第7話 マスターからの依頼
ステータス確認後、僕はアリアスさんにマスター室に来いと言われた。
「これがあんたのギルドカードとギルドバッジだ」
アリアスさんから手渡されたギルドカードには名前と現在のランク、つまりSSSランクが表記されている
バッジにはディーレスト王国で神聖視されているドラゴン、その両側に剣が彫られている
この剣の意味は“信頼”
右側が冒険者、左側が依頼者だという
つまり、信頼なくしてはギルドにはいられないという戒めを込めたものだ
「カードの自分の名前の文字は間違ってないか?」
「はい、特にないですね」
アリアスさんは緊張がほぐれたように椅子にもたれため息をつく
「まったく、今日はとんでもない日だ」
「・・・あの」
「ああ、気にするな。あんたのランクが確定した以上、警備局に報告しなきゃならねぇ。警備局の人間が王都中に新たな冒険者が出たという知らせを報じる義務があるからな。その際、気を付けてほしいことがある。うすうす気づいてると思うが今後あんたへの依頼が殺到する可能性が非常に高い。それこそ、AランクやSランクといった難易度の高い依頼が大半を占めると思う。あんたはSSSランクとはいえ新米冒険者だ。いきなりそんな危険な依頼を受ける必要なない。むしろ、仕事の流れを知らずに受けたら命を落としかねない。だからこそ、まずは簡単な依頼から受けて仕事の流れを覚えてほしいんだ」
「そうですね。でも、僕は今までたくさんの魔物を討伐してきましたからそれ以外の依頼があればいいのですが」
「そうか。それなら、是非受けてほしい依頼がある」
「どんな依頼ですか?」
アリアスさんから手渡されたのは薬草採取の依頼書だ
「薬草採取・・・ですか」
「何だ、不満か?」
「いえ、そうではないのですが。それをなぜマスターのあなたが持ってるんですか?」
「その依頼書は、3年間だれも受けてくれないんだ」
「さ、3年!?」
「ここの冒険者は魔物を討伐してこそ真の冒険者だとかぬかす奴らばかりだ。討伐だけがいいという訳ではない。俺も何度か魔物討伐以外の依頼も受けてくれと懇願してるんだが誰も耳を貸してくれねぇ。依頼者も誰も受けてくれないと俺に毎週のように苦情を言ってくる。だから、腕のある冒険者にも頼んだんがあっさり断られちまった。結局、3年もの月日が流れて今に至るって訳だ」
「なるほど、それなら喜んで受けます」
「助かるぜ。報酬は依頼書通りだが構わねぇか?」
「勿論です」
金目当てだけに冒険者になろうだなんて毛頭ないからな
前世で仕事において信頼は何物にも代えがたいものと親から聞いてたから、まずは依頼者とのやり取りで信頼を得るところから始めたい
依頼者は、アザール地区という森に近い地域に住む貴族だそうだ
僕は平民だから粗相のないようにしないとな
「えっと、ここだな」
着いた場所は、ギルドから東へ歩いて12~3分ほど歩いたところにあるウッドデッキが目立つ大きな屋敷だ
どんな人なんだろう
ドアをノックして
「すみません、依頼を受けに来た者ですが」
すると、ドタドタと勢いよくこちらに来る足音
ドアが開くと、20代の男性が出た
「・・・い、依頼を受けに来てくれたって本当かい?」
「はい、こちらがその依頼書になります」
男性は依頼書を確認すると、突然涙を流した
「ど、どうされました?」
「やっと、・・・やっと依頼者が来てくれた。本当に・・・ありがとう」
「あの、まだ内容を聞いてないのですが」
男性は袖で涙をぬぐい
「ああ、すまない・・・。私はヘリッツ・フェン・ノバリスト子爵だ。君は?」
「僕はリーヴェル・ジェスナーです。早速ですが、どんな薬草を採取すればよろしいですか?」
「・・・」
「あ、あの・・・。どうかされましたか?」
「君はきっちりしてるね。以前受けに来てくれた冒険者は何を採取すればいいんだ?とかこんなの他の奴に頼めやとあっさり断ったからね。その冒険者とは大違いだよ」
「そうですか。それで・・・」
「ああ、話がそれてしまったな。とりあえず中に入ってくれ」
リビングに案内されると、本当に広々とした空間だ
さすが貴族って感じだ
「まあ、そこで立ってるのもあれだし。座ってくれ」
子爵からそういわれて、真ん中にあるテーブルの椅子に座る
「さて、薬草だが。5種類の薬草をそれぞれ30本ずつ採取してきてほしい。もちろん、採取場所は私が所有している森だ」
「分かりました。それでその薬草の見分け方はどうすればいいですか?」
すると、子爵は後ろにあった大切にくるまれた布を取り出し、それを開く。
中にはたくさんの薬草だ
「こんなに薬草の種類があるんですね」
薬草にほとんど興味がない僕には驚きだ
「これでもほんの一部だからね。まだまだあるよ。っと、採取してきてほしい薬草だったね」
子爵は、10秒足らずで5種類の薬草を僕の前に並べる。どれも前世でテレビや店で見たことのある薬草ばかりだ。
この世界でもあるんだ
「これらを探してきて採ってきてほしい。といっても、森は広いしところどころに自生しているから1日で探すのは難しい。何日か探してそれぞれ30本ずつ採取する。それが私からの依頼だ」
「わかりました。その前に、一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何だい?」
「どうして3年も依頼を続けるんですか?」
それを聞いた子爵は、明るい顔から少し暗い顔になった
「・・・それ、ギルドマスターから聞いたのかい?」
「はい。マスターも何人かの冒険者にお願いしたそうですが、すべて断られてしまったと言ってました。
それでも依頼を続けるのは、人手が足りないとか何か特別な事情があるのかと思いまして」
子爵はしばらく黙り込む。よほどの事情があるのだろう
そして、一息ついて覚悟を決めたかのように口を開く
「・・・そうだね。君には話しておいた方がよさそうだ」
どうも、茂美坂 時治です
少しずつですが、執筆も慣れてきた感じがします。
追記:加筆修正しました