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伊賀忍者に転移して、親孝行する。  作者: 風猫(ふーにゃん)
第六章 伊賀忍者 藤林疾風 戦国に同盟を作る。
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第九話 上杉謙信公と、伊賀の疾風。

元亀3(1572)年7月上旬 越後春日山城 藤林疾風


 甲斐から北信濃の川中島に至り、広大な敷地持つ本家信濃善光寺の門前で、伊勢巫女達と合流した。

 この時期、本家善光寺はご本尊の阿弥陀如来像や寺宝は武田信玄が甲斐国甲府へ移転し、大御堂本尊の善光寺如来や寺宝は上杉謙信が越後へ持ち帰っていた。

 だが信濃善光寺の域内には、この時代では珍しい尼寺「大本願」がある。その住職は「善光寺上人」と言い、門跡寺院ではないが代々公家の出だ。

 大本願に多くはないが、米や味噌、醤油、砂糖、塩、胡麻油などを寄進し、また、伊勢芋の種芋を渡して増やし広めていただくようにお願いし、お参りした。

 上人はたいそう喜んでくれて、伊勢神宮の祭主殿に宛てた礼状を託された。


 善光寺の入口では佐助の姉である猿飛 紙縒(こより)率いる8名の伊勢巫女達と合流した。彼女らは越中の村々を巡回し、病気や怪我の治癒をしながら、一向一揆の情勢を探っていた者達だ。


「あら佐助、久しぶり。背丈は変ってないのね。」


紙縒(ねえ)ちゃん、俺はもう25だぞ。背丈が伸びる訳ないだろ。」


 ちなみに佐助の身長は158cm、紙縒は162cmで負けている。

 それをいつも紙縒(こより)揶揄(からか)うのである。プイっと顔を背ける佐助になおも紙縒が追討ちを掛ける。


「あらもう25才にもなったのね。そろそろお嫁さんを貰わなくちゃね。うちの知世ちゃんとは仲が良いのでしょう。うふふ、約束はしてるの?」


 姉ちゃんやめでくれぇ〜、おいらの精神がズタズタだぁ。『行き遅れの姉ちゃんには言われたくない』とか返したいが、そんなことを言えば命が幾つあっても足りない。姉ちゃんには幼少の頃から一度も勝ったことがない。

 ああ、知世ちゃん真っ赤になってこっちを見てる。皆、なんで黙って見ているんだ。


「才蔵、なんとか言ってやれよ。」


「はあっ、紙縒殿、その辺にしておいては如何か。佐助が萎縮して警護が疎かになっては困り申す。」


 疾風様の助けだ。なんで才蔵さんに言わせてんだ? あれっ、紙縒(ねえ)ちゃんが俯いて顔が赤いぞっ。もしかして、才蔵さんは姉ちゃんの弱点なのか?

 


 そんな佐助姉弟の馴れ合いを皆で微笑ましく眺めた後、しばらく行くと、粗末な竹編みで囲った関所もどきの門があり、数人の武士達に誰何された。

 伊勢神宮から伊勢巫女達を率いて、上杉謙信公に謁見するために参ったと伝えた。

 俺と佐助、才蔵の3人は、伊勢神宮の神職の出で立ちで、お銀は伊勢巫女姿で他の伊賀者達は商人姿で4台の荷車を引いているのだ。



 だが俺達を中々通さず押し留めようとする北信濃の土豪の兵に業を煮やした俺は、謙信からの書状と拝領された脇差しを(かざ)し、これ以上理由もなく押し留めるのであれば、謙信公に訴え厳しく処罰していただくと言ったが、土地の領主に許可を得るから待てとの一点張りだ。

 どうやら土豪の兵士達は自分達の領主に知らせ、あわよくば俺達の荷の強奪を図るようだ。


 しかし間もなく、越後の軒猿と思しき20数人の男達を率いた武将が現れ、土豪達を一喝した。

「お前達、お館様の許しもなく関所など設けるとはどういうことだ。直ちに撤去し領主左門守に春日山城へ登城せよと伝えよ。半刻のうちに終わらさねば己ら皆打首に致す。」


 どうやら国境を見張っていた軒猿の報告で駆けつけたようだ。上杉謙信公に拝謁のため伊勢神宮から遣わされたというと、すぐに『ご案内致す。』言われ、俺達は周囲を軒猿達に囲まれながら春日山城へたどり着いた。


 春日山城は越後直江津の山城で海岸線から3km程の位置にある標高200m弱の春日山にある。

 山頂から西へ延びる稜線上には、大小5つの砦があり、南北東の山中及び平地には7つの砦が春日山城と道で繋がれ、一体となっている堅城である。



 城に上がり旅の汚れを落とすとすぐに、伊賀者達と伊勢巫女に荷駄を預け、俺と才蔵、佐助、お銀、紙縒で拝謁となった。

 謙信公の傍らには、5人の家臣が控えていた。


「伊勢神宮より使いとして参りました伊勢巫女の宰領を致しております、伊賀の藤林疾風と申します。

 此度は上杉謙信公より伊勢神宮へ伊勢巫女らへのお礼状をいただきましたので、不躾とは存じましたが『伊勢芋』の種芋を献上致したくまかり越しました。」


 俺が伊賀者であることを明かすと、傍らの家臣達の目が驚愕と警戒の色に染まった。


「うむ、伊勢神宮の歩き巫女はその方の差配であったか。過日の書状に認めたとおり、昨今の冷夏による不作に見舞われたが、伊勢芋のおかげで領民達の多くが助かっておる。あらためて礼を申す。」


「過分なるお言葉、痛み入ります。此度はご領主様の手で伊勢芋を増やし広めて頂きたく、種芋を持参致しましたので、ご笑納ください。」


「その方は伊賀の者、何故他国に斯様なことを致すのか。」


「謙信公と同じにございます。謙信公は義によって天下静謐を毘沙門天様に誓ったと聞き及びました。

 我らは、戦乱で苦しむ民を領国の分け隔てなく、皆仲間として助けたいと願う者達にございます。」


「 · · · 、さようか。しかし何ぞ礼をしなくてはならぬな。望みがあれば言うてみよ。」


「 · · 、しからば、謙信公の武勇をお貸しいただきたく存じます。」


「むっ、、何れを倒せと言うのだ?」


「御仏の名を語る一向一揆衆を倒すために、お力をお貸しください。」


「ぬっ、一向一揆か。奴らは元より我が領国に攻め入り敵対しておるわ。今さら何とするのだ。」


「一向一揆を鎮めるまでの不戦同盟を結んで頂きたくお願い申し上げます。これなるは織田信長公よりの書状にございます。」

 

 さらに、懐から北条氏政の書状を出し差し出す。

 書状に目を通した謙信は、読み終えた書状を家臣に渡し広間にいる一同にも読ませた。

 そしてしばし瞑目の末、顔を上げて言った。

 

「これは誠か。このようなことができるのか。」


「既に武田勝頼殿に会い、釘を刺しております。

 盟を破れば、織田、徳川、浅井がそして同盟を結ぶ北条も助けませぬ。加えて上杉が一斉に攻め掛かると。

 同盟を結べば後顧の憂いなく、全力で一向一揆討伐に当たれます故に。」


「受け申そう。積年の仇を遂げる機会なれば是非も無し。

 疾風殿、そなたらはしばし当地に逗留願えぬか。上杉家の武勇をご覧に入れ申そう。」

 

「承知仕る。我が配下は伊賀の手練達、一揆勢の物見にご助力致しましょう。」



 こうして俺と伊勢巫女、伊賀者達は上杉家の戦に参加することとなった。

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