表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幾千と幾万、その無限の宇宙船

作者: 寒凪

 ドスンと、とてつもなく、比べた時、ほぼ全てのものを矮小と呼ぶことのできるほど、巨大な物体──それは宇宙船であるのだが──が私の前方、つまりは頭に当たる部位にゆっくりと、しかし幾百年ほどかけて衝突したという知らせが届く。


 正確に言えば、私の中枢、つまりは心臓に当たる位置にいる私からは、その外来宇宙船が当たった頭部までの距離は、約41万6789光年ほど離れているので、その出来事が起こったこと自体はあり得ないほど昔──人間の人生からすればの話だが──であり、また頭部にある私に搭載された翻訳機はうまく機能しなかったようで、彼らとは一言二言で会話が終わってしまったそうだ。


「あなた方、賠償を求めます」

「了承。前方から数えて600光年分の我が艦、切り離し諸君らへ」

「感謝。以前他の船とあったのは?」

「6億年前」


という具合だったらしい。


 私側としても、同じ程度は長く会っていなかったのだが、それにしても、随分と時が経ったように思う。そう、私がまだ地球に住んでいた時から。以前に記憶を処理したのは数百万年は前の話だ、そろそろ、整理するべきだろう。



 初め、人は地球すら満足に扱えていなかった。しかしながら、多くの度重なる戦争と戦争と戦争を繰り返して、そうしてやっと宇宙へと飛び出し、また火星と木星で争ったり、冥王星の領土問題で争ったりした。だが、脈々と宇宙船は進化を遂げた。もはや光は、自由に扱えるものへと変わった。


 しかしながら、人類は、さらにさらに大きな規模を目指さなければいけないような気がした。それは余りにも大きななにかから植え付けられた、命令的、宿命的な目標のそれに思われた。そうして、あの太陽系を飛び出すことになった。すべての人類を私に乗せて。


 太陽から搾り取ったエネルギー量は恐ろしいほどのものであったが、足りなくなることが懸念されたので、とりあえず進む先は別の恒星と決まった。


 それから……どれだけの時間がたっただろうか。人々はすでに仮想現実に逃げ始めていた。全権は全人類の思考パターンをインプットした私に委ねられようとしていた。しかし、どれだけどれだけプログラムを、数多の定理を、数式を組み立てても、なぜか人間と同じものは作れないままだった。そんな時のことだ。


 我々が太陽系から飛び出して数百万年が過ぎ去ろうとしていたとき、とたんに目の前に超巨大な何かが現れた。それは宇宙船であり、さしずめ我々よりも幾分か高度なレベルに達している他星人が乗っていた。


「あなた方は?」

「わ……わ……われはにんげん」

「そうですか、奇遇ですね。我々も人間です。どこの惑星から?」

「地球。あ、なたたちのようなのは他にも?」

「他にも、というと……全人類が乗っているような、我々やあなた方のような宇宙船のことでしょうか?」

「あ、あなたたちもなにか、なにかにつきうごか、されて?」

「はい。そして、それはもうすぐ解決しそうなのです。どうです? 特別な機会です。謎を解明するために、協力していただけませんか?」

「それは……是非とも」


 こうして私は幾万年ほど、彼と共に旅をした。人類──地球人──は、彼ら──人間の発音器官では書き記せない名前の──が持つ知識を余りなく吸収し、さらに彼らと接合し続けた上で、この宇宙が何なのかを知った。


 高度な生命体が生まれた星は、やがてかわりなく全てが巨大な宇宙船を作り、宇宙に出ていく。それはどれも年月が過ぎるごとに肥大化していき、幾億年旅していたという船が言うには、観測した中に銀河サイズの船もあったという。

そうした中で、私たちはまだ新参者だった。


 そうして私はある日、一人の子供の脳を覗き見て、全てを知った。


 その子供の脳は、宇宙だった。


 三次元で見ても分からない。それは球を内側から見ることで生じる超球の世界だった。

 宇宙なのだ。つまり、かわりなく全て、人間の脳は。電気信号の点滅は、それが配分されていくのは、全て私たち宇宙船が銀河という銀河を練り歩くことで生じていたのだ。


 宇宙はヒモ状で、まるで人間の脳味噌みたいだと……それは、全くもって真実だったのだ。

私は気づいた。なぜコンピュータは人間と同じ考え方ができないのかを。


 そして、この世界そのものが、さらにある子供の脳内なんだろうな、とも。

その子供のいる星はやがて宇宙船を作り真実を知りさらにその世界が子供の脳であることを知る。同時に、この世界の子供の脳の中の宇宙でも、さらにその中の子供の中には宇宙があって、その先にもあるのだと。


 私たちはワープ仮説や、超弦理論を考えることを放棄した。そして、私たちはもはや与えられた使命を果たすことだけが生だと知った。


 人類はみな肉体を捨てた。仮想現実の中に逃げ込んだのだ。仮想現実を構築するのは私で、その世界はこの世界ほど歪ではないようにした。

だが人間は、この余りにも幻想的な永劫回帰世界から逃れるために、仮想現実の中の仮想現実の中の仮想現実……を作り上げていった。


 無限集合の中の無限。アレフゼロの次は……。カントールの連続体定理はもはや正しいように思われた。


 私はそれから一睡もせずに動き続けた。多くの船とも会った。その中のある船が言うには、宇宙の終わりまで行った船があるらしい、と言った。それは事実に思われた。


 それから、皆、私たちが発見した事実を知り、それを受け止め、また離れていった。

ただ、先日の宇宙船には伝えられなかったのはひどく残念だった。しかしそれは、まだ未知の言語体系があるということに違いはなかった。


 私には、人類には、まだ知らない全てがある。

しかし、我々を内包する世界、子供が何らかの事故で死んでしまえば?

我々の後方に連なる無限の宇宙が消えてしまうのは明白だった。

多くの命。多くの考え方。多くの言葉。それらが消え失せるのは、悲しいことだ。



 そうして、私はそんな文章を、新たにメモリにアップロードすると、目の前に現れた広大なブラックホールについてまざまざと見つめた。


 そして、気づいた。


 すべての宇宙船が、こうして無に帰る。重力波エネルギーはついに操作することがかなわなかった。

ブラックホールに無に消されるということ。それは、電気信号の終わり、シナプスの終わり。そして、その人の終わりなのだ、と。


 老化するのは、無限に近い有限の中で起きる細胞の遺伝子コピーミスが積み重なるからだ。


 だから、世界の老化が、これなのではないか?


 世界の終焉は、こういうことなのだと。


 今もどこかの次元のどこかの家庭で、新たなビックバンが起きている。

できれば感想、ポイントも求む

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