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グシャ  作者: ウエ木エウ
6/14

回る、止める

「とりあえずさっさと終わらせっぞ! 始めるからなっ」


 覚悟を決めたらしい金髪男が、端末を構えて叫んだ。

 クルクルと回り続けるダイスを指でタップする。

 ダイスの回転が瞬間的に早まり、停止した。

 ダイスの目は3。

 すると、見えなくなっていたコース上の3つ分のマスが、白く光りながら浮き出る。


「すっげーー」


 感心したような金髪男の声。

 さっき痛い目にあったこと、忘れたんだろうかってぐらいの能天気さだ。


「これ、進んでいいんだよな? またバチってなんないよな?」


 金髪男は志摩さんを見ながら訪ねる。

 志摩さんは困ったように首を傾げた。


「進め、ってことだと思うから大丈夫だとは思うんですが……」


 自信なさげな表情は無理もないと思う。

 志摩さんだってゲームの事を知ってるわけじゃない。


「だよな? んじゃま、お先に~~」


「隼人、気を付けて」


 心配そうな悠仁さんの声。

 金髪男はににやっとした笑みを返し、ひょこひょこっという頼りない足取りで立ち上がると、枠の外に足を踏み出した。

 周囲が不安そうに見守る中、金髪男の一歩は無事に次のマスへ。


「お、いけたな」


 金髪男は嬉しそうに2つ目、そして3つ目のマスへと移動する。

 目的のマスについた金髪男の端末から、軽快な音楽が流れ始めた。

 金髪男が画面を覗き込む。

 わたし達になにが映っているのかはわからないが、特徴的な甲高いアルの声が聞こえてきた。


『このマスに止まったプレイヤーのあなた! 2マス進めるよ!』


「お! 幸先いいじゃん!」


 嬉しそうな金髪男の前に、新たに2つのマスが現れる。

 金髪男がひょいひょいっと移動すると、再びアルの声が聞こえた。


『このマスに止まったプレイヤーのあなた! 落とし穴にはまって一回休み!』


「へ?」


 金髪男が間の抜けた声を漏らしたその時、金髪男の姿が一瞬で消えた。


「隼人!?」


 悠仁さんが慌ててマスの外に出ようとしたが、身を乗り出したと同時にバチっという音がして弾かれる。


「順番と違う人は出ることができないんだと思います」


 志摩さんは倒れた悠仁さんに手を貸し立たせると、下唇を噛みながら言った。

 コース上に出てしまうと、何があっても助けには行けない。

 その悔しさを滲ませて。


「隼人! 大丈夫!?」


 前髪を焦がした悠仁さんが声をかけると、消えてしまったマスから金髪男の手だけがひらひらと見えた。


「おおーー 大丈夫だ。ここ、このマスが落とし穴になっちまった」


「えっ?」


 理解できない悠仁さんの隣にいた志摩さんが、はっとした表情になる。


「先程アルの声がしました。落とし穴にはまって一回休み、と。このコースにはマスに書かれた事が現実に起こる仕掛けになってるんじゃないでしょうか?」


 マスに書かれた事が現実に起こる。

 

「マジで?」


 そんな大掛かりな事あるの?

 思わず口から出た言葉に、志摩さんは真面目な表情で頷く。


「マジです」


「やっべー! すっげ面白いんだけど!」


 テンションの高い金髪男の声が、落とし穴の中から聞こえた。

 悠仁さんは苦笑いし、


「なにがあっても動じないお前の方が面白いよ」


と言う。

 わたしとしては、前髪が焦げても気にしてない悠仁さんの方が面白い人だなって思ったけど。

 

