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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第八章「人魔和平委員会」
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第九十四話「究極の力」

 抱えられたシックは、まるで反応がない。

 気を失っているというわけでもなく、ただ心ここに在らずと言った感じだ。

 死んだ目のまま、力も完全に抜け切っている。

 たいした負担ではないだろうが、マモンのためにも起こしておくか。


「目を覚ませ。処刑から逃げるぞ」


「え・・・・・・?」


 ぼーっとしていたシックは目を覚ました。

 本当にシックは不幸な目に遭いがちだと感じる。


「起きたか。お前は処刑場に連れて行かれていたが、俺たちが救った。このまま逃げ続けるぞ。自分の足で行けるか?」


「う、うん・・・・・・」


 まだ意識は虚の状態だが、シックはマモンから降りて、自分の足で走り始めた。


「この、声・・・・・・」


 シックは何かに気づいたように小さく呟く。

 仮面をつけているとは言え、やはり声でバレてしまうか。

 だが、反応をわざわざすることもなく、俺は沈黙を貫いた。


 街のざわめき、逃げる途中に浴びる周囲の視線を全て無視し、俺たち四人は街の外へと出る。

 街の外へと出て、人目のつかないところまで行きたい。

 さすがに人目のつくところで闇属性を使っては、容姿を覚えられていた場合、今後変に目立ちすぎてしまう可能性がある。

 それに、空間転移がバレれば、移動後はこの国の近くに居ないと気づかれてしまうかもしれない。

 謎の集団が、どこかに行ってしまったが、もしかしたら近くに潜んでいるかもしれない。

 そんなシナリオで行きたい。


「後もう少し、もう少し走るぞ」


「うん。頑張る」


 シックもすっかり正気に戻ったのか、声色が良くなってきた。

 もう心配は無さそうだ。


「はぁっ、はぁっ・・・・・・」


 正気に戻ったと言っても、気力が戻ったわけではない。

 さすがに、いきなり走らされては、疲れがすぐたまってしまう。

 シックは明らかに走るスピードが遅れている。

 大丈夫だとは思うが、少々の不安が残る。

 

「俺が背負う。背中に乗れ」


 俺はシックを背負うことにした。

 俺が背負って走る方が、まだ速いだろうと判断した。


 シックの身体は恐ろしく軽かった。

 身長は高めだから、それなりに体重はあると思っていたが、異常なほどに軽く感じる。

 重傷の状態で魔王城に運ばれ、治った後もすぐに捕まってしまった。

 体重が落ちてしまっても、仕方がないのかもしれない。

 

「また今回も、ありがとう」


 シックは絞り出したような声で、俺の耳元に小さく囁く。

 

「何のことだ?」


 今の俺は魔王ディザだ。

 シックと接点は無い。

 俺は知らないふりをした。


「・・・・・・何でもない」


 シックもこれ以上は何も言わなかった。


 街の外からしばらく走っていると、人の誰も居ない山が近づいてきた。


「あそこまで走ろう。誰にも見られていない時に、空間転移を使って、魔王城まで戻る。追手に出会う前に、早く逃げよう」


「了解ですっ」


「承知しました」


 俺とアイリスとマモンは走り続け、とうとう周りが木々に囲まれ、誰にも見られないような場所まで辿り着いた。


「アイリス、頼んだ。城に戻るぞ」


「分かりましたっ」


 アイリスは闇のゲートを作る。

 この中に入れば、魔王城の前まで帰れるはずだ。

 

「よし、帰るぞ」


 俺はシックを抱えて、ゲートの中に入ろうとする。

 その時、マモンの雰囲気が急にピリッとし始めた。


「どうした?マモン」


 急がなければいけない時だが、マモンが急変してしまっては、どうしても気になってしまう。


「ディザ様・・・・・・、私は帰りが遅くなります。先にアイリス様とその女の子を連れて帰ってください」


 マモンは周囲をひどく警戒した様子になっている。

 まさか、追いつかれてしまったのか?


「いや、マモンも一緒に逃げろ。ここに留まる必要はない」


 仮に誰かに追われていたとしても、転移してしまえば、問題はない。

 わざわざ足止めの必要もないはずだ。


「アイリス様、転移中にゲートが消えたらどうなりますか?」


「えっ?それは、どうなるんだろう、分からない・・・・・・」


 アイリスは困惑した表情になっている。

 何を突然言い出しているんだと言わんばかりだ。


「どうなるか分からないなら、なおさら私はここに残る必要がありますね。今すぐ、城へ戻ってください」


 マモンは非常に深刻な顔をしている。

 相当な実力者のマモンがここまで真剣な表情になっているなら、かなりまずい状況になっているかもしれない。


「分かった。だけど、すぐ戻ってこい。大丈夫だと思えば、必ずさっさと引き返して、城に戻ってこい」


「承知、しました・・・・・・」


 マモンの返事に力強さは一切なかった。

 その返事に不安は残ってしまうが、マモンを信じて、俺とアイリスはゲートへと入った。



 

「あれ、ギリギリ間に合わなかったか。せっかく友達会えると思ったのに、悲しい悲しい・・・・・・いや、悲しくなんかないんだ。また会う楽しみが倍増になっただけだからね。この焦らしの時間も、再会の幸せなスパイスになるんだ」


「・・・・・・来たか」


 一人残された俺のところに、一人の男がやってきた。


 まだゲートは残っている。

 おそらく、今は空間を移動している瞬間だろう。

 空間転移は、そう時間がかかるものではないが、俺がここに残っているのは正解だったようだ。

 

「君は、悪魔かな?やっぱり魔族だったんだね。それなら残念だけど、殺すしかないな。いや、残念ではないな。これは世界の調和のためなんだ。これはみんなの幸福のための行動、正義の行いなんだからね」


 アイリス様がこの場から居なくなって、俺が悪魔だと分かる外見的特徴が露わになった。

 さすがに、自分が魔族ではないと言い張ることは無理だろう。

 俺はこの男の言葉に、無駄に返事はしなかった。


「無視かい?寂しい寂しい・・・・・・いや、寂しくはないんだ。言葉は必須というわけではない。君の沈黙からも、君の気持ちは読み取れる。むしろ、言葉も必要の無い関係に喜びを感じるよ」


 男は意味不明な言葉を陳列する。

 こいつにいちいち反応する理由は無い。

 俺はあくまで沈黙を貫く。


「ところで、そこに闇があって、君一人残ってるってことは、僕の属性にもう気付いてるってこと?」


 男は、アイリス様の作ったゲートを指差す。

 こいつの属性、嫌というほどに温かい気配を、俺は気分が悪くなるほどに感じてしまった。

 ディザ様とアイリス様は気づかなかったようだが。


「また沈黙、か・・・・・・。辛い辛い、いや辛くないんだ。だってもっと仲良くなれるってことだからね。君が僕と楽しそうに話す未来を想像したら、ワクワクしてきたよ。いや、でも僕は君を殺さなければいけないのか。悲しいなぁ、いや悲しくないんだけど」


 男の表情はコロコロ変わる。

 こいつの真意が読み取れない。

 ただ分かることは、この男は俺を殺すつもりだということ。


「そうだ、自己紹介を忘れていたね!友達だというのに、自分のことを話すことすらしてなかったなんて、うっかりしていたよ」


 男は、思い出したかのように、手をパンと叩いて、ハッとした顔になる。


「僕はイラト。超上会のイラト。自称かつ他称、究極の光属性の使い手だ」


 イラトの温かい視線は、俺の身体全身に寒気を与えた。

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