第四話 過保護なオトナ達 前編
山城歴157年 南山郡 管理事務所
護たち御影警備隊を見送った施設の管理官たちはお互いを顔を見合わせて、彼らの第一印象について話し合う。
もちろん枠組みは違えど同じ場所で働く者たちを値踏みすることは重要ではあるし、そのための意見交換も必要である。
しかし、施設長と事務員の二人の田中やここで働く各企業、または市営の作業員にとって重要なのは、彼らの話題という名の娯楽であろう。
そう、彼らは日々、そういった話題など新しいことに飢えていたのだった。
「でっ、お前らはどう見る?」
「そうだなぁ、相葉ちゃんだったかな?可愛かったね、うちの娘もあんな可愛い時期があったなぁ。」
「俺の孫娘も、あんな感じで、じいじ、じいじと後からついてきて可愛いのなんの――――」
「いくらなんでも、成人してる女性に対しての感想に、そういったイメージで話すのは失礼かと……。」
「そういえば名簿があったな、今年で21歳! 俺らにとっちゃどっちにしろガキだけど、あの娘はおどおどしていて成人してるようには見えんかったな。」
「そのリストは安全上の理由から預かってるだけなんですからね? コピーをとって見せびらかしたりするとか悪用をしないでください? 本気で通報しますよ?」
「わかってるよ。だが隊長にしても副長にしても問題があるようには見えんなぁ、この平均年齢で「こんな場所」に派遣されて来るような警備隊に回されるなんて、あいつら一体なにをやらかしたんだ?」
「まあ、僕が知ってる限りでも公務員から素行が悪くて使えないようなのが前の事務所やここより場末の補給所に送られてきたり、それでも改まらない奴らは駐留艦隊の船に載せられて、強制的に缶詰にされてる。なんて事しかなかったもんね。」
「はい、彼らには申し訳ないですが多少コネを使って調べさせて頂いたところ、一昨年あたりに逆巻市内において、いくつかのグループが抗争を繰り返しており、彼らの内、五名がその片方の中心にあったグループのメンバーだったようです。」
「「やるじゃん。」」
「そして、去年の初頭に、抗争が完全に沈黙した後は……大学生でこの成績なら問題なく修学旅行ですね。」
「ああ……成績上位者達に贈られる、山城本星への旅行だな。ただ、いい噂は聞かんな。」
「姪っ子がギリギリ順位内に入って「私も行ける」って最初は喜んでたけど、帰って来た後「二度といかない」って言ってたよ、一度だけ仕事で行ったことがあるけどそんなに悪い所かな?」
「山城本星は今でもクリーンで自然豊かであり市のような一定の温度などの快適さはありませんが、旅行した人達の評判は良いようです。ですが、修学旅行に行った人達の書き込みをみると、どうも本星からの扱いが悪かったみたいですね。」
「「例えば?」」
「滞在は一週間程度で、数日は地球や山城の歴史や、その比較のための資料を一日中閲覧する、恒例の記念パレード時には研修と称して警備員として働き、食事は基本的に宿泊施設でのみ、最初と最後の夜だけ安いレストランでディナー、自由時間はお土産を買う時間を確保できる程度。となっていたようです。」
「もういい……理解った……聞いててつらい……。」
「旅行ってレベルじゃないね、でもそれってやっぱり港から本星に行った子達だけなんだよね?」
「はい、残念ながら市の評判はあまりよろしくありませんので、推測になりますが、そんな場所から来た「彼ら」を体よく押し込めて、安く良いように使った後、お土産だけは買って帰らせよう、そう考えたと思われます。事実こういった印象をもったことを修学旅行の「参加者」の皆さんが各所で書いておりますので、当たらずとも遠からずかと。」
「「可哀想に。」」
「話が脱線しましたね。その後、市長から直々に呼び出され協力を要請される事になり、承諾した五人が結成メンバーとなって、大学を卒業後に警備隊を設立。一年の訓練を経て、今に至ります。」