「アトラクションは好きだけどさぁ、なんか過激すぎない?」


 いつの間に移動していたのか、さっきまで落ち込んでいたレミたんがわたしの隣に立っていた。


「アトラクションってレベルじゃないよ、これ」


「もぉ、あったまきてるんだから! 優勝できなくても、エクステ代と慰謝料はしっかり請求してやる!」


 レミたんは怒りが冷めないらしく、細い眉を吊り上げている。

 志摩さんの目を気にしない辺り、相当だな、と思った。


「おーーい、さっさと次いってくれよ! この落とし穴、岩の中適当に掘ってあっから、めっちゃ居心地悪いんだけど!」


 痺れを切らした金髪男の声。

 次っていうと……

 皆の視線が三輪さんに集まる。

 三輪さんは金髪男の状況を見ていたからか、ぎょっとした顔になった。

 なかなか端末を取り出さない。


「三輪さん? どうされましたか?」


 志摩さんが声をかけるが、なにも言わない。

 今のを見て、やりたくなくなったのかもしれないけど、三輪さんがやらないと、みんなの順番は来ない。

 ここにずっといるわけにもいかないし。


「おい、おっさん! なにしてんだよ!」


 金髪男の声に三輪さんは苦虫を噛み潰したような顔をして、渋々ながら端末を取り出した。

 金髪男の時と同様、クルクルと縦回転しているダイスを太い指でタップする。

 瞬間的に回転が早くなり、止まった数字は2。


「2……」


 ぼそっと言う三輪さんの顔は、力がない。

 さっきまでの偉そうな態度とは大違いだ。


「おっさん!」


 金髪男の声に促されるように、三輪さんは足を一歩枠の外に踏み出す。

 顔面蒼白で、顔は汗だらけ。

 サプライズとか、フラッシュモブとかがない世代の人にとっては、なにが起こるかわからない状況ってかなり怖いのかもしれない。

時間はかかったが、なんとか2マス目に到達した三輪さんの端末から、アルの能天気な声が聞こえた。


『このマスに止まったプレイヤーのあなた! 身に着けている衣類をひとつ失う!』


「衣類?」


 三輪さんは自分が着ている服を見る。

 ジャケットを脱ごうとして、やめた。


「これは全部オーダー品だぞ。そう簡単に捨てれるか!」


 そういうと、その場にどかっと座り込む。


「こんなお遊びに付き合わされる事になるとはな! 馬鹿馬鹿しいっ! やめだ、やめ!」


 我慢の限界って感じだったのか、三輪さんはそういうと端末も床に放り投げてしまった。


「中年のヒステリーとか見たくないんだけどぉ」


 レミたんが口を尖らす。


「完全に切れてるね、あれ」


 わたしがぼそっと言うと、美知佳さんが枠ぎりぎりのところから三輪さんに声をかけた。


「三輪さん、後で回収すればいいんですよ!」


 美知佳さんが優しく声をかけてくれたのに、三輪さんは顔を背けたまま動かない。


「三輪さんっ」


 美知佳さんが心配して言っているのに、知らん顔の三輪さん。

 本当、たちが悪い。

 こういう時文句をいいそうな智美が、じっと三輪さんを見ていることに気づいた。

 わたしの視線に気づき、


「なに?」


と低い声で言う。


「いや、なんで何も言わないのかなって思って。次あんたの番でしょ?」


 智美は切れ長の瞳でわたしを見た後、再び三輪さんに視線を戻す。


「協力しないプレイヤーは罰ゲーム」


「え?」


「どんな罰ゲームか先に知っておきたくない?」


 そこまで言われてはっとした。

 智美は見たいんだ。

 三輪さんが罰ゲームを受ける様を。


「性格悪いって言われない?」


 わたしが尋ねると、智美は初めて嬉しそうに微笑んだ。

 最低。

 その時。

 三輪さんの端末からブザーのような音が聞こえてきた。

 投げ捨てた端末はコースから少し離れたところにあり、なんて表示されているのかわからない。

 ブーブーブーという音と、


『10、9、8』


というアルの声でカウントダウンが始まる。


「三輪さんっ」


 美知佳さんが急かす様に声をかけた。


『5、4、3』


 カウントダウンは進んでいく。

 さすがの三輪さんも何か察したらしい。

 慌ててネクタイを外すと、それを放り投げた。

 刹那。

 ジュっという音と共に、マッチ棒のように一瞬で燃え上がるネクタイ。

 どれほどの高温だったのか、ネクタイだったものは一瞬で消えてしまった。

 あまりの衝撃に、誰もなにも言わない。


「おい!? なにがあったんだよ? この焦げ臭いなんだ?」


 落とし穴の中から金髪男の声がしたけど、説明できなかった。

 

「アルのカウントダウンが終わっていたら、どうなってたんだろ」


 誰かに向けて発した言葉じゃない。

 だって、最悪の結果しか頭に浮かばなかったから。

 

