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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第八章「人魔和平委員会」
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第九十五話「もう耐えられない抑えられない」

 俺とアイリスとシックは、何とか魔王城の前まで逃げ切ることに成功した。

 マモンが何故あの場に残ったのか、何に恐れていたのか、不安と心配に駆られてしまうが、あいつを信じて待つとしよう。

 

 とりあえず、シックをこの前まで居た部屋に連れて行こう。

 今後どうするかは、それから考えることにする。

 今は疲れてきっているだろうシックを休ませることが最優先だ。


「アイリス、こいつをこの前の部屋まで連れて行け」


「了解ですっ」


 仮面をつけたままのアイリスは右手で敬礼をする。


「あ、あの。魔王、さん?ありがとう」


 シックは仮面で顔を隠した俺にお礼を言う。

 またも俺は言葉では反応しなかったが、仮面越しにシックの目を見て、ただ頷いた。

 それだけで、シックは少し安堵した表情へとなった。


 シックとアイリスが魔王城へ入ろうとする。

 その瞬間、俺の仮面の端に何かがかすり、城壁へと強烈な衝撃が襲いかかる。

 ピシッと音が鳴り、仮面にヒビが入る。

 誰だ、敵襲か?


「強い魔王様とやらに会おうと訪れてみたら、ちょうど良いところで出会えたようだ。僕はラッキーみたい」


「・・・・・・誰だ」


「ひっ・・・・・・」


 全身黒ずくめの男が、俺たち三人の前に突然姿を見せた。

 シックはひどく怯えた様子だ。


「いいね、君の静かな声は、僕の耳にちょうど良い。僕の名前はイーニ。超上会の一人だ」


「お前、超上会の一人か・・・・・・」


 ここでも、また超上会に絡まれてしまう。

 本当に腹が立つ奴らだ。

 うざったい、さっさとこんな奴ら全員消えてしまえばいいのに。


「いや・・・いや・・・・・・っ!」


 シックは今まで見たことないほどに、顔は青ざめていて、全身の震えが止まらない。

 

「そうだ、君の処刑が決まったと知って、まだ生きてたんだと思ってたけど、まさかこんなところに居るなんて。逃げられたのかな?随分運が良い子だね」


 イーニはニコニコと笑顔を浮かべながら、嬉しそうに話す。

 そうか、こいつがシックに致命傷を負わせた本人なのか。


「何が運が良いだ。死にかけになったのも、処刑されそうになったのも、全部お前ら超上会のせいだろう。ふざけたことを言うなよ」


 目の前の敵にとにかくイライラする。

 ここまで腹が立つことを並べられることが、もはや驚きだ。


「城の中、入ろっ」


 アイリスはシックの手を引いて、城の中へと入っていった。


「逃げちゃうか。つまらないな」


 イーニはやれやれといった顔になる。

 こいつは他人のことを、自分の遊び道具程度にしか思っていないのだろうか。


「つくづく、クズだな・・・・・・」


「クズだなんて、酷いこと言うね」


 聞こえないほどに小さな声で呟いたが、イーニはそれを聞き取っていた。

 どうやら、相当に耳が良いらしい。


「まあいいや、本当に僕が戦いたかったのは君なんだから。あの子も将来性はあるけど、今はまだその時じゃない。強くなってから、戦ってあげよう」


 イーニはポーチに手を突っ込んで、何かを取り出そうとしている。


「お前、次があると思っているのか?」


「何を言ってるの?サノンにあんなにコテンパンにされてたのに、調子に乗ってるのはそっちじゃないの?」


 確かに、俺はサノンと戦ってすんでのところで負けた。

 イーニがどれぐらい強いかは知らないが、超上会の一員ならば、サノンと遜色ない強さではあるだろう。


 だが、不思議とこの目の前の男に負ける気がしない。

 何故か身体のど真ん中から、黒い力が湧いてくる感覚がある。

 怒りの感情が大きくなるにつれ、だんだん胸が熱くなってくる。


 そうだ。この力を解放できるちょうど良い奴が、俺の目の前に居るじゃないか。


「そんなぼーっとして、敵の目の前で隙見せてもいいの?」


 イーニは指に鉛玉を乗せ、それを親指で弾いて、俺の方へと飛ばしてくる。

 さっきの攻撃は、これだったか。


 俺は身体に溜まった抑えきれない力を解放させる。

 俺の周囲は一瞬で黒に染まり、月も星も無い真夜中のように冷たい空気が漂う。

 自分でも信じられないほどの威力と量の闇が、急に放出された。


「ぐぅっ・・・・・・!」


 闇が発生した時に起きた謎の衝撃がイーニを襲う。

 彼は両腕を顔の前に出し、ガードの姿勢を取った。

 髪や服が風圧でなびき、その場に立ちとまるために、足に力を込めなければならないようだ。


 闇の影響は、俺の後方にも届いていた。

 城壁の上端は、そこに元から何も無かったかのように、綺麗な半円の形でえぐられている。

 闇に触れた部分が、綺麗さっぱり飲み込まれてしまっていた。

 足元の草木も全て消え、土のみがその場に残っていた。


 身体に溢れていた闇を少し解放しただけだ。

 それなのに、この場を消し去れるほどの力を感じる。

 もし、この力を自分で扱えば、いったいどれほどのものなのか。


「な、何だよその力。前はそこまでじゃなかっただろう・・・・・・?」


 イーニの顔は引き攣っていた。

 さっきまでの余裕はまるで消えている。

 俺の力を信じられないといった様子だ。


 正直、俺だって信じられない。

 何がトリガーだったのか、怒りの感情がそのまま力になったのだろうか。

 とにもかくにも、俺はとてつもない力を手に入れた。


「もう一度言わせてもらうが、次があると思うなよ」


 俺は、このクソみたいな世界を作った超上会の一人のイーニを、今から殺す。

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