第九話「そして、魔王になる」
数日かけて、魔王城へ到着する。
ヒューゼ王国と魔王城の距離は近くなく、どうしても移動に数日かかってしまう。
簡単に解決できるならいいのだが、どうにかできないものだろうか。
そんな今考えても仕方がないことは置いておき、魔王城の正門の前に立つ。
以前来たときは、門番が待ち構えていた。
魔王という支配者が居なくなった今でも、それは変わらず、重厚な鎧を着た人・・・の姿をした生物がいた。
魔族なので、人の姿をしているが、全身鎧姿で中身までは見えず、実際中がどうなってるかは分からない。
もしかしたら、そもそも中の人なんておらず、鎧こそが本体ってこともあるかも。
「何者だ?お前、何の用だ」
どうやら、俺の顔は知られていないらしい。
ちょっと面倒だが、仕方がない。
自己紹介をしてやろう。
「この前、ここの魔王を殺した勇者だ。お前も死にたくなければ、とりあえず素直に中に入れてくれ。勝手に疑ってもいいが、その時はどうなっても知らないがな」
「わ、分かった。通すよ」
表情とかはまるで分からないが、話し方から察するに脅しは成功したようだ。
まあ、仕える存在も居なくなって、命の危険に晒される可能性が少しでもあるなら、それを避けようと思ったのかもしれない。
魔王城の中は、人族が住む城と違いは特になかった。
天井は非常に高く、きらびやかな装飾が大量になされていて、廊下には赤のカーペットが敷かれている。
部屋も複数あり、もはや客をもてなすためのような城だ。
以前訪れたときは、侵入者撃退の罠などが仕掛けられていると思ったが、拍子抜けだったことを覚えている。
魔王城の内装はある程度知っていたので、おそらく今の魔族で一応の指揮を執っているであろう存在がいる場所、以前魔王が居た部屋までは迷うことなくいけるだろう。
驚いたことに、魔王城の中は相当数な魔族が居た。
魔王討伐のために訪れた前回は、魔王へとたどり着く前に多くの魔族が立ち塞がり、すべて倒した。
だが、明らかに魔族の数は減っているように見えない。
しかも、前回は鎧騎士や巨大なゴーレムばかりだったが、今は悪魔やゴブリン、スライムといった、様々な種類の魔族が居る。
いちいち脅しを入れたりしなくてはならず、その数の多さは面倒だったが。
そして俺は、元魔王が居た部屋へとたどり着いた。
部屋の中に入ると、赤髪に、背中には赤の大きな翼、細長い尻尾を伸ばしていて、人族で例えるなら十三か四歳ぐらいの少女が居た。
今魔王の部屋に居るのは一体どんな奴なのだろうと気になっていたが、あまりにもその幼い容姿に驚いた。
「あ、勇者様ですねっ。こんにちは。小悪魔のアイリスって言いますっ。よろしく!」
アイリスと名乗った少女は、少し前かがみになり、片目をウインクし、右手で敬礼をする。
俺を知っていることは好都合だが、俺を勇者と知っていながら、やけにフレンドリーな感じで接してきていることが、シンプルに謎だった。
「お前が今の魔族を率いているのか?」
「はい、そうですっ。魔王様が死んじゃってからは、魔族の勢力は落ち、このままでは滅ぼされてしまうかもしれない、そう思って、一応魔族の中でも知力が高い私が、仮のボスになったってわけですっ。もちろん勢力は衰えたままなんですけどねぇ」
アイリスはこめかみに手を当てて、困ったような表情を見せる。
どうやら本当にアイリスは、今の仮の魔王、といえるような存在だった。
しかし、滅ぼされないことが目的だというのに、勇者が来ても危機感や警戒心などが感じられないその態度は不思議だった。
それを問いただしても良かったが、それよりも本来の目的を果たすことを優先する。
「今日から俺がお前らを支配する予定だ。反論するようなら、力で強引にでも従わせる」
「了解ですっ。今日からは魔王様って呼んだほうがいいですか?」
「え?」
あまりにも予想外すぎる展開に、ポカンと口が空いてしまう。
二十年生きていて、ここまで間抜けな顔になったことはないのではと思うほど、自分がおかしな顔をしていると思った。
その様子を、不思議そうに見つめるアイリス。
なぜ、アイリスまで不思議にしている。
「ええと、まあ代わりに俺が魔王になるってことはそうなんだが、俺は勇者であって、それが魔族を支配するってことなんだが、そんなあっさりと受け入れるものなのか?何か裏があるとか普通は疑うと思うんだが」
自分でも意味不明な説明をしていると思った。
正直、少し意気込んでいたところはあって、今の突飛な状況に面をくらいまくってる。
あまりにも理解が追いついておらず、スムーズに事が進みそうにも関わらず、わざわざ遠回りをしてしまう。
「私って、元々強い相手に仕えることが性に合ってるんですよね。死ねとか言われたら困りますけど、支配されろって言われるなら構わないですよっ」
アイリスは、今までの発言は、さも当たり前のように話す。
数日前に学長との会話がひどく緊張していただけあって、そのギャップはすさまじかった。
なんというか、こんなにあっさりとうまくいくものなのだろうか?
「えー、じゃあこれから俺は魔王として魔族を支配する。お前は今後俺の補佐として置く。よろしく頼む」
「わかりましたっ。魔王様!」
頭が痛い。
今の魔族は支配者を求めていただろうし、俺が勇者であろうと構わなかったのだろうか。
万が一裏があったとしても、俺の実力であればどうにかなるだろうし、とりあえず目的を果たせたことを素直に喜ぶことにしよう。
「すみません、質問なんですけど、魔王様の名前は何と言うのですかっ?」
確かに、まだ名前は名乗っていなかった。
素直にレイスと名乗ってしまっては、もし魔王の名前が人族に漏れるようなことがあれば、すべてが台無しになってしまうだろう。
所詮は偽名なので、俺は適当に考えることにした。
「俺の名はディザだ」
「ディザ様っ!よろしくお願いしますっ!」
アイリスはニコっと笑った。
俺も少しだけ笑みを返す。
何はともあれ、これで人族での存在価値や立場、そして魔族の支配権を確保することができた。
現状を維持する環境はできたので、これからは現状を改善していくために動いていく。
勇者レイス、そして魔王ディザが、人族に愛されるために動いていく。