「あのネクタイみたいになってたんじゃないの?」


 それを口にしたのはレミたん。

 余裕がなくなったのか、口調がいつもと違った。

 真剣な横顔からは、素のレミたんが伺わせられる。


「まさか……」


 わたしが笑って濁そうとすると、志摩さんが首を横に振った。


「いえ、あり得ると思います。だからと言って試すのも危険なので、確定して言う事ではないのかもしれませんが」


 なんとなく気づいた。

 志摩さんはきっとこのゲームが、単なる賞金をゲットできるゲームじゃないと最初から知ってたんじゃないかって。

 それは智美も同じ。

 志摩さんは率先して皆を率いていこうとしてるけど、智美は離れた場所から観察している。

 今の状況を見た後じゃ、ダイスを回すのも躊躇するんだろうな、と思っていたが、智美はいつの間に操作していたのか、コースに新しいマスがふたつ増えた。


「え? これどういう事ぉ?」


 レミたんがわたしに尋ねる。


「あの人がダイス回したってことじゃない?」


「回しまぁ~~す! みたいな宣言なかったから気づかなかったんだけどぉ」


 絶対言わないだろうな、智美は。

 智美は長い足によく似合うハイヒールを鳴らし、マスからマスへと器用に移動していく。

 金髪男のところを通過する時は、穴と枠線ぎりぎりのところを歩いていた。

 あの穴、みんなあそこを通らなくちゃいけないんだろうけど、蓮君、大丈夫かな。

 ゲームが始まってもずっと田辺さんにしがみついている蓮君を見て、心配になる。

 スタートから5マス目に着いた智美は、端末を見た後、口の端をにっと吊り上げた。

 あの表情から察して、なにか良いことが書いてあったのかもしれない。


「ね~~! なんて書いてあったのぉ!?」


 レミたんが声をかけるが、智美は何も言わなかった。

 教える気がないようだ。


「めっちゃ性格悪ぅ~~」


 レミたんが嫌そうに顔を歪め、それを見ていた美知佳さんはクスクスと小さな笑い声をる。

 それとは対照的に、隣にいた田吾作さんは真剣な目で智美を見ていた。

 珍しく、と言ったら悪いけど、なにか考えてるような顔。


「田吾作さん? どうしたの?」


 振り向いた田吾作さんの綺麗な瞳と、真正面で目が合ってしまった。

 ドギマギとしているわたしの心を知らず、田吾作さんは再び智美に視線を戻す。


「貴方達、これってどうしたら終わるか知ってる?」


 田吾作さんの質問に、美知佳さんは小さく首を傾げた。

 質問の意図がわからなかったのだろう。


「先にゴールした人が勝ち……って感じだと思うんですけど」


 控えめに答える美知佳さんに、田吾作さんは数回頷き、次に志摩さんを見た。

 志摩さんは眼鏡の位置を直しながら、なにかに気づいたのか目を見開いた。


「ああ、そうか。戦略、というわけですね」


「先生? どういう事?」


 レミたんの問いかけに、志摩さんはなんて説明しようか困ったように、右手の人差し指でとんとんと自分の額を叩く。


「先ほど、アルカヌムはデスゲームじゃないかとお話ししたと思うんですが」


「ああ、生死をかけたってやつ?」


 わたしが答えると、志摩さんは深く頷いた。


「そうです。デスゲームというとどういうイメージをお持ちですか?」


「殺し合い……みたいな?」


 わたしの言葉にレミたんが「げぇっ」と低い声を出す。

 周囲の注目を集め、慌てて笑顔でごまかしてたけど。


「そうです。最近は漫画や小説、映画等の影響でデスゲーム=集められた人と人が殺しあうゲーム、になっていますが、元は自らの生死をかけて行うゲームのことをデスゲームと呼んでいました」


 誰も言葉を発しなかった。

 アルカヌムなんて聞いたこともないゲーム。

 予備知識がないわたしにとって情報は大切だったから。


「このアルカヌムは、ルールがとても多いゲームなんじゃないかと思います。例えば先程のマスの外に出ることができるのは、ダイスを回したプレイヤーだけ、といったぐあいに」


「でも、先生、アルはそんな説明しなかったよ?」


「ええ。そこがこのゲームの落とし穴です。隠されたルールを見つけながら、プレイしていくしかない」


「それが……協力?」


 わたしの問いかけに、志摩さんは首を縦に頷く。


「更に停止したマスに書かれた内容は、そのマスに辿り着いたプレイヤーしか知る事ができません。なので、自分が停止したマスはどのような内容か情報を共有することも、協力プレイとして必要なんだと思います」


「じゃあ、あの人、ルール違反じゃなぁい? 自分のマスの内容言わなかったけどぉ」


 レミたんが少し気持ちを持ち直したのか、いつもの甘えるような口調が戻った。

 レミたんの言葉に、智美は全く動じない。


「協力が必要、アルはそう言いましたが、このゲームの本質は勝利することです。具体的な説明はありませんでしたが、恐らく、普通のダイスゲームのように一番最初にゴールしたプレイヤーが勝者となるのでしょう」


「え? どういう事? なんか意味わかんなぁい」


「つまり、協力しながら、尚且つ他プレイヤーを蹴落とす必要があるんじゃないかと、そう思います」


 最後の言葉は、志摩さん自身とても言いにくそうだった。

 顔を引きつらせるレミたんと、表情が昏くなる美知佳さん。

 蓮君を気遣ってか、離れた場所にいた田辺さんの耳にも今の言葉は聞こえていたのだろう。

 いつも笑顔を絶やさない田辺さんだが、どこか悲しげに見えた。


「蹴落とす……だからあの人は俺達にマスの内容を教えないんですか?」


 それまで我関せずといった態度だった悠仁さんが、会話に加わる。

 落とし穴に落ちたままの金髪男を気にしていたようだが、さすがに自分も知っておいた方がいいと思ったのだろう。

 

「多分、そうかと……」


「違うと思うわよ」


 志摩さんの言葉を、彼の隣にいた田吾作さんが否定する。

 

「え?」


 どういう事かと思い口を開きかけたわたしを、田吾作さんが手で制した。


「隠したほうが有利に進むなにかが書かれていた。そっちじゃないかしら」


「ゲームが有利に?」


 更に問いかけようとして、やめる。

 なんで? と、聞かなくてもわかった。

 勝つためだ。

 今はまだコースに出ていないわたし達。

 でも一度でもダイスを回したら……敵となる。

 罰ゲームの過激さから察するに、敗者が無事にここから出ることができるのかわからない。

 この時初めて、わたし達は仲間じゃない、敵対する者なんだと、そう認識した。

 多分、他のプレイヤー達も。

 

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