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Sacred tear  作者: バーバラ
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新たな出会い

第2話 新たな出会い


 次の日俺は早速大学への休学届を準備した。

保護者の了解がいるため、母親に連絡すると何も言わずにわかったとだけ話してくれた。心配そうな声で話していたが、やりたいことがあるならと聞いてくれる母に申し訳なさを感じながら手続きを行った。


バイト先にも電話を入れた。

店長はひどく怒っていたので、とりあえず店に行き直接話をすることにした。


昼間に店で滾々と説教を受けながらも、とりあえずの理解を得た。

店長との話の途中で、かすみちゃんが出勤してきた。


「ハヤテくん、バイト辞めてしまうのですか?」

悲しそうに俺を見つめ、俺の作り話の理由を聞くこともなく仕事に戻っていった。


まぁここ辞めたら彼女とも接点ないしなぁ。

彼女との少しの思い出を振り返りながらバイト先を後にした。


さて、やることはやったし出発の時間まで何をしようかな。

夕方一人でアパートでくつろいでいた。


このアパートも今月限りということで解約を申し出た。

ここでゆっくりするのも今日が最後だと思うと少し寂しかった。


少しウトウトしていると、何かの気配を感じ、目が覚めた。


「誰だっ」


とっさに身構えると、部屋の隅に影が立っていた。


「またあんたか、今度はなんだ。」

影に驚くこともなく、普通に問いかけた。

昨日の出来事ですっかり抵抗がなくなってしまったのか。


「そなたの英断をまず心から祝福しよう。さて、これからどこへ行くか迷うたなら、まず神切町へ向かうがよい。」


そして小さな石を渡してきた。


「探し物が近いことを教えてくれる。役立てるがよい」


端的にそういうと影は消えていった。


相変わらず一方的に喋るやつだ。

あいつは一体何者なのか。でもどうやら悪い奴じゃなさそうだし、玲人なら何か知ってるかもしれないな。


そして約束の時間になり、玲人と再会した。


相変わらずの銀髪に着流しでたばこを吸う姿は通行人の目を引くのか、多くの人が通りざまに彼を見ていた。


「では早速いくとしようか」

本人は気にも留めず出発しようとした。


で、どこに行くんだと尋ねると玲人はそっけなく答えた。


「知らん」


え、知らんのかい。心で突っ込みを入れながら俺は立ち止まり玲人に話しかけた。


「なぁ、それなら隣町の神切町にいかないか?」

俺が提案するとなにか根拠でもと言わんばかりに鋭い眼差しでこちらを見てきたので、影のことについて話した。


「というわけで、昨日今日とその影が色々と教えてくれたってわけ。あ、そういえばこんなものもくれたぞ。なんか探し物に反応するとか」


ポケットから取り出した石を見せると、玲人は一瞬だが驚いた顔をした。


「なにか知っているのか?」

俺は疑問に思い尋ねた。


「それは命の石のかけらだ。なんでそんなものがここにあるのかと驚いただけだ。その影とやら、誰だか知らんが只者ではないことは確かだ。」


命の石とは強い魂に反応し、強大な力を放つ聖なる石だとかなんとか。

よくわからんがすごい石だそうだ。


「確かにその石なら、五剣の力を持つ者に反応するかもな。特に行くあてもなかったことだし、神切町へいくとしよう。」


そういって二人は神切町へ向かい歩き出した。


ほんとにあてがなかったんだな。

完璧に見える玲人も案外抜けたところがあるんじゃないかと、思わず笑いそうになった。

影のお告げがなかったらどうするつもりだったのかと玲人を茶化そうと考えたが、うるさいと一喝されそうな気がしてやめた。



「なぁ、そういえば今更なんだけど、玲人って何者なんだ?」

まさに今更過ぎる質問を彼にぶつけた。

企業秘密だ、なんて一蹴されるかと思ったが、意外にも玲人は語りだした。


「俺は選ばれしものの守護者、とでもいっておこうか。代々五剣の戦士を守る役目を持った家系に生まれた。もともと我が一族には特殊な力が備わっている。とはいっても簡単な魔法のようなものが少し使えることくらいだが。そしてもう一つ、一族に伝わるこの剣が俺を導いてくれる。」


