第1話 実践
僕が異世界に転生して8年が過ぎていた。
住んでいる村はサイロン村というディーレスト王国の最北端に位置する。
おもな収入源はトウモロコシや野菜といった農作物。
しかし、今年は干ばつや大雨といった自然災害に見舞われ十分に実らず、収入も不安定だ。
村人たちは出来るだけ収入を得ようと、毛糸で編んだニットや木材を伐採してそれらを男衆が王都ジェティスに馬車で10日間かけて送っている。
だが、僕の父だけは今はこの村にいない。
ジェティスで出稼ぎをしている。何の仕事をしているかは後程。
僕のような子供たちは、母親たちから文字の読み書きや村の掟を教わったり畑仕事の手伝いをしている。
そう、この村には学校といった教育機関がない。
母から聞いた話だが、大昔に国王がこの村に来て様々な書物を与えられ、その中には辞書や専門書といった学力を上げるための書物もあり、それらを当時の村長が子供たちの為に使うよう命じ今に至るという。
前世の知識も使いたいが、村人たちから怪しまれるといけないのでなるべく使わないようにしている。
その書物の中で僕が興味をそそるのが、魔法に関する書物だ。
「お母さん、この魔法書読んでもいい?」
僕が一声かけると、母ネーリムが少し驚く。
「いいけど、かなり難しいわよ。そんなの読めるの?」
「面白そうなんだ。魔法に興味があるから」
「そう、好きにしなさい。」
僕は村にある魔法書をすべて手に取り、読み終わるまでにも3日ぐらいだった。
前世では、文章とか覚えるのが苦手だったんだけど、今は自然と頭に入る。
母に全て読み終わったと言うと、口をあんぐりとして硬直していた。
「・・・し、信じられない。リーヴェル、この20冊の魔法書たった3日で読んだの?」
「うん、すごく面白かったよ。魔法の種類とかも全部覚えた。」
「こ・・・、これはすぐに村長に知らせないと。」
といって、母は韋駄天のごとく村長の元へ走っていった。
しばらくして、村長シーライトが家にやってきて、
「ベルよ、魔法書をすべて読み終えたというのはまことか?」
「はい、魔法の呪文や属性は把握しております。」
「ふむ。その目を見る限り、偽りではないと見える。では、この場でフレイム・ソード(炎の剣)を唱えよ。」
「村長、いきなり難しい魔法を・・・。」
母が抗議するが
「構わん。もし失敗したら、責任はわしが取る。」
そう言われて、僕は一呼吸置いて唱える。
「炎よ 我の声に応えたまえ 願いしは全てを斬る赤き剣 顕現せよ!」
手に現れたのは、炎の剣そのものだ。
「・・・す、す、素晴らしい!!!」
村長が耳をつんざく程の大声を上げる。
「あんなにきれいな剣を見るのは初めてだ。」
「ベルちゃんって、魔法の才能があるのかしら。」
他の人たちも僕の魔法に関心を持っているようだ
村長が僕の肩をガシッと掴み目をキラキラとさせて
「ベル、お主は魔法を極めよ。極めて、ジェティスに行き冒険者となれ。これは村長であるわしからの命だ。」
「へ?」
突然の言葉に唖然。
今なんて言った?冒険者?
その言葉に村長の奥さんのキルティさんは
「あ、あなた。いくら何でも危険ではないですか!」
「わしは、ベルの力を見込んで言ってるんじゃ!それにジェティスの冒険者ギルドのマスターはわしの幼馴染じゃしの。わしの名前を出せば、すぐに迎え入れてくれるじゃろう。」
この村長、猪突猛進な感じだな。
しかし、コネを使ってギルドに入るなど言語道断。
ここは、はっきりと言った方がいいだろう
「お気持ちはありがたいのですが、決めるのは僕自身です。自分自身で決めることは間違いですか?」
その言葉に村長は黙り込む。
しばらくして、
「すまん、ベル。わしは勢いに乗り過ぎたようじゃ。お主の言う通り、決めるのはお主じゃ。じゃが、魔法に興味があるというならとことん魔法を覚えて使いこなせるようになれ。それだけは言わせてくれ。」
「ありがとうございます。」
「ではな。」
村長や母が家を出て僕一人になって、ドテッと椅子に座り込んで顔を赤くする。
「はぁぁああ、恥ずかしい。」
何が恥ずかしいというと、魔法の詠唱だ。かっこいいと思っていたが、実際にやってみると意外と恥ずかしい気持ちが前面に出てくる。あの時は何とか恥ずかしい気持ちを抑えていたけど、次からは無詠唱で魔法を使いたい。
でも、読んだ魔法書には無詠唱に関する文章は一切なかった。
お久しぶりです。
小説を書くって、こんなに大変なんだなと実感しています。




