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伊賀忍者に転移して、親孝行する。  作者: 風猫(ふーにゃん)
第六章 伊賀忍者 藤林疾風 戦国に同盟を作る。
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第五話 15年目の正月と、伊賀の発展。

元亀3(1572)年1月 伊賀藤林砦 藤林疾風


 この時代に転移して、早15回目の正月を迎えた。

年月の経つのはあっと言う間で、俺は数えで30才になっている。

 父上や俺の守役の道順と弥左衛門も、50代の初老を迎えている。俺の未来知識で寿命が延ばせているとは言え、いつまでも第一線に立たせる訳には行かないだろう。

 

 元旦の朝は、藤林砦の別館の大広間で砦内の家臣や孤児院の皆と挨拶を交わす。そして皆でお雑煮をいただく。皆、笑顔で会話しながら美味しいと声を上げている。こんな皆の笑顔が俺の15年の成果だ。俺はこの笑顔を守らなければならない。

 このあと伊勢巫女の皆は、孤児院の年長組を引き連れて、川舟を使い伊勢神宮へ初詣に行く。護衛は家族のいない独身で暇な男達だ。去年もこの中から幾組かのカップルが生まれたらしい。若い衆ばかりだから、一緒にいるだけで楽しいに違いない。


「兄上っ、それでは行って参りますね。お土産を楽しみにしていてくださいねっ。」

 14才になった綺羅(いもうと)も初詣に出かけるからと、満面の笑みで俺に告げてくる。このブラコンの妹もあと数年で好きな男ができるのだろうか。



 年始の三日目は伊賀や甲賀、伊勢の各地から代官達が集まって来て、親睦の賑やかな宴会だ。

 俺の未来知識で進化したお節料理と清酒、麦酒、麦焼酎で盛り上がっている。各人の大きな膳には、膳からはみ出す伊勢エビや鮑に鯛のお刺身、旨煮やきんぴらゴボウ、なますや天婦羅の盛合せなどが、伊賀焼きの皿や器の上にところ狭しと乗っていて、動かすのは危ういのだが皆膳を抱えると好きな場所に移動して、懇親を深めている。

 俺の周りには、各自好きな酒だけ持って皆が入れ替わり立ち代り話しに来る。長く居座ると皆が俺に挨拶できないので気を使ってくれているのだろう。


「坊っ、今年も正月からいい天気で、良い年になりそうですなっ。はっはっはっ。」


「道順、いい加減、坊はやめてくれっ。ほらっ、川順(せんじゅん)が笑っているじゃないかっ。」

 川順は道順の24才になる息子だ。道順に代わって各地の探索に当たってくれている。


「坊は坊ですじゃ、儂にはいつまでも幼い坊にしか見えないでござる。それともなんですかな、坊に子でもできましたかな。はははっ。」

 こいつはダメだ。最近酔うと話しがくどくなっている。


従兄(あにさん)は、外へ出過ぎではありませぬか。従姉(とよ)殿がお寂しいでしょうに。」

 そう口を挟んで来たのは、母上の実家である甲賀望月家の従弟、望月夜霧丸こと霧信くんだ。俺より2才下の彼は結婚して1男1女がいる。


従弟(きりのぶ)殿、そんなことはないよ。この前だって台与とは伊勢志摩の平井の実家に行って来たし、俺達は仲良しだよ。」


「そういうことではないのですが · · · 。」

 なんだか霧信くんは呆れているようだが。



「御曹司、伊賀や伊勢の領内での河川改修が、この10年で8割方進み、湿田を増やせたことで麦との、二毛作の広まりで飢饉の為の備蓄は3年分を越え、もはや米麦は売る程ありますぞっ。」