玲人の仕込み刀は特別な、妖気のようなものを放っている。

普段は人に見えないよう細工をしているそうだが。


「これは妖刀村正。無知な貴様でも名前くらいは聞いたことがあるだろう。」



村正


史上最も有名な刀工の一人、千子村正による作品である。


特にその切れ味は斬味凄絶無比と言われ、至上の武器として屈強な武士たちに愛された。


「この剣の導きに従い、五剣の力を集め、神の信徒の野望を阻止しなければならない」

そう話す玲人の言葉には力が込められていた。


刀の妖気と玲人の力強い言葉にすっかり聞きたいことは忘れてしまった。


「でもそんなすごい剣を持っていて、玲人ほどの実力があっても一人では適わない相手がいるってのか?それにあいつらの野望って...」


「着いたぞ」


俺の質問を遮るように玲人がそう言った。いつの間にか隣町へ来ていた。


神切町(ジンサイチョウ)は俺たちの住む町から車で一時間ほどで着く場所にあり、山々に囲まれた田舎だ。古くからの建物や寺が残るが、観光などは栄えておらず、田畑と山ばかりが目立つ何もない場所だ。



するとポケットの石がほんのりあたたかい光を放っていた。


「どうやら当たりのようだ。早速五剣にゆかりのある人物を探すぞ。」


しかしもう夜中だ。宿をとり明日改めようと説得し、宿を探した。


近くに小さなホテルがあり、手続きを済ませた。


「そういえばさ、これからの資金てどうすんの?」


俺は最後にもらったバイト代と貯金があったがそれでも20万円もない程度だ。

この先のことを考えたら不安だった。


「心配ない」

玲人が手をかざすと何もないところから突然トランクが現れた。

中には現金がびっしりと詰まっていた。


「今は余計なことは考えずに目的を最優先しろ」


なんでこんなに金があるの?という質問をさせてはくれなかった。


翌日は朝早くから町中を調べてまわった。


この町には童子切にまつわる伝説がいくつか残っていた。



童子切安綱


平安の世に悪事を働いた鬼、酒呑童子を当時の武将 源頼光(みなもとのよりみつ)血吸(ちすい)という刀で切ったことで、この刀に童子切の名がついたと言われている。


また、天下五剣の中で最も古いということから、筆頭の地位を持っている。


作刀は大原安綱(おおはらやすつな)。刀工の始祖と呼ばれる人物だ。



この町には京で暴れていた酒呑童子がここで生まれたという伝承がある。

そして頼光寺(らいこうじ)という寺が代々その怨念を封じているという。


さっそく寺へ向かった。


「お邪魔します」


尋ねると、住職さんが現れた。


「こんな寺に来客なんて珍しい。どうかされましたか?」


住職の名は大原具全(おおはらぐぜん)。年齢は50歳くらいだろうか。

聞けば大原安綱の子孫だという。いきなり目当ての人物に出会えた。


「あの、童子切について聞きたいことが」


そういうとにこりと笑いながら童子切についての逸話を語ってくれた。


しかし、どうやら俺たちのことを日本刀オタクくらいにしか思っておらず、大した話は聞かなかった。


「すみませんが、住職にはお子さんはいらっしゃいますか?」

痺れをきらし、玲人が質問した。


するとにこやかに話す住職の顔が曇った。


「ええ、息子がいます。しかしあいつのことを息子だと言うのには抵抗しかありませんね。君たち、息子のことを探してるのですか?だったらやめた方がいい。」


なにがあったんですかと俺が聞いたが住職は首を横に振るだけだった。


せめて名前をというと、カイト、とだけ答えた。


いくぞといい颯爽とその場を離れる玲人に慌ててついていきながら振り返り住職さんに会釈した。彼は深々と頭を下げていた。



「おい玲人、あの人が子孫だってんなら住職さんにお願いしてもよかったじゃないか」

そういうとアホかと言わんばかりに言い返された。


「あの住職が特別な力を持っていることは確かだ。しかし俺たちの求める五剣の力は奴には備わっていない。多分その息子とやらが継承しているはずだ。そっちをあたるぞ。」


もう一度町中の人に聞き込みを行い、カイトという名前の人物についての情報を集めた。

しかし、特別な力だとか、神の信徒とやらとの戦いとか、もっと派手なことを予想していたが正義の活動というのは地道なものだ。



大原海斗。

住職の一人息子で、現在23歳になるそうだが、地元では有名なワルだそうだ。

今も定職につかずフラフラとしているそうだが、ここ数カ月姿を見なくなったそうだ。

