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伊賀忍者に転移して、親孝行する。  作者: 風猫(ふーにゃん)
第九章 伊賀忍者 藤林疾風 戦国熊襲征伐
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閑話 綺羅八重緑流熊襲征伐『薩摩おごじょ』

天正4(1576)年6月上旬 薩摩国知覧 藤林綺羅



 ここは、薩摩国の南にある『豊玉姫神社』です。

 (きら)と妹の八重緑、それに付き従う伊勢巫女達総勢30名程の女衆は、4月上旬の兄上(ハヤテ)の日向攻めに同行を許されませんでした。

 その間私達は、薩摩の知覧にある『豊玉姫神社』に逗留して、近年火災で焼失した社殿の再建と大規模な宿坊の建設を、組立(プレハブ)て方式で薩摩の大工職人を集めて行いました。

 戦が終るまでの間は、仮社殿を建て、3階建ての宿坊長屋(アパート)を建設しました。

 1棟50戸を10棟。食堂や厨房、風呂、倉庫、燃料室(ボイラー)を備えています。

 宮司さんに『何故こんな宿坊が必要なのですか』と聞かれ、『伊勢の御祭神のお告げなのです。』と答えておきました。


 4月の終わりに、兄上(ハヤテ)が日向を、信長様が薩摩を制圧すると、破壊された城にいた女子衆を住まわせるために、日向からは船で薩摩と大隅からは徒歩でここへ集められました。

 皆、着の身着のまま、落城からひもじい思いをしながら辿り着いたのです。温かい汁物とお粥を出しお風呂に入ってもらい、藁とおが屑を詰めた敷布団に寝かせて、しばらくは静養させました。

 

 5月に入ると、新政のための物資を運んで伊勢から商船団が続々到着しました。その中には、豊玉姫神社のための大和の宮大工や伊勢の建築職人と資材もありました。

 宮大工による社殿の再建より先に、鉄筋 石灰練(コンクリート)の集会施設が完成すると、避難して来た女衆への研修を始めました。


 この国の歴史。律令国家の崩壊から武家が起こりそして、応仁の乱から戦国の世となったこと。

 戦が男達の活躍の場となり、女の立場が低いものとして扱われるようになったこと。けれど、子らの未来のためには、男達の無益な戦を止めさせる必要があること。

 戦乱を無くし、民の暮らしを豊かにすること。

 そのための帝の新政であり、皆も力を合せてほしいこと。そんな話を切々と説きました。


 そして、新政で行う農林水産の改革、商い、衣食住、病気衛生外科治療、乳幼児からの育児全般などの概略講習を行った上で、彼女達の希望に応じて、新政の各部所に配置しました。

 その間に、新たに乳幼児から成人前までの教育や保育を行う育児院と病気や怪我の治療を行う養生所鉄棒、ぶらんこ、滑り台、障害遊具(アスレチック)などがある公園も作りました。


 新政食品部では、周辺の女衆も含め300人規模で野菜の漬物、海鮮や茸の乾物、佃煮などの保存加工品が作られ、史実では、江戸時代後期に作られる《薩摩揚げ》など、うどん蕎麦とともに新たな食文化を生み出しました。


 育児院では、女衆が保母となって働き、年長の子らには、孤児院の卒業生である伊勢巫女の皆が教師となって、読み書き算盤、歴史や世の中のことや、動植物や昆虫、鉱物や自然について教えています。


 城にいた女衆の中には、武芸を志ざしている者もいたので、女だけの部隊を編成しました。

 その名も《薩摩おごじょ隊》。鉄砲の他、長銃に銃剣を付けての薙刀や、合気道を学ばせ、主に治安警備や兵站部隊を担ってもらいます。




 《薩摩おごじょ隊》を作って2カ月も過ぎた頃、薩摩の守備隊を任せられている織田家の森可成殿があたふたして訪ねて来た。


「綺羅殿、なんちゅう女衆を鍛えたのでござるか。薩摩の荒くれ男どもを、叩きのめしてしまいましたぞっ。」


 詳細を聞くと、城下で酒に酔った無頼の武士5人連れが、町娘に絡んでいるところへ通り掛かった《薩摩おごじょ隊》の二人が庇って入ったとのこと。

 無頼漢達は、おごじょの二人にこっぴどく説教を喰らわされ、怒りに任せて斬りかかったみたものの、無手の二人によって投げ飛ばされ、刀も取り上げられたとのこと。


「で、森殿、その後はどうなったのですか。」


「いやはや、警備の者が駆けつけた時には、無頼漢どもは、何回も投げ飛ばされたらしく体中傷だらけでありましてな。

 無頼漢どもを担いで牢まで運ぶのに一苦労でしたのじゃ。」


「えっ、それじゃあ、森殿もその場に。」


「暴れておるのが武士と聞き、裁きが必要になると思い、儂も後から行ったのじゃよ。

 しかし、酔っておるとは言え5人の武士を相手に女子二人だけで、それも無手で倒してしまうとは、心底驚き申した。ははははっ。」


「まあ、死人が出なくて何よりでしたわ。

 その無頼の者達は髷を落として剃髪させてください。通り掛かりの娘に絡むなど許せる所業ではありませんもの。」


「わかり申した。刀を取り上げ髷を落とさせまする。」


 あとからの報告で、その二人は桔梗とみずきと、わかった。二人には金一封を与え、小隊長に昇進させた。

 だけどそれから《薩摩おごじょ隊》の皆がやたら城下に出かけ、酔っ払いや不埒者を懲らしめることが流行りとなって、町の人達から持て囃されるようになったのを、私は知らない。

