表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第八章「人魔和平委員会」
107/175

第九十九話「エゴ」

 丸一日経っても、マモンが城へと戻ってこない。

 ここまで帰ってこないなら、さすがに不安になる気持ちが抑えられない。

 もう十分すぎる時間は経ってるはずだ。

 マモンを探しに行こう。


「アイリス、昨日マモンと別れた場所まで連れて行ってくれ。さすがにあいつが心配だ」


「了解ですっ」


 アイリスも心配そうな表情になっている。

 それはそうだ。

 俺たちを逃すために一人だけ残って、それで今はマモンの安否が分からない。

 誰だって嫌なことを考えてしまうに決まっている。


 アイリスの空間転移で、俺とアイリスはマモンと別れた山へと再び訪れる。

 そこは、恐ろしいほどに静寂だった。

 俺とアイリスが歩く足音のみが、耳に響く。


 マモンは、居ないのだろうか?

 生物の気配を何も感じない。

 逃げ切っていて、諸事情で城に戻ることができず、どこかに隠れて避難している、って感じだったらいいのだが。


 マモンを探しながら歩いていると、鼻に嫌なにおいがついてきた。

 静寂を破壊するように、バサッと羽ばたく音が聞こえる。

 カラスの鳴き声が空へと響き渡る。

 目の前に、カラスが何かを囲んでいるのが見える。


 嫌な感じがする。

 気持ちが焦る。

 俺はカラスの場所へと走る。

 近づくと、カラスは逃げるように飛び出した。

 何か人だが魔族だかが、仰向けで倒れている。


 見慣れた服を着ていた。

 片足を失っていた。

 心臓部分にぽっかり穴が空いていた。

 ボロボロではあったが、見たことのある羽が生えていた。

 ほんの一日前に見たことのある仮面をしていた。

 俺はその仮面をゆっくりと外した。


 眉一つぴくりとも動かない、マモンだった。

 片足が無ければ、走って逃げることもできなかっただろう。

 羽がボロボロなら、飛んで逃げることもできなかっただろう。

 心臓が無ければ、もう生きているわけがないだろう。

 マモンは、俺たちを庇って、死んでしまったのだ。


「おい、嘘だろ・・・・・・。嘘だよな?」


 俺はマモンの身体を抱き抱えた。

 手に持っていたマモンの仮面は、カランと音を立て、地面に落ちる。

 一切力の入っていないその身体は、重力に完全に従っていて、体重全てがそのまま俺の両腕にかかる。

 肌はひどく冷たく、生の温かみは全く感じられなかった。

 死だと分かる要素ばかりが、俺に教えられる。


「そんなっ・・・・・・」


 俺に遅れて来たアイリスも、マモンの死体に気付いた。

 絶望した顔に悲しみの涙が、目の端に浮かぶ。

 

 これも全て、超上会のせいだ。

 人族にとっても、魔族にとっても害悪な存在だ。

 とうとう俺の身内の命さえ奪った。

 怒りがふつふつと湧き上がる。

 さっきまでは抑えられていた力も、徐々に制御できず溢れ出てきた。


「ふざけるなよ、本当に・・・・・・。もううんざりだ。いい加減我慢の限界だ。殺してやりたい。同じ世界に生きていて、同じ空気を吸っているだけで、もはやイライラが止まらない・・・・・・!」


 もう闇属性が漏れ始めていた。

 気分が悪い。

 ふざけた連中だ。


「ディ、ディザ様っ!落ち着いてくださいっ!」


 アイリスの声が耳に入るが、それに構う気はない。

 ただ今は一度、この溢れた力を一気に解放したい。

 そうしないと、この苛立ちが全く収まる気配がしない。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は溢れ出る闇属性を一気に解放した。

 マモンの死体と生物以外の全てを飲み込む。

 山の草木は全て消え、緑の山は土の塊へと化す。


 ありとあらゆる野生生物が、突然の現状に驚く。

 地の獣はどこに向かうでもなく、何かに逃げるような勢いで、様々な方向へと走り出す。

 空の獣は、地上に居てられないと言わんばかりに、一目散に山から離れるように飛んで行った。


 自分でも思ったよりコントロールができていることに驚く。

 無駄に命を奪おうと思わなかっただけで、この出来だ。

 自分の力のそのものと、その扱いのレベルも上がっている。

 闇属性って、感情だけでここまで強力で精密になるものなのか。


「ディザ様っ!」


 アイリスは大声で俺の名前を呼ぶ。

 マモンの死への悲しみと、俺への心配も絶頂で、涙をボロボロと流していた。


「落ち着いてくださいっ、お願いしますっ」


 アイリスは泣きながら俺に抱きついた。


 アイリスは俺に落ち着くよう言うが、俺自身は不思議と落ち着いた気持ちだ。

 冷静に自分の力を分析できるぐらいの冷静さはある。

 今の俺は、湧き上がる怒りと、客観的な視点の両方を持ち合わせている。


「問題ない。落ち着いてはいる」


 俺はアイリスの頭を撫でた。

 今の俺の言動に、信頼度など全く無いだろうが。


 マモンの死体は、一度城へと持ち帰り、土葬した。

 悪魔に土葬の概念があるのかは分からないが、人族も魔族も元は同じだったらしい。

 なら、人族と同じ弔い方をしてもいいだろう。


「ううっ、マモンさん・・・・・・」


 マモンの直属の部下たちも、マモンの弔いに来ていた。

 全員が涙を流していて、マモンの死を心から悲しむ。

 いかにマモンが仲間から愛されていたのかが、ひしひしと伝わってくる。


 マモンはただ平穏な暮らしを求めていただけだ。

 昔は人族を襲うこともしていたかもしれないが、そんな欲望は消え失せていた。

 他の幸せを奪うことなく、自分たちの幸せを築こうとしていた。


 何度も思うが、自分勝手な超上会に腹が立つ。

 何かをされたわけでは無いのに、自分のためだけに平気で誰かの命を奪い去る。

 そんなことが許されていいのだろうか。


「君はどうかな?」


 どこからか声が聞こえてきたような気がした。

 けれど、何を言っていたのか、俺の耳にはちゃんと入ってはこなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