第四話 伊賀焼きと、忍びの武具造り
母上に待望の第二子が生まれた。俺と年が一回りも違う、涼やかな目もとをした妹だった。名前は、綺羅と父上が名付けた。きらめく星のように生きてほしいとの願いを込めたそうだ。
去年から作っていた石鹸が、液状ながらようやく完成して、新たな商品として売り出した。
家中では、試用を兼ねいち早く使っていたところだった。
おかげで、産後の母上や調理人達の衛生管理が、できてほっとしている。
「母上、おめでとうございます。可愛い妹ができてとても嬉しいです。」
「疾風。この子はあなたが守ってあげてね。きっとお兄ちゃん子になって『大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる』って言うのじゃないかしら。
うふふふっ。」
「母上っ、変な妄想は止めてください。それより、鳥の蒸し焼きと蜜柑を持って来ました。食べて滋養をつけてください。」
「わかったわ。疾風、いつもありがとう。」
さて、伊賀を護るために俺が準備している武器の一つは火炎瓶と投擲機なのだが、アルコールは焼酎の蒸留で作るとして、割れやすい器は陶器で作りたい。
前世ではこの地に『伊賀焼き』があったはずだ。伊賀の土地には良質な粘土があるはず、陶工を呼んで探させなくては。
甲賀の信楽焼の陶工に来てもらい見つけさせた。上質の粘土が見つかったって。さっそく窯を作り、焼酎の徳利と小さい酒の徳利を作らせた。
両方とも火炎瓶に化けてもらうつもりだ。
忍者の使う刀は普通の長剣だと刃渡り70cmだが、俺は忍者刀として刃渡り45cm直刀で、刀身には黒錆を施し、鞘も漆塗りに砂を混ぜて艶消しをして滑り止めとした。
また、刀を踏み台として使えるように鍔を大きくして、鞘と繋いで薙刀としても使えるようにした。
鞘には、5mの麻ひもが付けてある。
手裏剣は、苦内という両刃のナイフが主流だが、重量もあり、刃を向けて投擲するのが難しいため、小型で投げやすい十字手裏剣を作った。もちろん、黒錆を施した。
刀と手裏剣にはオモト、クララなど野生の毒草の毒を塗り、浅い傷でも殺傷効果を高めさせた。
鎧兜は重い鎧の代わりに極細の針金で網を作り、二重にして布地を内張りにし、長袖シャツとズボン下も作った。従前の鎖帷子と比べ重量は1/5以下だ。
兜は麻布を細網で5重に包んで、フルフェイスのヘルメットとした。
その他、20mの瘤縄を付けた鈎縄や、手甲鉤及びカイザーナックル、竹筒製のハンドガン、発煙筒、つま先に刃を仕込んだ大鋸屑を膠で固めた鉄板底の靴、鉄棘の付いた肘宛てと膝宛て。etc。
これらを、鼻歌交じりに作っていたら、見ていた道順が呆れたように、声を掛けてきた。
「坊。もしかして坊は役小角様に師事したことでもあるんですかい?
こんな武器をいったいどこから思いつくんで。」
「道順。俺は未来を見てきたから、過去の忍び道具のいいとこ取りをしているだけさ。
これは道順が使ってよ。役に立つと思うよ。」
「焙烙玉の小型の奴ですかい?」
「うん、手榴弾というんだよ。中に破砕した小石が入っていて飛び散るから、焙烙玉より強力だよ。
投げて割るだけでいい。まあ、持ち運びには注意だね。」
「そうですかい、戦場で役立ちそうですな。」
「それより道順、なにか報告があるんじゃないの?」
「えぇ、坊が職人達に作らせていた、コンクリートっやつが、調合割合に目途がついたようで、造れるようになったと知らせがありやした。」
「よしっ、砦の縄張りはできているから、明日から藤林砦の建築開始だっ。
道順、明日から賦役の者達を50人ほど、館の方に回してくれるかな。力仕事だから男衆がいいな。」
「了解でさ。坊、百地砦より立派なのを造ってくだせぇよ。皆、期待してますぜっ」