第五話 築城 藤林要塞砦と、戦火の足音
さて、伊賀には石灰岩が豊富にあることがわかった。畑の肥料に使うほか、石灰石を焼成して、コンクリートの試作をしていたが、うまくいったようだ。
このコンクリートを使い、新藤林砦を造る。
藤林の館は、なんの変哲もない平地にあり、砦とは名ばかりの館である。ただし、館は忍者屋敷であり、隠し扉や罠など、各種の仕掛けがある。
俺は、館を囲むように、一面100mの八角形の塀と堀をまず作った。堀を掘った土砂のうち、砂利はコンクリートに混ぜ、塀の壁に使った。
このコンクリート製の塀なのだが、外周と敷地側までは幅20mもあり、壁の入口が一面に一箇所、計8箇所設けられているが、塀の内部は、迷路になっていて、敷地内には繋がっていない。
つまり、通り抜けられないのだ。敷地内側からの通路からは、小穴が開けられ、槍や弓で攻撃ができる。
本当の出入口は、東西南北4ヶ所に、塀の上から跳ね橋の階段が取り付けてあり、ここから出入りする。塀の高さは5m塀の厚さは50センチもあり、外側の塀の厚さは1mにしてある。
堀の巾は50mもあり、水を引いた水深は5m、舟でもないと攻めるのは容易でない。
そして、八角の角に当たる塀の上には、円柱形二階建ての郭を設けて、籠城戦に備えた。
敷地の中は、藤林館のほか、一階を大広間とし、二·三階を休憩室とした別館を建てた。
あと、地下1階地上3階建の1棟60戸建て、1DKアパートを8棟建てた。8ヶ所の郭も併せれば、3,000人くらいで籠城できる。地下は、食糧などの資材貯蔵庫。
家人の居住のほか、籠城戦に使うのだ。
そして、残った敷地は、水田と畑だが5haある。井戸も豊富にあり、碁盤の目のようにコンクリートの道が築かれている。
唯一変わってないのは藤林館だが、館の周りには、四方に趣きの違う庭園が造られた。
北側は、鯉が泳ぐ池を配した木々が色濃い和風庭園。南側は、芝生に盆栽の木が所々にある。
東側は、草花の花壇で満たされ、西側には、竹林が静けさを醸し出している。
草花が好きな母上のために造った東側の庭には、ブランコとベンチ、そして日陰で、お茶でもしてもらおうと東屋を造った。
外周部の迷路の塀と、水堀は3ヶ月。敷地内の施設は更に3ヶ月掛かって完成した。
「あなた。領民が私達のことをなんて言ってるか知ってるかしら?」
南側の東屋で、綺羅を抱いた母上が、父上に話し掛けている。
「よくは知らんが、大方、鳶が鷹を産んだとでも言っておるのじゃろう。はははっ。」
「惜しいわっ、近いけど、もっと凄いのよ。」
「なんじゃ、もったい付けずに、教えてくれても良かろう。」
「あのね、、虎と、孔雀が、麒麟を産んだのですって。くすっ。」
「なんじゃとっ。そりゃあ、褒め過ぎじゃわい。」
「そうなのよ、それでね。綺羅のことは、天女様の生まれ変わりに違いないですって。」
「やれやれ、疾風のせいで、皆、祭り上げられてしまうのぉ。」
「領民達からしたら、仕方ないのよ。今の伊賀は争いもなく、堺の次くらいに活気に溢れているって、商人達も言っているわ。」
「うむ、百地殿も言っとる。おかげで、領民の衣食住ばかりか、鉄砲などの高価な武具の調達も容易になったとな。
しかし、伊賀の平穏もいつまで続くかわからん。織田と今川、浅井と六角がぶつかるじゃろうし、
それに北畠は、裕福になった伊賀を狙っておる。」
その年の秋の収穫後まもなく、北畠具教が兵を起こし、伊賀攻めを開始した。その数8,000余、大将は具教自らが出陣してきた。
一方伊賀は、早くから情報を得ており、刈り入れ作業も、長柄鍬や千歯こきを使い、男衆も戦さ働きに出ていないので、藤林砦の敷地内の収穫を後回しにし、総力で刈り入れを行い、わずか4日で終わらせた。
また、戦力は5つの砦に集約し、女衆と子供は、藤林砦に匿われた。
別館で、伊賀全家の当主が集まった軍議の場が開かれた。
「北畠の軍勢は、およそ8,000。畠山や織田の備えに4,000ほどを領内に残したようです。」
「半蔵殿、すると北畠具教の居城、多気城にはどのくらいの兵がいるのでしょいか。」
「疾風殿、多気城には、およそ2,000の兵がいるものと思われます。」
「とりあえず、籠城戦じゃな。小さな砦では護り切れぬ、斥候程度を留め、兵を集約しよう。」
「百地殿、百地砦から鉄砲隊を100人、お借りしたいのですが。」
「構わぬが、途中での奇襲は、難儀じゃぞ。
おそらく、本陣までの敵の構えは、相当厚いと見ねばならぬ。」
「いえ、本陣には向かいませぬ。多気城を落とします。
藤林砦の投擲部隊50人と護衛の鉄砲隊50人、百地砦の鉄砲隊100人で、奇襲部隊を編成し、北畠具教の居城、多気城(霧山御所)を攻めまする。」
「多気城が危ないとなれば、具教も伊賀攻めに構っておれんか。」
「引き返すでありましょうな。霧山御所を取られては、面目が立ちませぬからなぁ。ふふふ。」
「疾風殿には、策がお有りなのですな。籠城するだけでは、田畑も荒らされ、面白くありませぬ、伊賀の一同、麒麟児 疾風殿のお手並みを拝見致しますぞ。」