第九十六話「弱いことを証明する者」
「くそっ!くそったれ!くそったれ!」
イーニは鉛玉を連続で飛ばしてくる。
それらは全て、俺の急所を狙ったものだ。
玉の勢いからして、命中するのならば、どれも致命傷になりかねない。
命中するのならば。
俺はその全てを、強大な闇の壁で防ぐ。
今までならば、闇を使い続けることを考えれば、勢いを殺す程度しかできなかったが、今は違う。
飛んでくる鉛玉全てが、闇に触れた途端飲み込まれ、それから消滅する。
ただ棒立ちしているだけで、イーニの攻撃は全て無効化される。
それに、この力が一向に収まる気配もしない。
無限に戦い続けられそうな感覚だ。
闇の力を放出したならば、それと同量の闇が、また身体の中に溢れ出ているような感じがする。
そして、どれだけ時間が経とうとも、それはキープされ続けている。
「無駄だ。何回やっても。お前では今の俺には勝てない」
「不愉快、なんだよっ!」
イーニはポーチから大量の鉛玉を取り出し、それら全てを同時に発射する。
けれど、数が増えようと、威力が変わるわけではない。
全ての鉛玉が、全て等しく、俺の闇によって消滅した。
「不愉快なのは、そっちだ」
俺は闇を使って、槍状のものを作る。
その槍をイーニの顔面に向けて放つ。
「なっ・・・・・・!」
とても人間に反応することは難しい速さで放ったつもりだが、イーニは何とか身体を逸らして、槍は顔すれすれのところを通り抜ける。
「今のを避けるか。目も良いようだな。だが・・・・・」
「ぐ、うぅっ!」
イーニは左耳を痛そうに抑える。
何とか即死は免れているが、耳に少しだけ掠っている。
しかし、威力が高すぎる故に、わずかに触れただけで、掠った部分は消し飛んでいた。
「認めない、僕より強い奴が居るなんて、認めない。この世の全ては、僕の強さを証明するために存在するんだ」
この期に及んでも、イーニはまだふざけたことを言っている。
「残念だったな。俺はどうやら、お前の弱さを証明するために居るらしい」
「まだ、終わりじゃない・・・・・・!」
イーニは、今度はナイフを取り出した。
ナイフを片手に、足に力を込め、こちらに飛び込んできて、一瞬で距離を詰めてくる。
脚力が異常というわけではなく、足の裏で爆発を起こして、その勢いで超スピードで突進してきているのだろうか。
俺は右手を下から上へと振り上げ、闇の壁を下から上へと展開する。
馬鹿正直に突っ込んでくるなら、それを防ぐだけだ。
「真正面から突撃して、通用するわけがないだろう」
「それはどうかな」
イーニはニヤりと笑う。
一歩目は、俺はと真っ直ぐ突進するものだった。
二歩目で、イーニは空高く跳ぶ。
そして、空中でも爆発を起こして、先へ進む。
俺の後ろに回った後に、もう一度爆発を起こして、俺の真後ろから一直線に向かってくる。
だが、その程度。
どうってことはない。
俺は振り上げた手を、そのまま自分の後ろまで回す。
自分の周囲の闇が、ドーム状になる。
「まず、死・・・・・・っ!」
この勢いのままイーニが闇に突っ込めば、イーニ自体を闇に飲み込んで、消し去ることができた。
だが、イーニも自分の身の危険を感じないわけがなかった。
ナイフの持っていない方の手を前に出し、そこから爆発を起こして、勢いを正反対の方向に変える。
「つぅっ・・・・・・!」
爆発で勢いづいた推進力を相殺し、さらに反対方向に進むための爆発は、並の威力じゃない。
しかも、イーニは咄嗟に手から爆発を起こした。
さすがに、彼の身体に負担が無いわけがない。
イーニは苦痛に顔を歪ませている。
だが、イーニが勝手に苦しんでいようと関係ない。
