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その勇者は魔王と同じだった。  作者: 白石アキラ
第零章「魔王討伐」
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プロローグ



「俺が、俺たちが幸せになれる世界は存在するだろうか」

 魔王は最期にそう遺した。



 四代目の勇者レイス・ディーンとして、俺は魔王の討伐を終えていた。

 十八の時に勇者になり、それから二年の時を経て、二十になっていた俺は、人族の脅威を滅した。


 この世界には人族と魔族の争いが起きていた。

 争いの発端は単純だった。魔族が人族を攻撃してきたからだ。

 魔族が人族を襲うことに特別な理由なんてない。ただ、生まれながらに人族を滅ぼすという使命を感じているというだけ。

 俺たち人族だって、良い料理を食べたかったり、健康に生活したかったり、恋をしたかったり、欲があるのは当然だ。

 魔族にとっては、その欲の一つに人族の支配があるだけにすぎない。それは彼らにとっては善悪で判断するものではない。

 しかし、人族にとっては悪であろう。攻撃されたまま無視できるかといえば、そんなわけがない。

 たったそれだけのいきさつで争いをしなければならなかった。


 だが、魔族を統べる王、魔王はたったさっき俺が討伐した。正確には"俺たち"だが。


「やっと・・・・・・やっとすべてが終わったんだ!俺たちはやったんだよ、レイス!」


 俺の名前を呼ぶ男の名は、アルベルト・ルイズ。魔王を討伐するために、俺と共に旅をしてくれた仲間だ。俺はアルと呼んでいる。

 赤毛の高身長、ガタイの良さは人族の中でもかなりのものだ。

 屈強な身体を活かし、俺たちの中での役回りは、主に味方を守る仕事だった。

 戦闘の時は全身に鎧をまとい、防御力を高め、敵からのヘイトを受け続ける、いわばタンクのようなことをしている。


「そうだな・・・・・・魔族を統べる王を討伐したんだ、統率力のなくなった魔族はこれから勢力が弱まっていくだろう」


 俺はアルにそう返事をした。魔族は元々知性が高くない。しかし、魔王だけは違った。

 高い知性を持ち、魔族を率いる。知性がない魔族も、魔王という上位の存在には従うしかないと本能で感じることができるのだろう。

 そのせいで、知力以外、腕力や魔力や生存力で劣る人族は、ひたすらに苦戦を続けていた。


「それにしても、あまりレイスはあまりうれしそうじゃないねー?なんか淡々としてるっていうか?まあ、全部終わっちゃったから何でもいいけど!」


「うるさいな、表現が苦手なだけなんだよ。いい加減わかってるだろ」


 感情表現が苦手な俺をいじってくる女は、ミール・リナ。攻撃魔法を得意とする。

 紺色のトンガリ帽子に緑のローブ、明るい水色の短髪だ。

 俺をいじることにいつも全力をかけている。生意気な奴だ。


 魔族にはあまりにも種類が多い。そもそも魔族という分類が、人族を強く敵対視する人族でないもの、といった曖昧なせいで仕方のないことだが。

 これでいて、熊や蛇といった動物は、人間を攻撃するにははっきりとした目的があるから。これで魔族ではないと分類されるので、本当に明確な定義が難しい。


 それはともかくとして、種類が多いのであれば、性質も異なる。

 簡単に分けるのならば、物理に弱いか魔法に弱いか。

 パーティの攻撃手段がどちらか一辺倒ならば、そういった耐性を持った相手に苦戦を強いられる。

 そのために、主に剣での攻撃を担当する俺。魔法での攻撃を担当するミールに分けられる。

 パーティには欠かせない存在だ。


「でも、本当に良かったです。魔王討伐・・・・・・これで人族は魔族におびえることはなくなっていきますね」


 魔王討伐の悲願達成に感動をしている女は、パーティでは主に回復を担当しているメリー・ダーニャ。

 エメラルドグリーンの髪を腰のあたりまで伸ばしている。

 おしとやかな性格で、強く発言をすることはほとんどないが、人族の平和への願いは、誰よりも強い。

 探索や戦闘でダメージを受けるたびに、離脱や帰還をしていては、効率が悪すぎる。

 彼女の回復魔法のおかげで、行動時間を大きく伸ばすことができる。

 補助魔法の類も得意とするので、サポート面でとにかく信頼のおける仲間だ。


 剣士の俺、タンクのアルベルト、攻撃魔法のミール、回復魔法のメリー。

 俺たち四人パーティは戦闘の相性はもちろん、それ以外でも仲が良かった。

 魔族への対抗戦力になるための育成がされる学校で、何年も共に過ごした仲間だった。

 魔王討伐の旅の同行者なんてレベルじゃない。特別な存在であることには違いない。


「俺はアルってやっぱり他とは違うって思ってたんだよな。勇者になれるほど実力あるし。闇属性が得意だし。魔王討伐もアルとならできる・・・・・・そう思わせてくれるような特別感があったよお前には」


「まあ・・・・・・他とは違うってのはそうかもな」


「えー?それ自分で言っちゃうー?まあ客観的に見たらそうかもしれないけどさー」


 人族の中でも極めて優れた戦闘能力を持つものは、勇者の称号が与えられる。

 勇者の称号を与えられたものは、人族最大の国家、ヒューゼ王国の国家から支援を受け、魔王討伐に尽力を尽くすことになる。

 もちろん勇者になるかどうかは拒否権があるのだが、育成学校に通っていた俺は、当然魔王討伐を目標にしていたわけで、勇者になることを引き受けたのだった。


 アルが言ったように俺は闇属性を主に得意とする剣士だった。

 人それぞれに得意な属性があって、俺は闇属性を剣に付与して攻撃することが得意だ。

 闇属性は稀有な存在で、また、人族には強力な闇属性の使い手が居なかった。

 ただし、魔族には闇属性が得意なものは貴重ではなく、魔王もその一人。

 そのせいか、闇属性自体が、人族にはあまり好まれていない。

 過去の勇者も闇属性を扱うことはできず、唯一の闇属性を用いる勇者の俺は、確かに特別だ。


「何はともあれ?もう全部終わったんだし、とっとと国に帰って、しばらくだらけたいかもー」


「ふふ、まだすべてが終わったわけではありませんが、しっかりと羽休めしたいのは同意です。」


「だな!魔族を完全に滅ぼすまでは気を抜けないが、一区切りついたことには違いない!」


「ああ、帰ろうか。俺たちが守りたかった人族の国へ」


 こうして俺たちは笑顔で帰路へ就いた。

 人族の夢であった魔王の討伐も達成された。

 

 俺の夢も、ようやく一歩目を踏み出すことができた。

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