
消毒液を俺の肩につけ、それから傷口をガーゼで押さえて、包帯をぐるぐると巻いた。
サノンは多種多様な属性を高水準で使えるが、光属性は使えないらしく、回復魔法も使えないらしい。
そもそも希少な属性であるから仕方がないが、一流の魔法使いにしては、随分原始的な治療法だ。
「ねぇ、イーニ。話があるの」
「何?」
サノンが急に深刻な語り口で話しかけてきた。
正直、今は気分が悪いから、さっさと休みたい。
けれど、わざわざ話を聞かないほどではないから、一応何の話かは聞いておく。
「もう戦うのはやめにしてさ、私と一緒に平穏に暮らさない?」
「は?」
前言撤回。
何をふざけたことを言い出すんだ、この女は。
「私、イーニが心配だよ。こんなに深い傷を負って。もう戦いなんて辛いだけだよ」
さっきから何を言っているのか意味がわからない。
ただただ、不愉快な言葉が羅列されていることだけが理解できる。
「私、イーニと一緒に過ごして気づいたの。イーニのことが好きだって。好きな人が傷つくところ、もう見たくない。私と一緒に、静かに暮らしてほしい。血を流すこともなく、幸せに暮らしたい」
サノンは穏やかな表情で、僕の手を取る。
ムカつく、イライラする、不愉快だ。
「あのさ、気持ち悪いんだよ」
「イーニ・・・・・・?!」
サノンは急激に顔が青ざめる。
「僕が君のこと気に入っていたのは、3年があったからだ。自分の姉のことを狂気的に愛していて、その仇を殺したい欲に満ちていて。ところがどうだ、今のサノンは。姉への愛は消え失せ、その狂った愛情を今度は僕に向ける?やめてくれ」
「ご、ごめんイーニ・・・・・・。でも、私イーニが心配で・・・・・・」
「それも気持ち悪いんだよ。僕のことが心配?僕がどういう人間か分かってる?僕にとって戦いはすごく大切なことなんだ。それなのに、心配だから戦うのをやめてほしい?僕のことを愛してるくせに、僕の一番大切なものを奪おうとするなんて、どんだけ自分勝手なんだい君は?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいイーニ・・・・・・」
サノンは今にも泣き出しそうだった。
だけど、そんなことはどうでもいい。
信念を失った、腑抜けたゴミ人間のことなど、どうでもいい。
「二度とこの家に来るな。今すぐ出て行け」
「えっ・・・・・・」
「同じ場所に居るだけで不愉快だ。早く目の前から消えてくれ」
「全部謝るから!私が全部悪いから!ごめん、イーニ!本当にごめんなさい!」
「その声、耳障りなんだよ」
「イーニ・・・・・・」
サノンは完全に絶望した表情へと変わり、それから一言も発することはなかった。
重い足取りで家から出て行く。
ようやく静かになった。
どうして、自分の家でもっと不機嫌にならないといけないのだろうか。
ようやく落ち着ける時間が訪れた。
傷が治るまでは、しばらく大人しくするしかなく、あの男と戦うことができないのがもどかしい。
だが、傷が治り、完全に動けるようになってからは、もう容赦はしない。
今のうちだけ、夢を見せてやる。
次こそ、必ず殺してやる。
僕の方が才能に恵まれていて、強いということを証明してやる。




