第九十二話「堪えきれない怒り」
「この国なんだな?」
「はいっ、間違いないです」
俺とアイリスは、ヒューゼ王国の次に大きいという、ジーラ王国に来ていた。
シックは確か、この国の田舎街である、スモラ街の出身のはずだ。
まさか、自分が生まれ育った国で死刑が執行されるだなんて。
俺たちは、とりあえずジーラ王国の城下町へと赴いた。
その町のど真ん中には広場があり、そこには掲示板が置かれていた。
『魔王の手下の人族、公開処刑執行』
掲示板にはそんな文章が書かれていた。
「公開処刑されるのか・・・・・・」
日付は明後日。
まだ少しだけ猶予はあるが、のんびりしてもいられない。
この国は、城の地下に牢獄があると聞いていたことがある。
他の場所にも牢獄はあると思うが、シックは公開処刑されるほどの罪人扱いをされている。
それならば、城の地下の牢獄に幽閉されているのではないだろうか。
とりあえず城に訪問することにしよう。
「アイリス、城に行くぞ。おそらく、勇者の権限があれば、それなりに融通が効くと思う」
「分かりましたっ」
俺とアイリスは城へと向かった。
城の前には門があり、当然のことながら門番が居た。
事前の約束無しだが、何とかなるだろうか。
「これは、勇者様じゃないですか。何か御用ですか?」
この門番は俺のことを知っているようだ。
これなら、話も始めやすい。
「今度処刑される者についての話を聞きたい。その報告がどこから来たのか、裏取りはあるのかといった詳細が欲しい」
「申し訳ございませんが、その件に関しては一切お話しすることができません」
「一切話すことができない?どういうことだ?」
「そのままの意味です。その件については何も話すなと上から言われています。死刑も中止されることなく、確実に執行するとのことです」
「何がそこまで・・・・・・」
明らかにおかしくないだろうか。
たしかに俺の訪問は突然のものだが、一切の拒絶までされるものだろうか?
とてつもない強制力が働いているような気がしてならない。
「とにかく、用がそれだけならお帰りください。いくら勇者様とはいえ、重要な用件が無ければ、城内に通すことはできません」
「くそっ・・・・・・」
結局、何もできないまま、俺たちは城下町へと戻った。
俺とアイリスは喫茶店で一度休むことにした。
「どうしましょうっ、レイスさんっ」
「いくらなんでも、一切関与を許さないだなんて、そこまで・・・・・・」
ただただ腹が立つ。
絶対に処刑を遂行しようという意思を感じる。
「一度、魔王城に戻るしかないか?明後日まで猶予はまだある。今日と明日の内に、何としてもマモンに情報を集めてもらうとしよう」
「そうしましょうっ」
俺とアイリスはジーラ王国から魔王城に一度戻ることにした。
とりあえず、今の状況を聞くために、マモンのいる執務室へと向かう。
「ずいぶん早いお帰りですね、ディザ様」
マモンは机の上の書類を眺めていた。
「ああ。何の成果も得られなかったよ。処刑の話は一切関与させないと言われた。まるで手が出せない」
「そうですか・・・・・・、私も今人族を洗脳して情報を集めています。さすがにまだ有益な情報を手に入れてませんが・・・・・・」
「そう、だよな・・・・・・」
さすがに期間が短すぎて、有益な情報はまだか。
もどかしい時間が続く。
「明日。明日までに何とかしてくれ。明後日に処刑が行われる。それまでに何とか使える情報を手に入れろ」
「承知しました」
マモンは深く頭を下げ、再び書類へと目を向けた。
この日、俺はもうやることが特になくなってしまった。
こういう時は、本当に自分の無力さを感じる。
勇者の称号も何の役にも立ってくれない。
だが、これも全て世の中をこんな風にした超上会が悪いんじゃないか?
自分への無力感よりも、むしろ怒りの方が湧いてくる。
潰したい。
消し去りたい。
不思議と、心臓の奥底から力が湧いてくるような感覚が生まれてくる。
もはやこの力を解放したくて、ウズウズしてくるほどだ。
「ディザ様、お顔が優れないようですが、大丈夫ですか?」
マモンが心配した表情で、俺に声をかけた。
「あ、ああ。ちょっと焦りが出てきたのかもしれない」
「その、ディザ様から気迫というか、側にいる私の肌がぴりぴりとするような感覚を覚えてしまって・・・・・・、少々危険な気配がします。どうか無理はなさらずに」
「・・・・・・大丈夫、だ」
俺は何の根拠もない、適当なことを言ってしまった。
マモンの表情は心配そうな顔から変わらない。
翌日になった。
俺は魔王室で待機をしている。
早く情報が集まらないかと気持ちが焦る。
椅子に座りながら、椅子を貧乏ゆすりしてしまう。
待っていると、トントンとドアをノックする音がした。
「入っていいぞ」
「失礼します」
来訪者はマモンだった。
「集まったのか?」
「一応、集まったのは集まりましたが・・・・・・」
マモンは浮かない顔をしている。
あまり期待はできなさそうだ。
「どうだった?結果は」
「あの、超上会の下っ端らしき人から話を聞けました。そいつによると、今回は超上会の力が働いていると。王国の上部組織にシックさんを捕らえるように命令したとのこと。魔王城からシックさんが出てきたというのも、超上会から伝えられたことらしいです」
「超上会が直接関わっていて、シックを狙い撃ちしたということか・・・・・・」
「そういうことになります」
超上会がこんな世界を作ったからだけでなく、今回の件に直接関わっている。
本当に碌でもない奴らだ。
超上会は相当の権力を持っていて、国自体に命令を下すことができるらしい。
なら、俺一人が抗議したところで、もう覆すことはできない。
勇者としての俺はあまりにも無力だ。
「もう、やるしかないか・・・」
「ディザ様?」
もし行動を起こせば、闇属性の印象は悪くなるかもしれない。
だが、このまま放置してしまっては本当にどうしようもない。
なら、シックは生かしておいた方が、何か役に立つ可能性だってある。
今だけ、今回だけは仕方がない。
「マモン、明日出かける準備をしろ。お前の力も借りようと思う」
「私が、ですか?しかし、私は魔族です。大丈夫なんですか?」
マモンは理解不能といった顔をしている。
だが、魔族だから行けないなんて話じゃない。
「魔王として、俺はシックを助けに行く。超上会の好き勝手にさせない。俺が処刑をめちゃくちゃにぶっ壊してやる」




