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伊賀忍者に転移して、親孝行する。  作者: 風猫(ふーにゃん)
第七章 伊賀忍者 藤林疾風 戦国に暗躍する。
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第七話 松永久秀の忠義と、三好義継。

 後世には、『梟雄(きょうゆう)』として裏切者の代名詞のように言わる『霜台(そうだい)(弾正の中国唐の官名)松永久秀』だが、彼は始めから不忠の人であったのではない。

 忠義を尽くすべき主君、『修理太夫 三好長慶』を道半ばで失い、仕えるべき君主を失い迷走した人物である。



 人生の目的を失ってからは、強欲、非道、出世欲などを赤裸々に生きたが、

「天道に背く行為、さほどに心許せる男にあらず」と信長が家康に語ったとの逸話があり、人格を尊重するに値しない人物と見ていたことがわかる。

 一方、築城においては天守閣や門と一体となった櫓を築くなど斬新的な発想を実現し、強欲でありながら、侘び寂び茶の湯に傾倒した二面性を持つ人物でもあった。

 これも生きる目的を失った男の足掻きだったのかも知れない。

 


 長慶の覇権を叶えるべく、将軍義昭との関係維持に努めた結果、幕府への貢献が認められ幕府御供衆ともなったが、それがために三好家を裏切ったのではとの疑いの目で見られもしたが、三好家に対する下剋上など微塵も思ってはいなかったに違いない。

 久秀の栄進は長慶の右筆(書記)となった頃から認められるが、おそらく、この時期に長慶と久秀は竹馬の友とも言える関係になったのであろう。

 長慶12才久秀25才の頃である。


 長慶は10才の時、三好政長の画策で起きた一揆で父親を失い、阿波に逃れて11才で元服。長男として母や弟達を抱えながら、幾度となく敗戦を繰り返しても諦めることなく、28才の時に父の仇である三好政長を打ち果たした。

 久秀はその傍らに身を置き、決して剛毅な性格ではない長慶が悲嘆にくれる姿を目にし、時に励まし互いに辛苦の努力をしながら苦楽を共にしたはずである。

 そんな久秀が、長慶に謀反を抱くはずがないのである。


 松永久秀という人物は『跖狗吠尭(せきくはいぎょう)』の人であったと思う。

 跖狗吠尭の狗は犬のことであり、尭は『史記』に出て来る聖人と崇められた君主である。


 意訳は『大盗賊の盗跖の飼い犬が、堯に吠えたが盗跖を尊び、仁徳すぐれ聖天子と仰れる堯を賤しんでのことではなかった。

 犬は必ず自分の主人でない者には吠えるのだ。』


 善悪を問わず主人に尽すことの喩え。そのことの善し悪しは問題にしないこと。


 だから、久秀は長慶の想いを遂げさせることしか思っていなかったと思う。その善悪を問わずに。



 松永久秀は長慶亡き後、長慶が生前に養子とした三好義継を長慶の意と汲み、忠誠を決意していた。

 しかし、15才の義継を傀儡として実権振るう三好三人衆と対立し、義継から離れることになる。

 だが4年後、三人衆にないがしろにされることに義憤した義継が、久秀を頼り逃げ込んで来ている。



✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



元亀4(1573)年7月26日 京都九条邸 藤林疾風


 大和から、三好義継殿と松永久秀殿がここ九条邸に来ている。そして信長公と九条兼孝殿と俺。


 御所の最も南にある九条邸は、貴族の困窮を窺わせ古び傷みもあるが、平安の貴族の栄華を思わせる寝殿造りだった。

 『コの字型』に配された、寝殿と呼ばれる中央の主殿からは、東山連峰や大文字山を背景に、(いにしえ)の年月を見せる池や木々の庭園があり、自然の景色に囲まれて心を落ち着かせてくれる。



 今日この二人を呼んだのは畿内のこともあるが、真の盟友として、これからのことを話すためだ。

 義継殿と久秀殿の本音を聞かねばならない。


「よく参られた。まずは一服、茶など召し上がりなされ。」


 館の主 九条兼孝殿が茶を勧める。伊賀から公家に施している焙じ茶だ。熱い湯気が立ち香りが良い。


「信長殿、長島の一揆を治められたとか、祝着至極に存ずる。」


「であるか。摂津、河内の方はどうか。」


「思うようには行きませぬ、互いに籠城戦ばかりでいたずらに兵糧ばかり失いますな。」



「義継殿は、如何に思召しでしょうか。」


「それはどういう意味かな。俺に不満があるとでも思われているのかな。」


「はい、もしかして信長殿に従属せよと、言われることを懸念されているのかと。」


「従属ではないのか。」


「今日来ていただいたのは、盟友の契を交わせるか否か。それをお尋ねしたいがためです。

 我らは朝廷名の下に、国を一つに致す所存です。そこには大名の領地はありませぬ。また、報われることも少ないでしょう。


 だが目的とするところは、この日の本の国と民を護ること。新たな元寇に国を一つにして、いち早く備えることです。

 そのために国内を平らげねばなりません。義継殿は、どう考えておられますか。」


「元寇などと。どこが攻めて来ると申すのか。」


「それすら知らぬと申されますか、領主として領民を護るには頼りない限りですね。

 この国の中だけを見ていないで、もっと広い視野で世の中を見ていただきたい。


 釈迦尊の生まれた国、天竺は南蛮の者達によって荒されております。日の本でも南蛮と交易をしている領地では、硝石や南蛮の武器が欲しいがために、領民を奴隷として売り捌いております。」