 



✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



天正4(1576)年11月上旬 日向国高城 藤林八重緑



 兄さまの大友家迎撃に後方兵糧部隊として、参加できることになりました。

 豊後の大友家に攻め入るなら、絶対に着いて行くと、綺羅姉と二人で頑張ったからです。

 散々押し問答の末、後方の兵糧部隊なら女衆でも可能となったのです。でも、二人はだめで、どちらかは残って新政を進めなけばならず、私と綺羅姉は勝負で決することになりました。

 勝負の方法は、いつも二人でやっている《あっち向いてほい。》です。過去の勝敗は、私の方が負け越しています。でも、綺羅姉の癖も知っているのです、此度は負けません。

 綺羅姉は、2回目までは首を左右に振り、3回目は上に向くという癖があるのです。私が2回目までで負けなけば、勝利できます。


『じゃんけんぽん、あっち向いてほい。あっち向いてほい、あっち向いてほい、ほい、ほいっ。』


『勝ったあ〜。』

 私は作戦違わず、綺羅姉に勝ちましたっ!


 

 それで、今《薩摩おごじょ隊》の100名、炊事の女衆60人を率いて、高城の城外に布陣してます。


「八重緑様、ここからでは戦いの様子が見えませぬ。斥候に出てはいけませぬか。」


「桔梗、戦が始まれば鉄砲や大筒の音が聞こえる。そして、勝敗が着けば勝鬨の声や知らせが来るわ。

 兄様が負ける訳がありません。私達の出番は勝利してからの豊後入りからよ。

 落ち着いて、知らせを待ちましょう。」



 私達(やえりょく)の陣は、高城の南にある財部城の近くの森に敷いています。

 この陣には、私達以外に鉄砲騎馬隊2千騎も待機しており、大友軍の別働隊が高城を攻めた時に援護するのが役目です。

 おまけにご丁寧にも、私達が退却する用意に沖合いには伊賀水軍の新造船が待機しています。兄様(ハヤテ)は過保護過ぎるのです。



 大友軍が着陣したとの知らせがあった翌日、西から来た大友軍の別働隊が高城へ攻め掛かりました。

 私は本陣で鉄砲騎馬隊を率いる最上義光殿と共に斥候兵からの知らせを聞いていました。


「申し上げます。敵勢は8千余、高城の搦手に攻め寄せております。」


「申し上げます。敵勢、竹束で鉄砲を防ぎながら、搦手に接近しましたが、櫓からの集中射撃を受け、退却しております。」


「敵勢は、攻撃を中止。高城を遠巻きに包囲して、おります。」



「ふむ、まだ我らの出番はありませねぬな。敵勢が再び城攻め致すのは、敵の本隊が攻撃してからと見えますな。

 八重緑様、我らが出撃しても、ここで大人しくしていてくだされよ。疾風様からきつく申し渡されておりますから、くれぐれも戦場にはお出にならぬよう願います。」


「分かっているわ。足手纏いにはなりません。

 もしここに敵勢が来るようなら、海岸に退避して船に乗りますわ。」


「やれやれ、それにしては長鉄砲薙刀を振り回しておられる皆様が多いですなぁ。」


「もしもの時のための訓練ですわ。ふふふ。」




「伝令っ。本陣で交戦が始まりました。」


「伝令、伝令っ。本陣のお味方大勝利ですっ。

 疾風様より鉄砲騎馬隊は、野戦にて城を包囲する敵勢を駆逐せよとのことにございます。」


「うむ、八重緑様、出撃して参ります。皆の者っ、出撃ぞ。馬引けっ。」




 鉄砲騎馬隊が出撃して半刻ばかりして、敵の敗残兵が数十人、こちらに逃げてきました。

 女ばかりと見て、のんびり近寄ってきました。

小隊長の桔梗が号令を発します。


「薩摩おごじょ隊。三列組め、構え、撃てっ。二射撃てっ、三射撃てっ。」


 生き残り数人が横合いから打ちかかってきましたが、皆が長鉄砲薙刀で討ち取りました。

 手投げ焙烙瓶も使ってないし、迫撃砲10門もある。これなら10倍の敵でも戦えるわ。

 だけど、敵兵を討ち取ったことは、過保護な兄様には内緒にしとかなきゃね。


 次話から、土曜日投稿に戻ります。

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