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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第八章「人魔和平委員会」
108/175

幕間

「不愉快だ!」


 僕は強い。

 僕は強いはずだ。

 先天的な才能にも恵まれているし、後天的な技術も身についている。

 そこらの人族はもちろん、魔族のワーウルフだって圧倒してきた。


 なのに、このざまはなんだ。

 サノンにも実質負けていたあいつは、とんでもない力を手に入れていた。

 僕の攻撃が全て無力化されてしまった。

 まるで、僕の全てを否定するかのようだった。

 

 世界中、全ての存在は、僕の強さを証明するもので無ければならない。

 どれほど相手が強かろうと、僕はそれを上回って、本当に強いのは僕だという実感を得たいんだ。

 なのに、なのに、あいつは・・・・・・。


「違う!違う!!!」


 今考えたこと、全部払拭だ。

 僕は強い、間違いない。

 次会った時は、必ず殺す。

 確かに強い相手かもしれない。

 だけど、強ければ強いほど、僕の強さの証明になるんだ。


 僕は自分の家へと帰宅した。

 とにかく今は傷の治療のため、しばらく安静にしなければならない。

 さっきの戦いで、左肩の上部が完全に無くなってしまった。

 これでは、日常生活で精一杯だ。

 闇で消された部分は、治るだろうか・・・・・・?


「おかえり、イーニ!って、どうしたの?!」


 家に入るや否や、サノンが迎えてきた。

 サノンは、以前僕の家に来てから、ずっとこの家に住み込んでいる。

 超上会としての働きも大してせず、家を出る時は、買い物に行く時ぐらいだ。

 魔法を使うことも、随分見なくなった。


「勇者だが魔王だかにやられた。止血だけはしてある」


「ちょっと待ってて!すぐ治療するから!」

 

 サノンは小走りで家の奥に行った。

 おそらく救急箱でも取りに行ったのだろう。

 

 サノンはやたらと俺に尽くす。

 家に帰れば食事が用意してあるし、鉛玉やナイフが不足してきたと思えば、補充されている。

 

「お待たせ、椅子に座ってて」


 サノンは救急箱を持って、戻ってきた。

 俺が椅子に座ると、サノンは救急箱から消毒液とガーゼと包帯を出した。

 消毒液を俺の肩につけ、それから傷口をガーゼで押さえて、包帯をぐるぐると巻いた。

 サノンは多種多様な属性を高水準で使えるが、光属性は使えないらしく、回復魔法も使えないらしい。

 そもそも希少な属性であるから仕方がないが、一流の魔法使いにしては、随分原始的な治療法だ。


「ねぇ、イーニ。話があるの」


「何?」


 サノンが急に深刻な語り口で話しかけてきた。

 正直、今は気分が悪いから、さっさと休みたい。

 けれど、わざわざ話を聞かないほどではないから、一応何の話かは聞いておく。


「もう戦うのはやめにしてさ、私と一緒に平穏に暮らさない?」


「は?」


 前言撤回。

 何をふざけたことを言い出すんだ、この女は。


「私、イーニが心配だよ。こんなに深い傷を負って。もう戦いなんて辛いだけだよ」


 さっきから何を言っているのか意味がわからない。

 ただただ、不愉快な言葉が羅列されていることだけが理解できる。


「私、イーニと一緒に過ごして気づいたの。イーニのことが好きだって。好きな人が傷つくところ、もう見たくない。私と一緒に、静かに暮らしてほしい。血を流すこともなく、幸せに暮らしたい」


 サノンは穏やかな表情で、僕の手を取る。

 ムカつく、イライラする、不愉快だ。


「あのさ、気持ち悪いんだよ」


「イーニ・・・・・・?!」


 サノンは急激に顔が青ざめる。


「僕が君のこと気に入っていたのは、3年があったからだ。自分の姉のことを狂気的に愛していて、その仇を殺したい欲に満ちていて。ところがどうだ、今のサノンは。姉への愛は消え失せ、その狂った愛情を今度は僕に向ける?やめてくれ」


「ご、ごめんイーニ・・・・・・。でも、私イーニが心配で・・・・・・」


「それも気持ち悪いんだよ。僕のことが心配?僕がどういう人間か分かってる?僕にとって戦いはすごく大切なことなんだ。それなのに、心配だから戦うのをやめてほしい?僕のことを愛してるくせに、僕の一番大切なものを奪おうとするなんて、どんだけ自分勝手なんだい君は?」


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいイーニ・・・・・・」


 サノンは今にも泣き出しそうだった。

 だけど、そんなことはどうでもいい。

 信念を失った、腑抜けたゴミ人間のことなど、どうでもいい。


「二度とこの家に来るな。今すぐ出て行け」


「えっ・・・・・・」


「同じ場所に居るだけで不愉快だ。早く目の前から消えてくれ」


「全部謝るから!私が全部悪いから!ごめん、イーニ!本当にごめんなさい!」


「その声、耳障りなんだよ」


「イーニ・・・・・・」


 サノンは完全に絶望した表情へと変わり、それから一言も発することはなかった。

 重い足取りで家から出て行く。

 

 ようやく静かになった。

 どうして、自分の家でもっと不機嫌にならないといけないのだろうか。

 ようやく落ち着ける時間が訪れた。


 傷が治るまでは、しばらく大人しくするしかなく、あの男と戦うことができないのがもどかしい。

 だが、傷が治り、完全に動けるようになってからは、もう容赦はしない。

 今のうちだけ、夢を見せてやる。

 次こそ、必ず殺してやる。

 僕の方が才能に恵まれていて、強いということを証明してやる。

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