俺は追撃として、逃げるように飛んでいくイーニに向かって、闇の槍をイーニの心臓に向けて飛ばす。
イーニは苦痛から一瞬の隙が生まれていて、再度爆発を起こすことは間に合わなかった。
それでも、何とか身体を動かして避けようとする。
しかし、完全に避け切ることはできず、イーニの左肩の上部が、完全に消滅した。
「がっ、ぐぅあっ・・・!」
イーニの消え失せた肩の部分から、大量に血が噴き出た。
イーニは出血部分を繊細な爆発で焼却し、何とか血が流れ出ることだけは防ぐ。
けれど、今以上の被害を防いだだけに過ぎない。
光属性でもなければ、ダメージが無くなるわけではない。
「調子に、乗るなよ・・・・・・っ!」
「調子に乗っているのはどっちだ?今の状況が分かっているのか?」
イーニはまだ強がってみせる。
いい加減もうウンザリだ。
「まだ、手はあるからな。覚悟しろよ」
わざわざ、イーニは奥の手を今から使うことを教えてくれた。
戦闘狂だとは思うが、自分の行動を事前に晒すだなんて、こいつはバカなのだろうか。
イーニはポーチからありったけの鉛玉を出し、空中に投げる。
そして、足のホルスターからも、ナイフを五本空中へと投げた。
ナイフと鉛玉全てに爆発を起こして、全部俺のところへと飛ばしてくる。
数が増えただけで、やってることは変わらない。
俺は闇の壁でそれを全て飲み込もうとする。
だが、闇で飲み込もうとした瞬間、鉛玉とナイフが全て強烈な爆発を起こした。
相当量の鉛玉とナイフが同時に爆発しては、さすがの威力だ。
俺の闇の壁と相殺して、俺の闇は消滅してしまった。
「ここぉ!」
イーニは地面の砂を掴み、それを俺へとぶちまける。
そして、その砂つぶ一粒一粒が、全て熱を帯び始めた。
イーニの掴んだ砂が、全て爆発した。
完全に不可避、防御に使った闇も消えたタイミングだった。
「はぁ、はぁ・・・・・・。砂も爆発させることは、見せていなかったからな・・・・・・。さすがに死んだか・・・・・・?」
「なるほどな、一度手に触れたものなら、何でも爆発させることができるのか?鉛玉とナイフ以外を爆発させられるとはな」
さすがに爆風が激しすぎて、砂埃が舞った。
全身に砂がかかる。
だが、爆発自体は全く効かなかった。
「なんで、無事で・・・・・・?!」
イーニは驚愕と恐怖が入り混じった表情をしている。
さすがに、余裕そうな口ぶりも消え失せている。
「なんでって、散々見てただろ。闇で飲み込んだだけだ。闇の壁が消えても、もう一度作ればいいだけだ」
今の俺の闇属性は、無限に力を出せる。
消えたのなら、もう一度出すだけでいい。
全力を出して相殺程度なら、いつまで経っても俺に勝つことはできない。
「それで、奥の手とやらは終わりか?」
「ふざけるな、ふざけるなぁっ・・・・・・!」
イーニはまた口調を強めた。
だが、足は震えていて、腰も引けている。
もう戦意がないのは明らかだ。
「もう、終わりにする」
俺は再び闇の槍を生み出す。
槍の数は一本どころじゃない。
十本は超える数の槍を出した。
「行くぞ」
俺は、イーニに向かって大量の槍を飛ばした。
「くぅぅっ・・・・・・!」
イーニは全力で逃げ始めた。
爆発を利用して、一目散に俺から離れていく。
途中で爆風も起こして、視界も遮りながら逃げていく。
一応槍はイーニの居た方向へ飛ばしているが、どこに居るのか分からないなら、当てようもない。
結局逃してしまった。
「ちっ、殺せなかったか・・・・・・。無駄に時間をかけてしまったか」
超上会の一人を殺せる絶好のチャンスを逃してしまった。
けれど、俺はもう圧倒的な力を手に入れた。
誰が来ようと、全てを飲み込んでやる。




