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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第八章「人魔和平委員会」
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第九十七話「歪」

 イーニに逃げられた後、俺は城へと戻った。

 中に入るとすぐに、仮面を外したアイリスが俺を出迎えてくれた。


「シックはどうなった?」


「以前居た部屋へと連れて行きましたっ。疲れていたのか、今はぐっすり眠っていますっ」


「そうかっ」


 とりあえず、シックは無事なようだ。

 俺は仮面を外す。


「その・・・・・・大丈夫でしたかっ?」


 アイリスは不安そうな顔を見せる。

 イーニのことだろうか。


「ああ、問題ない。俺が無駄に余裕を見せていたせいで、仕留め損ねたけどな」


「その、そっちの話ではなく・・・・・・、闇属性の力が今までに比べて、強大すぎることですっ」


 アイリスが心配していたのは、俺の覚醒した力の話だった。

 確かに、鍛錬を積んだわけでもなく、急に力が増大してしまった。

 

「闇属性って、飲み込む力が強力な属性ですしっ、不慣れなほどに強い力を手に入れてしまったら、それに自身が飲み込まれたりするんじゃないかって思いましてっ」


「そんなことがあるのか?」


「いえ、そんなケースに出会ったことがないので、分かりませんが・・・・・・」


 アイリスが闇属性に関して知らないことがあるのは珍しい。

 俺よりも扱いに長けていて、知識も経験も長年の蓄積があるというのに。


 でも、確かに自身が飲み込まれる可能性もあるかもしれない。

 実際、溢れ出る力を抑えるだけで、相当集中力を使わされていた。

 闇属性を使う時は、むしろ溢れてくる力を放出するだけで済んだが、きちんと制御できているというわけではない。

 

「多分、今は大丈夫なはずだ。心が落ち着いたからか、力もそれほど溢れ出ているわけではない。おそらく、自分の感情が高まるにつれて、力も強くなっている気がする」


「そうだったんですね・・・・・・」


 確かに自分の力ではあるが、安定した力ではない。

 もし覚醒していなければ、イーニを圧倒することはできていなかっただろう。

 感情によって左右されるという不確定要素は、この先困ることも起こりそうだ。

 必要な力なだけに、これは今後の課題になるだろう。


 だが、それよりも今一番不安なことは、マモンだ。

 マモンは俺たちを逃すために、あの場に残った。

 俺たちを逃すための行動なだけあって、こっちの問題が片付いたからって、駆けつけるわけにもいかない。

 マモンが無事に帰ることを祈るしかない。

 早く、城に戻ってきてくれよ。





「痛い!痛いぃぃぃ、わけがなかった・・・・・・。痛いわけがないんだ。なんでいつも痛いと勘違いしてしまうのだろう」


 爪で手足を切り裂いても、牙で喉を掻っ切っても、炎で心臓を焼いても、すぐに元通りになってしまう。

 致命傷が致命傷にならず、不死身と言っても過言ではない。

 光属性の回復を極めれば、ここまでになるのか。

 これでは、ただこっちが疲労するだけだ。


「逃げないのかい?さっきは逃げていたのに。一人にされそうで寂しい寂しい・・・・・・いや、寂しくないんだ。常に一緒に居ることだけが友情じゃないからね。適度に会って適度に遊ぶのが、僕は理想な友人関係だと思うんだ」


「逃げないのかだなんて、無茶なことを言う」


「初めて口を開いてくれたね!嬉しいよ!僕たちの絆を感じる瞬間だ!」


 イラトは非常に嬉しそうにする。

 こんなにうざったい反応をされるなら、やっぱり沈黙のままでいればよかった。


 とはいえ、イラトの皮肉に反応せざるを得なかった。

 光属性が極まれば、まさか移動スピードも光の速さになるとは。

 

 さすがに不死身相手はどうしようもないと思い、一度逃げようとした。

 闇のゲートも無くなったなら、ディザ様とアイリス様も城に戻ることができたということ。

 時間を稼ぐ必要ももう無くなっている。


 けれど、俺がこの場から逃げることができない。

 俺の一番の長所であるスピードを上回れては、俺になす術はない。

 まだ相手が攻撃に転じていないだけで、こいつが本気で殺しに来たら、一体どうなることか。

 不死身とスピードだけの男であればいいのだが、究極の光属性の使い手を自称するほどだし、その程度とはとても思えない。


 俺、ここで死ぬかもしれないな・・・・・・。


 とは言っても、このまま素直にやられるわけにはいかない。

 なんとか隙を作って、逃げ切るしかない。

 こいつの情報を持ち帰ることができれば、ディザ様がこいつと戦う時に役立つかもしれない。

 今勝てなくても、いつか勝つ時のために。


「楽しい時間だったけど、そろそろ終わりにしないといけないかな。君とお別れするのは悲しい悲しい・・・・・・いや悲しくはないんだ。幸せというのは誰かの犠牲の上に成り立つんだ。友達が一人減っても、それ以上の数の友達が喜ぶならそれは嬉しいことだ」


 見逃してくれる気も全く無いらしい。

 何か策を考えろ。

 頭を回せ。

 スピードは相手が上、こっちの攻撃は全部無効、相手の攻撃は未知数。

 

 いや、これはどうすればいいんだ?

 冷や汗がブワッと溢れ出る。

 自分の無力さを感じるわけじゃなく、ただただ相手が強大すぎることが、なおさら恐ろしい。

 とてつもない恐怖が、俺の脳内を埋め尽くす。

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