そして彼のことを知っている人から奇妙なうわさを耳にした。


「俺は力を手に入れた。この力があればなんだってできる。あの寺をぶち壊してやろうか、なんて物騒なことを言ってましたよ」


そう話すのは彼の幼馴染だという男性だ。

たまに彼とは飲みに行くそうだが、やはりここ数カ月は音信不通だという。


しかし幼馴染から聞く彼の人物像は少し違っていた。


確かに素行も悪く人に迷惑をかけることも多かったが、人情味に厚く彼を慕っている若者も多くいるのだとか。



集めた情報の中にあった、この町で酒呑童子を祀っているいるという祠に向かった。



閑静な街並みから少し山の方へ入ったところに祠があった。

そしてその前に一人の大きな男が立っている。


「なんやお前ら」


振り返った男は、190cmは優に超えている。それに短髪の黒髪はそのいかつい見た目をより引き立たせていた。


「俺たちは大原海斗という人を探しています」

そういうと男は近づいてきた。


「わしがその大原海斗や。なんやお前ら、わしになんか用事かいな」


関西弁全開で喋るその男に凄みを感じたのはその体格からだけではなかった。

とんでもない覇気を放っている。


「早速で悪いんだが、俺たちはあんたの力を必要としている。一緒にきてくれないか」


俺と玲人は自己紹介をすませ、これまでの経緯と旅の目的を話した。


聞き終えると、大原は大きく笑った。



「なんやそういうことか。わしの力が必要ねぇ。せやけどお前さんらからはその力とやらを感じへん。お隣さんは気づいとるようやが、わしは既に童子切の力を開放しとる。ほんでこの力をわしはわしのために使うゆうて決めとんや。悪いがお引き取り願えんか。」


食い下がろうとしたが、玲人に制止され一旦引くことにした。



「何で止めたんだよ。」


「あの男、呪いをかけられている。それもかなり複雑なのを。それにあの力、尋常ではなかった。下手に相手をするのは得策ではない。」


呪い?何物も受け付けない豪傑といった男に呪いをかけるなんて、そんな力を持ったやつがいるのだろうか。

いや、心当たりはある。


「もしかして、神の信徒が!?」


「わからない、しかしその可能性は高い。とりあえずもう少しやつの周辺について探るぞ。」



改めて聞き込みをしていくと、少し違和感があることに気づいた。

海斗のことはみんな知っているし、頼光寺についても話を聞けるのだが、誰からも住職の話を聞くことがなかった。


何かある。そう思った時、玲人から提案があった。


「今日の夜、寺に忍び込むぞ」


どうやって、という俺の顔を見ると玲人は右手を広げた。


「いっただろう、俺には特殊な力があると。姿全部とまではいかないが、宵闇に姿を紛らせ、気配を消すことくらいはできる。」


そういえばかすみちゃんの記憶を操作したり、結界を張ったり、色々と便利な力があるんだなーと関心していた。





いけないことをする小学生のような気持ちで少しワクワクしながら寺に忍び込んだ。


左右に分かれ、玲人に気配を消してもらった俺は寺の奥にある住職の部屋の近くまで来た。


窓から中をのぞくと、ろうそくの明かりの前で住職が座禅を組んでいた。


瞑想中で集中しているのか、微動だにしない。

そして月明かりが窓から差し込むと彼の影が伸びた。


その影は住職のそれではなく、角があり、異形の姿をしていた。



驚き、声を上げそうになるのを必死にこらえていると、障子を開け、部屋に人が入ってきた。


海斗だ。


「覚悟しろ、化物め。今日こそはお前を殺してやる。」



住職の姿をしたその男は、目を開け、海斗にゆっくりと話しかけた。


「おお、我が愚息よ。ちょうどよい。私もお前に施していた呪いが今しがた完成したところだ。」


「貴様に息子呼ばわりされる筋合いはない。何をしたか知らないがお前だけはここで切り捨てる。」


そういうと海斗はつぶやいた。


「刀神、童子切」


刀の名を呼ぶと同時に彼の右手に一筋の刀が現れた。


―あれが童子切・・・―


あまりに見事な刀身に見惚れていた俺だが、飛び出す機会を失ったまま固唾をのんで窓から二人の様子を見ていた。


「死ねぇー」


その刀で住職に海斗が切りかかった。


しかし次の瞬間、海斗の体は動かなくなった。


「な、」


驚く海斗に対し、実に楽しそうに具全は語りだした。


「お前にかけた呪いは、私を切ることを拒絶するもの。そして私に対する殺意が増すほどにお前の体を蝕んでゆき、最後は死に至らしめる。この術が完成した今、お前に待っているのは死でしかない。」


