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縄文エスノグラフィ  作者: のはうず
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遠浅の浜

山葵わさびが目にしたこの時代の東京湾は、沖まで数百メートル膝丈ぐらいまでしかない遠浅の穏やかな内海にちかかった。潮がひくとサッカーコート数面分もの広い範囲が潮干狩りし放題になるので、浜村の手の空いているあらゆる者が海に貝などを収穫しにいく。獲りにいくのではなくまさにただ拾いにいくといった様相だ。水溜まりに取り残されてしまった哀れな魚などもなんの労もなく拾い上げ腰の籠にいれていく。


彼らいわく拾って収穫できるものの中で極上のものを「食了くり」とよぶそうで、奥の里で取るのもクリ。浜で取るのはハマグリなのだそうだ。ちょっとえぐ味とかがあってニブいのは”どんグリ”と呼ぶのだと。文字ももない縄文人の言うこと、本当かどうかわからないけどここらの村人はそう言っていた。



その中でもこの季節、みなが熱心にそれぞれのお気に入りの流木を手に砂地の中から掻き出しているのがマテ貝である。砂地から呼吸管を表面に出しているのだが、近寄っていくとピュっと砂の中に潜り込んでしまう。気が付かれずに近寄れさえすれば穴を掘らずに引っこ抜くことができる。逃げられても静かに待ってればまた表面にでてくる。だから「待って貝」なのだという。ダジャレか!と真偽の程は怪しいが縄文人の言うことなので多めに見てほしい。



波打ち際の砂地が湿っているところまで行くと、綺麗に均された浜砂にポツポツとちいさな穴が空いている。それがその下に生き物がいますよーという印だ。中でもマテ貝の空気穴は大きく、わかりやすい。これをほじくっていくと、ほぼ外れなく貝にたどり着ける。

マテ貝は幅数センチ長さ10センチぐらいの短冊状の二枚貝で、味は食いごたえのあるアサリといった感じだ。これが砂地に対して縦に埋まっているので、掘れば取り逃すこともない。実にハズレのない貝なのである。



このマテ貝のように縦穴に住んでいるといって思い出すのが竪穴式住居たてあなしきじゅうきょである。今、山葵わさび達もこれに住んでいる。



人類は自然にできた洞窟のような横穴に住んでいたのが、やがて竪穴住居に住むようになったと歴史の授業などで教わった。横穴式住居のあとに登場する竪穴式と聞いて、縦の穴を思い浮かべ、マテ貝のように人が縦穴を掘って首だけをだしている様を想像して、「そんなんだったら横穴のほうが住みやすいんじゃなかろうか」と思ったものである。その誤解が解けて、縦穴とは竪穴と書くのだと判るようになっても、その実態がどういうものなのかは、こちらに来るまでよくわかっていなかったし気にもしていなかった。



山葵わさびは浜の村に自然に迎え入れられると、ののめと一緒に数日は海岸での食料採集の仕事をしながら子供達がまとめて住まう長屋のようなところに住んでいたのだが、おさからいい加減あたらしい家を建てろと命ぜられた。なにせ分業制もないこの文化水準では、大工もいなければ工務店もない。なんと自分で竪穴式住居を建てることになったのである。


ようやく貝や魚の採り方に慣れてきたばかりのところで、家を建てろといわれてもまるで経験がない。山葵わさびがこちらでの日常生活をする常識に欠けたものがあることを、おおよその村人には既にバレていて、おさは家をたてるために1人サポートに付けてくれた。



「おれは鯨水クジラミのたぐむだ。」


ぶっきらぼうに名乗った12〜3歳ぐらいの反抗的な悪ガキは、あと数年もしたらののめと夫婦になろうと憧れを抱いていたそうで、頼りない山葵わさびに対して初日からなにかと当たりが強い。だが、ののめが浜に出てしまっている今、この第二次反抗期まっさかりの少年と素人の二人が協力してなんとか家を建てねばならない。



「ふふ、君らが見たこともないような快適な住宅を建ててやろうじゃないか!」


ハッカーという単語の語源をたどれば、もとは手斧の一つでもあれば家から家具まで自在につくってしまう器用な人のことの指す呼び名であった。弘法筆を選ばずである。であるならば、この長から貸し与えられた石斧一つで立派な家を建てるのはテクノロジーギーク界隈では名うてのハッカーと呼ばれた者の使命であろう。



「というわけで、たぐむさん!まずは普通の家の建て方教えてください。よろしくお願いします!!」


年の長幼関係なく、技能や知識を持つ人を敬うことを忘れない。これもハッカーの美徳なのである。



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