第六話 伊賀 藤林疾風 VS 北畠具教 その1
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多気城までは、東回りで、途中の徒歩はあるが、河川と海路を使えば、およそ、まる二日で到達できる。
兵達には交代で舟の上で仮眠を取ってもらおう。
俺が率いる奇襲部隊は、北畠軍が出発すると同時に行動を起こした。百地砦からは、下柘植小猿という、若い忍者が率いる鉄砲隊が参加した。
移動は、川舟を使い服部川から、海に出て、夜の海上を移動する。幸い満月の月夜だったので、海上も明るく、満潮で危険な岩場も楽に抜けられた。
浜には深夜に上陸し、明け方までに多気城に詰め布陣する。
夜明けとともに、攻撃開始だ。多気城の麓にある霧山御所に火を掛け、焼き払う。ここに留まっていた下働きの家人達は、幸いだった。もし、城に入っていれば、焙烙玉や火炎瓶の投擲部隊の餌食になっていたのだから。
多気城に対しては、10門の投擲機の一斉射撃で、天守閣、本丸は焙烙玉により、瞬く間に穴だらけとなった。
また、大型の火炎瓶の攻撃で、激しく炎上した。
その後、投擲部隊の攻撃目標を、半数を正門に、半数を二の郭·三の郭に向けさせた。
しばらくすると、正面の大手門から、200名程が切り込み突撃をしてきたが、鉄砲隊の三段撃ちと、5門の投擲機の焙烙玉の斉射で、あっと言う間に、立っている者などなく、葬られた。
降伏の使者も来ないことから、おそらく身分の高い者は、生き残っていないのだろう。
「どうしようか、小猿。もう火薬がもったいないと思うんだが。」
「疾風様。もう残兵は、怪我人しかいないでしょう。武器を捨てて、出て来るように言いましょう。」
そう言って、小猿が大手門に駆けだして行った。まもなく、火の中から数名の負傷者が現れたが、
その後は、ただ城が焼け落ちただけだった。
「よし、次は大河内城に向かう。せっかく運んで来た火薬は、全部使ってしまうぞ。」
「疾風様、大河内城まで、焼いてしまうのですか。なんだか、もったいないですなぁ。」
「才蔵。大河内城は昔からある城だろ、建物は相当古いと思うぞ。この際だから、きれいに焼いてしまおう。あとから、建て直せばいい。」
その頃、伊賀では北畠の軍勢が、5つの砦を包囲していて、伊賀の本拠地と目される藤林砦を、本隊は5,000の兵で、囲んでいた。
なにせ巨大な砦なのである、周囲1Kmを更に遠巻きに囲むのであるから、多数の軍勢を要する。
そして、どこから攻め寄せるか、思案しているのであろう。水堀の辺りには、少数の偵察と思しき兵士が見える。
「伝令っ、南西郭から連絡。敵の一部が商家集落へ向かってます、おそらく、集落を焼き討ちにするつもりかと思われます。」
「わかった。焙烙大玉で迎撃する、南西郭から指示をせよ。」
「承知っ。」そう言って、伝令は走り去る。
投擲機は、大型火炎瓶や焙烙大玉なら、およそ
1km。中型火炎瓶や焙烙中玉なら、1.5kmの飛距離がある。
藤林砦の周囲は、あらかじめ碁盤の目によって、記号が振り付けられており、投擲機もその記号によって、向きと角度が決められているのだ。投擲機は、一面につき10門、合計80門が控えている。南西郭から、手旗信号で投擲位置が指示されてきた。
「南西投擲隊、焙烙大玉で全門照準っ。
『は』の『12』番、繰り返す、『は』の『12』番、投擲用意。」
「「「「「用意完了っ」」」」」
「放てっ。」
焙烙大玉の着弾とともに『ドドドドドーン』凄まじい轟音が轟き、商家集落へ向かう敵勢200人を吹き飛ばす。
と、南西郭から、投擲中止の手旗信号が、激振りされる。
「撃ち方止めぇ、撃ち方止めぇ。」
目標の敵勢には、過剰攻撃だったようで、立っている者は、一人もいなかった。
「敵本陣に、焙烙中玉を投擲せよ。」
父上が命令するど、東南と南の郭から、射的位置の手旗信号があり、両投擲隊20門から一斉に、焙烙中玉が投擲される。敵勢は慌てふためき、はるか山裾まで全軍が後退した。
本陣の半数は、仕留めたようだが、北畠具教は無事のようだ。
その後、四半刻、北畠軍は佇んでいたが、急に慌ただしく、退却を始めた。
どうやら、疾風が居城を攻めた知らせが届いたと見える。各砦を包囲していた軍勢も、退却して行く。
それから、一刻。こちらにも伝令が届いた。
藤林砦には、既に百地、服部を初め、各家の頭領が集まっている。
「伝令っ、伝令っ。疾風様率いる奇襲隊、昨日昼には、多気城を攻略。次に大河内城を攻略すべく、向かいましてございます。
多気城は、焙烙大玉と大型火炎瓶の投擲により、外壁以外は跡形もなく焼失。麓の霧山御所も焼失しております。
奇襲隊は被害なし、全員無事でございます。」
「「「「ウォー」」」」
「どうやら、北畠を叩く絶好期のようですなぁ。
どうします、疾風殿の手勢200では、荷が重いでしょう。後詰を出しましょうぞっ。」
「皆の衆、それでよろしいか?」
「構わぬ、出陣すべきだっ。」
「伊賀の勢力を広げる好機ぞっ。」
「出陣に依存はないっ。」
「北畠を生かせば、また攻め寄せられる。この機に倒すべきだっ。」
「伊賀を護る、自分達の戦だ。徹底的にやりましょうぞっ。」
「よろしいっ、では各家から半数の軍勢を出していただきたい。
鉄砲は我が藤林家と百地家、それ以外の忍家は、弓と槍をお願いする。
出陣は、一刻後。それまでに腹ごしらえをし、用意願いたい。」
「「「「オオーっ」」」」