第4話 成長、旅立ち
僕がブラックベアを倒したことは、村中に広まりいつの間にか村長の家で宴が開かれた。
「さすがわしが見込んだ男よの、リーヴェル。さぁ、飲め。」
「ちょっとあなた、それは成人してからでないと飲めないのではないですか?」
「ん?おっと、これはすまんな。」
「村長、それは?」
「こいつは、この村伝統の火酒だ。肉との相性は抜群じゃ。ま、お前にはちと早いがの。」
火酒、つまりアルコール度数の高い蒸留酒か。そういえば、村長は大の酒好きで火酒に必要な樽や様々な道具を揃えて自分で作るそうだ。でも、前世の僕は一滴も酒が飲めなかった。転生した身とはいえ、飲めるかどうかわからない。
村長や男衆はどんどん酒を飲んで、夜明けまで騒いでいた。
当然、皆は二日酔いでまともに仕事ができる状態じゃなかった。
然もあらん。
僕はそんなことは関係ないから、修行に入る。
父さんから教えてもらった、すごくきついトレーニング。あれは効果的だ。
が、それ以前にもう一つ忘れていたことがある。
それは、自分の体力だ。
今までは、魔法の修行に偏り過ぎていたから体のトレーニングは一切していない。もし、実戦で魔力が切れて体力のない自分がいたらと思うとゾッとする。これではいけないと、今日は山を使っての走り込みを軽く済ませようと思う。
サイロン村の山は起伏が激しく、トレーニングにはうってつけだ。
翌日、全身が筋肉痛だ。
軽めに走ったとはいえ、普段使っていない筋肉を使ったらこうなるよな。
ま、これも想定してのことだから心配ない。
そして、これらが分かったことで修行のメニューも1週間でサイクルしながら自分の身を追い込む。
勿論、文字や計算といった座学も怠らないように勉強するようにしている。
父さんは、もう王都に向けて出発していた。
さみしい気持ちもあるけど、これが当たり前の光景だ。
こうしたことを繰り返して、7年の月日が流れ僕が15歳になる日がやってきた。
「とうとう、リーヴェルも成人になるか。あっという間じゃの。ここまで長く生きれてよかったわい。」
「村長、あなたはまだまだ長生きできるんですから、これからもこの村の長としてしっかりしてください。」
「おお、リーヴェル。そう言ってもらえて、わしゃ嬉しいぞい。」
「準備が整いました。」
「さ、行くかの。」
「はい。」
サイロン村でこれから執り行うのは、「成人の儀」というものだ。
村長の家の隣にある祠の前で、まずは自分が成人したことを祠に祀られた神に告げる。
次に、成人した証として、大きめの猪口に入った火酒をグイっと一気飲みするというが、前世の僕は全く飲めなかったからできるかどうか不安だ。
手に持っても、なかなか口に持っていけない。
「どうした、リーヴェル?飲まんのか?」
村長が、催促する。
これを飲んで、このまま動けなくなったらどうする?
村の人たちに迷惑をかけてしまいそうだ。が、そうも言ってられない状況だ。
ええい、ままよ!
僕は、火酒を一気飲みした。
最初は何ともないが、あとから徐々に体がポワンと浮いた感じがしてくる。
これが、酔った状態か。
酔うと顔や体が赤くなるというが、僕の手を見ても赤くなってない。
「すごいぞ、リーヴェル。火酒を飲んでも赤くならんとは。さすがカヴェリアの息子じゃ。」
「え、父さんも?」
「ああ、俺も成人の儀を受けて飲んだが赤くならなかった。それに、ネーリムも酒に強い。」
「うえっ!?」
「あなた、よしてください。」
「結婚した後の宴でな、ネーリムは人目を気にせず火酒をゴクゴク飲んでたよ。それこそ、村長も負けじと飲み比べしていたからな。」
「どっちが勝ったの?」
「ネーリムさ。」
「わしが酒なら一番じゃと思ってたんじゃが、まさか女に酒に負けるとは思わんかったわ。」
何という家族に生まれたんだ。
でも、酒が飲めるってわかっただけで少し安堵している自分がいることが不思議だ。
こうして、成人の儀は家族の昔話を交えながら無事に終わった。
1週間後、父さんが王都に行く日がやってきた。
そして、僕の王都への旅立ちの日でもある。
成人する前から冒険者になるって決めてたからな。
村長の承諾も得て、成人したら王都に行くと皆に伝えてある。
「リーヴェルや、王都に着いたら必ず手紙を書くんじゃぞ。」
「はい、村長。」
「あとは、お前の容姿を見て変な男に襲われんようにな。」
「・・・こ、心掛けます。」
そう、実は一つコンプレックスを抱いている。それは、容姿が女性のような体つきだ。
あれだけ筋トレとかいろいろしたんだけど、逞しい男のような体格にはならず、さらには身長も155cmと低く顔も童顔のままで傍から見れば女性そのものだ。赤髪のショートヘアは変わらずだけど。
「リーヴェル、冒険者といえど死と隣り合わせの危険な職業よ。もし何かあったら、父さんかギルドの人に頼りなさい。」
「ありがとう、母さん。」
「ベルちゃん、頑張ってね。」
「ベル、応援してるぜ。」
村人たちからの声援も温かい。
「皆さん、本当にありがとうございます。僕はこの村に生まれて本当に幸せです。冒険者という苦難の道を辿ることになりますが、この村で教わったことを活かしていきたいと思っています。また皆さんに会えることを楽しみにしています。」
「いつでも戻ってこい。サイロン村の人はお前の帰りを待っとるぞ。」
いつでも戻ってこい。そんな優しい言葉に、涙が出そうだが男として情けないから堪えた。
「それでは、行ってまいります。」
父さんと馬車に乗って王都に向けて出発した。
どうも、茂美坂 時治です。
リーヴェルも成人し、王都に旅立ちます。
ここから、本格的に物語が動き出します。