「宇宙船の運転、運行の免許とかは? 警備隊設立まで必要なレベルだと、あれは取るのに数年はかかる代物だけど?」
「先程からの五人は全員、Aランクでライセンスを取得しております。失礼ですが相葉隊員の様子を見るに意外ですね、15歳くらいから仲間内で協力しあい取得したようです。市長からの要請があった理由は主にこれでしょう、先程も接舷する際は見事なマニュアル操縦を披露して戴きました、意味はありませんが操縦技術は高いようです。」
施設長の田中は話さなくなってきたが、まだ興味はあるようだったのでAIである立花が追加の資料を二人の電子端末へ転送する。
もちろん後で消すように言いながら、だが。
「さすが成績上位組、見事なもんだ。でも、抗争してた部分以外は本当に何もないね? むしろ競技や学力的な所の活躍が凄いな、エリートと言って差し支えないぐらいだ。」
「はい、客観的に見ても価値が低迷している資源地帯の警護で使われるような人材達ではありません。施設長の仰る通り「なにかやらかした」と思っていいでしょう。ただ現在の教育制度では大学卒業までは未成年なので、市長のいつもの意向により、何か大事件に関わっていても名前が出ることがありませんので、これ以上はわかりかねます。」
「ふーん、どう思う施設長? ・・・・・・施設長?」
この施設は、各資源を巡る競争や争いの中、長い年月を経てもまだ場所を変えながらこの「南山郡」を管理するために存在している。
施設長も何十年も前に配属され管理を任されてからもここに居続け、来るものはもっぱら作業員であり、それ以外の来訪者はまばらではあったが、たくさんの人物を見てきた。
自分の立場を強化するため、功績稼ぎに採集の効率化を強いる役人や会社のお偉いさん。
時には資源は元より、供給される物資の横流しや一部の専売を目論む悪党ども。
そういった者達と渡り合い、立花と協力しながら南山郡を守ってきた古強者は、物事を判断する能力だけは磨いてきたつもりであるが、今回はどうにも判断がつかないようだ。
「わかんねぇ、けど確かにあの御影って隊長からは不思議と危険な感じがしたな。」
「そう? 真面目そうな感じだったけどね、後ろの二人も信頼してるみたいだったし、わからない所はあるけど悪い子達じゃないよ。たぶんね。」
「まあ、そうだな。ここへ来る連中の中ではずば抜けて若いしな、問題が無ければそれでよし、ダメな奴なら叩いて教育してやるし、危ないやつなら根性を叩き直してやる、大物になりそうなら叩き上げて鍛えてやるさ。部署が違ってやり難いが、まあそんなところだろ。」
「いえ、彼らはそんなに長くいるかわかりませんし、また来るかもわかりませんよ施設長?」
「あらら、見込まれちゃったかな? 彼らも大変だ。困った爺さんだよね、まったく。まあ僕も同じ市の仲間として応援したいし作業員達も若い子がいて喜ぶだろ、色々お世話してあげなくちゃ、立花ちゃん彼らはもう出発したかい?」
「はい、田中さん。とりあえずはこれから警備範囲を確認してもらい、彼らが二週目に入ってから作業船は作業を再開します。」
「よし! そろそろ苦情の処理をしないとね、軍艦の故障だっ! つってんのに、こっちに苦情を寄越すんだからたまらないよ。」
「大手には俺から話すからこっちに回せ。」
「市営は?」
「なんでこっち側のあいつらまで文句を言ってきてるんだ? バカどもめ、無視しろ、責任は俺が取る。」
「赤坂社の三番採集船がフライングです。」
「責任者を呼び出せ、ここに直接だ、早くこないとペナルティを課すとも言っておけ。」
逆巻市 市営
「第一資源採集宙域 管理施設 第一事務所」
この場所を訪れる者を管理し監督する役割を持った職員達は、今日も苦情とルールを守らない違反者達と戦う。
そして今度は部署が違うものの、同じ市の職員として働く若い隊員たちを見守るという大役を自ら背負い、今日も元気に働いていた。