 嬉しそうに話し掛けてきたのは、農事奉行の森田浄雲爺だ。伊賀猪田郷の土豪だが伊賀12人衆と言われる一人で、幼い頃の俺に魚釣りを教えてくれた釣りの師匠でもある。

「あははっ浄雲爺、それはもしかして、爺の好きな麦焼酎をたくさん作れるので喜んでいるのかな。」


「はっはっはっ御曹司、人聞きが悪いですぞ。最近は麦焼酎から梅酒だけでなく、イチジク酒や金柑酒などいろいろ増やしておるのですぞ。

 儂の作る果実酒は、堺を通じて各地で持て囃されておりましてな、最近では杜氏の浄雲と言われてるのですぞっ、はっはっはっ。」


 この爺さんのことだから、どうせ作ったうちの半分以上は、自分の胃袋に納めているに違いないよ。

 はあ、娘の菊おばちゃんに飲む酒量を厳しく監視するように言わなきゃだめだな。可愛い孫達が大勢いるのだから、長生きさせなきゃ。



 この15年で、伊賀の石高も10倍になっている。元々山間の耕地の少ない伊賀は、10万石に満たない国であったが、河川の改修と灌漑用水路の整備や水車の普及により、耕地面積の拡大に加えて二毛作や茶や果樹栽培の成果が20万石に倍増させている。

 さらに、製鉄による農具や刀鎧などの武具、伊賀焼きなどの陶磁器や漆器、清酒に加えて麦酒や焼酎などの酒類、味醂や味噌、醤油、海水塩、鰹節などの調味料、魚の干物、鹿や猪肉の燻製、そして伊勢では綿花栽培から綿の布団や座布団、綿織物、製紙など商品生産が石高以上に富をもたらしている。

 去年は石高に換算して100万石を越えただろう。

 ちなみに伊勢志摩の伊賀への併合前は60万石弱であったが、去年は200万石は越え、なお毎年飛躍中である。



「御曹司、懸案だった例のものがようやくでき上がりましたぞっ。」

 声を掛けてきたのは、鍛冶奉行の杉谷善住坊だ。彼は根来寺の末寺の出身だが、不良坊主に妹を襲われて返り討ちにしたところ理不尽にも破門されて、藤林家を頼って伊賀の家臣となった者だ。

 善住坊に依頼していたものとは、焙烙玉を越える歩兵の武器、迫撃砲だ。

 迫撃砲の砲身は技術的な問題から青銅製となり、砲身の厚さが増すことでかなりの重量となった。

 そのため、移動にはかなりの労力を必要とするのだが、貴重な馬に替えて犬ぞりを真似て8頭の犬でゴム車輪を着けた迫撃砲を引かせることにした。おかげで伊賀伊勢の領内から野犬が消えた。

 砲身の口径は50ミリ、砲身長は1.5m。一門の威力としては小さいが、投射機による焙烙玉よりはるかに飛距離があり50門以上で活用することを想定しているので、その威力は桁違いに飛躍するはずだ。



「若、早速新造戦艦に積みましょうぞ。これで海から直接に城を攻められる。腕が鳴りますぞっ。」

 話に割り込んだのは、水軍奉行の九鬼嘉隆だ。

以前から大型の戦艦には焙烙玉の投石機とパイプ式の簡易迫撃砲があったが、その飛距離はせいぜい100mくらいであり、海戦でしか役立たなかったのだ。だが、新たにできた青銅製の迫撃砲は最大2Kmの飛距離がある。 


 九鬼の水軍も大きくなっている。伊勢の志願者を集めて、1,000人規模の水軍となっている。そして、現在5隻となった新造戦艦は、外装が総鋼板貼りで全長60mのなんと蒸気スクリュー船だ。帆船でないことを偽装するため、偽のマストと帆を張っているが全くの飾りで、外洋に出て帆を畳み修練を続けている。


「嘉隆、あれはいずれ現れる伴天連の船団と戦うための船だ。安易に城攻めなどで正体を見せる訳にはゆかぬ。ましてや長島攻めなどは浅瀬しかないぞ。小型船での鉄砲隊を鍛えておくのだ。」


「残念でござる。若のお許しがあれば今すぐ琉球や呂宋に出かけて行きたい気分でござる。はあっ。」




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