「誠か。そんなことがあり得るのか。」


「九州の大友宗麟は南蛮の宗教に帰依して、南蛮のご機嫌を取り領民を南蛮に売り飛ばすことを平然とやっております。

 南蛮の宗教では、自分達の神以外の神仏を信じることを許しませぬ。争いになれば女子供の区別なく根絶やしにしてきます。

 そして、あ奴らは我らのことを猿と同じと蔑んで見ております。


 義継殿は、何を成すために生きておられますか。武士としての誉とか、源平の者の考えなどとは申されますまいな。」


「我が養父、三好長慶は父親の仇を討ち、奪われた領地を取り戻すために生きたと聞いております。

 それを継いだ俺が為すべきは領地を守り家を盛りたてることにござろう。」


「南蛮の国が、義継殿と争う隣国を攻めその領民を皆殺しにしても、敵対した隣国は助けませぬか。」


「そうなればやむを得ぬ、助成致すであろう。」


「それでは遅い、手遅れなのです。敵は、義継殿が持っている鉄砲などよりずっと遠くから届くものを或いは大筒などの進んだ武器を使い、大名が個々に戦えば10倍も100倍もの兵力で攻めて来るのです。

 そんな敵に備えずに、義継殿は民を見殺しにするおつもりか。」


「そのような負け戦、末代までの恥となるわ。

 俺にどうせよと言うのだ。」


「何もせずにいる無能ならば、恥どころか墓も残らず、生きた(あかし)も残さず消え去るだけです。

 義継殿、覚悟を決められよ。この国の民達を守る戦いに我らと生死を共にすると。」



 義継は深くうつむいて、思考に沈んでいる。

 未だ25才の若者だ、知らぬ世界も多いかろう。


「 · · · · 藤阿弥殿の申すこと、分かり申した。この義継の生き様を子孫に誇れるように、大名ではなく民を護る者となりましょう。」


「若、よくぞ申されました。この久秀が若を全力でお支え致しますぞっ。」


「久秀殿、亡き修理太夫殿が夢見た想いを我らで、仕上げなければなりませぬ。

 義継殿にその夢をしかと伝えてくだされ。」


「承知仕りました。なんだか楽しくなって参りましたなあ。」


「義継、その方の骨はこの信長が拾ってやる。存分に暴れるがよい。」


「ならば、この兼孝が皆の生き様を、しかと見届けましょうぞ。」



✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣



「国を統一したあとは話し合いで役目を決め、皆様にはその役目を果たしていただきます。」


「しかし、如何にして国を統べるのか。」


「まず、圧倒的な勝利で、我らの恐ろしさを全国に知らしめます。幕府足利将軍には見せしめになってもらいましょう。

 野心なく民を慈しむ大名に同盟に加わってもらいましょう。

 これを2年のうちに行ないます。」



「明日からのことですが既に事は動いております。明日には勅使が遣わされ、石山本願寺に謹慎が申し付けられます。

 その(のち)、勅命にて幕府に東国征伐が命ぜられます。『今すぐ戦を止め、大名達を上洛させよと。』

 その命に服さぬ場合は征夷大将軍の職の返上又は罷免です。

 征夷大将軍でなくなれば、室町第から退(しりぞ)いていただく。京からも。

 それから幕臣達を公家の荘園を横領の(とが)により、北面の武士たる信長殿に錦の御旗の下、討伐していただく。

 また、三好三人衆にはこれまで畿内で争乱を起こしたことの申し開きのために上洛を命じます。

 命に従わぬ時は朝敵として打ち果たします。

 おおよそは、このとおりです。


 義継殿は、久秀殿とすみやかに都の警備に就いてください。

 信長殿、院の仙洞御所に信長殿の宿所を用意してあります。北面の武士なれば、そちらへお移りください。」


 仙洞御所に信長公の宿所を設けた訳は、本願寺の変に備える意味もある。御所を襲うような愚か者はいないだろうから。

 ちなみに御所の外に5千人収容の兵舎も作った。三段ベッドの寝るだけの簡易宿舎だけどね。1部屋に三段ベッドが8台、1棟4階建54室が4棟。1階は食堂と詰所、2階から上が寝室だ。

 周囲は金網で囲い、出入口には歩哨の櫓がある。 




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