動かない体を必死で動かそうとガタガタ震える海斗に具全はこう続けた。


「お前は選ばれし力を持っておる。私には授かれなかった力を。しかしその力は世界を滅ぼす。悪魔の巫女を守護するなどという呪われた宿命を持つお前は、ここで死なねばならない。それにお前が呼んだ援軍とやらはこんぞ。この町の人間は私の存在を知らない。そういった邪魔な記憶はすべて改ざんさせてもらった。」


座ったままの具全がゆっくり立ち上がると床の間にある刀を手に取った。


「自らの力に気づきさえしなければ死ぬこともなかっただろうが。生まれの不幸をのろうがいい。呪いでじわじわと殺してやるつもりだったが、この手で介錯してやろう」



ゆっくりと具全が剣を抜き振りかざしたところで、俺の体が動いた。

しかし間に合わない。


「死ね我が息子よ、忌まわしき力とともに」


俺は窓をぶち破り海斗の元へ向かったが具全は迷いなく剣を振り下ろした。



「キィン」


その瞬間玲人がどこからともなく現れ具全の太刀を受け止めた。


「正体を現したな、鬼め。貴様の好きにはさせん」


窓から転げ落ちるように部屋に入った俺も急いで鬼切丸を抜いた。


「ほぅ、私の剣をうけるとはなかなか。それにもう一人、獲物が勝手にこちらにきてくれるとは。まとめて始末してくれる」



玲人の刀を払うと、具全は力を込めた。


頭からはグッと角が生え、肩はもりあがり服は裂け身体が巨大化した。


「私は酒呑童子の力を得た。私を切れる刀は童子切安綱のみ。しかしこやつは動けぬ。さぁどうする。」


すごむ具全に対し、玲人は高らかに笑った。



「な、何がおかしい。」



「なぁ、具全さん。誰が動けないって?あんたこそ刀神の力を甘く見てるんじゃないのか」


具全がハッとなり海斗をみると、そこには動けないはずの海斗の姿はなかった。


具全は俺のほうに振り返ったが、もちろんそこには刀を構えた俺しかいない。


どこだと辺りをキョロキョロする具全に声がかかった。


「上だ、化け物」


具全の真上から海斗が現れ、真っ二つにその身体を切り裂いた。


「な、なぜだ。なぜ、動けた」


そう言い残し、具全の身体は煤になり消えていった。


やったーと玲人に駆け寄ろうとしたが、海斗を見ろと目線を送られて、海斗の方を見た。


「親父...」


たたずむ彼をみて、はしゃぐのをやめた。


少しして、海斗が口をひらいた。


「昼間はあんな態度をとって悪かったな。助かったで。せやけど、なんでわしは動けるようになったんや?急に身体が動いたからとっさに上に飛び上がったんやけど」


俺もさぁといった顔で海斗を見ていたが、すぐに玲人の仕業だとわかった。


「玲人、お前呪いを解く力まで持ってるのか?」

そういうと、いやいやといいながら玲人がスラスラと説明してくれた。


「具全の呪いはこいつが自分のことを父親だということを自覚していると攻撃できないというものだった。おそらく呪い殺すために必要な憎しみを増幅させるためには必要な作用だったのだろう。だから一時的に海斗の記憶をいじって奴が父親だということを忘れさせた。やつが鬼の姿になってくれたおかげでスムーズに記憶改ざんできたよ。意図しなかったがその太刀にも迷いがなくなったおかげでやつを倒せたというわけだ。」


なるほど、とはなったが瞬時に呪いの種類まで見抜くとは。いや、初めて海斗に会った時に既に気付いてた?


なんにせよ玲人はやはりすごい。


「海斗、積もる話はあるだろうが俺たちと一緒に来てくれないか。まだやらなければならないことはたくさんある。それにこいつの事も鍛えてやらねばならない。」


そう言って玲人は俺を見た。


「...わかった。世話になったしな。それに疾風だったか?お前まだ自分の力の使い方がわかっとらんよーやな。よっしゃそんなこんなもワシが先輩として教えちゃろ」


なんか二人に子供扱いされているのは悔しいが、心強い仲間ができたことで、旅が順調に進んでいると実感した。


そして海斗の口利きで宿をとってもらえると言うので、一旦そこに戻ることにした。




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