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全ての終わり

 どうやら飛び込んだ順と関係なく、この世界に戻されるらしい。オレは最後に出口に飛び込んだにも関わらず最初に戻ってきたようだった。そしてオレが魂の世界から戻ってきて、聖王イェレミーの丘から見渡した際に一番最初に目に飛び込んできたもの。


 それは城の塔よりも背の高い巨大な魔物と、崩れゆくイェクレの街。


「ユーリ!!」


 オレはユーリの名を叫んだ瞬間、彼の居るであろうイェクレの街へとたった一人で駆け出していた。


 オレが辿りついた時には既に美しかったイェクレの街は魔物の力によって廃墟と化していた。特に城は跡形もなく破壊されていた。オレは親友の名前をただ呼びながら城の方へ駆けていった。次の瞬間、オレの方に城の瓦礫が飛んできた。


「ニック!」


 誰かが俺を掴み引っ張ってくれたおかげで瓦礫を避ける事が出来た。それは、見紛う事なきオレの親友、ユーリだった。


「ユーリ、生きてたのか!……本当に、本当に良かった……!」


 親友はオレの言葉にさあな、と返すと、この街の市民や一部間に合った王侯貴族は別の次元に避難させたから問題ないと話し目の前にいる巨大な魔物を倒そうと提案してきた。


「あれを倒すのか?……っていうか、倒せるのか?」


「大丈夫だ。今のお前は時の力を持っている。何より、俺たちは無敵の魔物狩り。二人でなら、きっと倒せる」


 オレはユーリがその言葉に確固たる自信を持っている事が分かった。そしてオレはただ静かに頷くと、二人は魔物に向かって駆けだした。


 強大な魔物のすぐ傍へと辿りついた時、ユーリが叫んだ。


「我が親友に時の加護を、未来を観る力を与えん!」


 次の瞬間、オレの頭の中に敵の攻撃の動きが浮かんだ。


「ニック、これで相手の攻撃は完全に読めるはずだ。だから恐れずに行け!」


 そしてオレとユーリは交互に時間制御を利用しながら魔物に傷を与えた。絶え間なく襲い来る魔物の攻撃を避けながら加速の間の休息を取り、相手の加速が終わると自分が加速に入る。瓦礫と敵の体を利用して相手の頭の高さまで飛び上がり、懐へと槍を打ち下ろす。


 そして次にユーリが加速した直後、魔物の身体は崩れ落ちた。ユーリは素早く魔物の胸を切り裂くと、何か人型の光の塊を引きずり出し、それに向けて何か呼びかけた。次の瞬間、その光でできた人は僅かに微笑むと間もなく消えていった。


「その罪を、咎めたりはしません」


 ユーリはそう言うと、まるでその存在を見送るかのように天を仰いで笑った。


「終わったのか?」


「いや、まだだ。今のはあくまで魔物の核となっていた魂を救い出しただけ。本番は、これからだ」


 その言葉が終わった瞬間、倒れていた魔物の身体は不定形の塊となり再び人型へと変化して立ち上がった。


「来るぞ!」


「ああ、任せろ!」


 次々と増えていく魔物の腕。それが絶え間なくオレ達に向けて振り下ろされる。


 魔物からの攻撃を避けながら、オレは力いっぱい槍を振るいその身体を貫いていく。ユーリは剣を流れるように振るいその身体を斬り裂いていく。そして二人で襲い来る敵の攻撃をかわし反撃に出る。


 どれだけの時間戦っていたのだろう。ようやく魔物の身体は壊れ黒い霧が辺り一面に立ち込めた。戦い始めた頃は天高くにあった太陽が大きく西に傾いていた。


「やっと、本当に終わったな」


「そうだな。……これがこの世の歪全てだったんだろう。もう二度と魔物が出る事もない」


 ユーリは満足そうにそう言うと剣を振るって鞘に納めた。


「そうか。だとするとこれから先どうしたら良いんだろうな」


「どうしたら良い、とはどういう事だ?」


 不思議そうな顔をしたユーリにオレはこう問い返す。


「魔物狩りはもう終わりになるんだぜ?」


「お前のそれだけの力があればまともな仕事にはありつけるだろう。心配するな」


 オレはその答えに、そうだな、とだけ返した。


「ところでユーリはどうするんだ?またティアムに戻るのか?」


 そう問いかけると、ユーリはどうしようか、と言って笑った。その後暫く間を置いて答えた。


「今回は俺の旅につきあわせる形になってしまったから、次はお前について行くとするか。どこであってもな」


「どこであっても、って……お前にはミカエラがいるだろう?」


「そうだな。だがその言葉には間違いはない。ずっとお前の、いや皆の側に居よう」


 オレがその言葉を理解しきれずに首を傾げていると、ユーリは少し悲しそうな表情でこう言った。


「本当の事だ。例えお前の目に見えなくなってもな。なぜなら時の魂は時と共にあるから、この世界に時がある限り俺はずっとここに居る。だから……」


 ユーリはその言葉の先を言うのを躊躇っているようだった。そしてふと顔を上げてオレの左側を示して声をかけた。


「皆が追いかけてきたぞ」


 オレが振り向くと、ルーツィエ達が走ってこちらへ向かってきていた。


「ニック!何で一人でこんな危ないところに行っちゃうのよ!心配したじゃない!」


ルーツィエはそう言うと、オレの身体を抱きしめてきた。


「悪いな。でもユーリの事が心配だったんだ」


「それで?」


「街はこの状態だがユーリが街の人達を別の次元とやらに避難させていたらしくてある程度は無事らしい。それで今、一緒にあの巨大な魔物を倒したところだ」


「ところで、ユーリはどこに居るの?」


「え、今隣に……!」


 オレはユーリのいるはずの隣を見た。だが、そこには誰もいなかった。そしてただ西寄りの風が、ひときわ強く吹いただけだった。


----------


 若者は前を向いて歩く。その悲しみを乗り越えて。

 その足音は響き渡る。まるで時を刻むように。友の魂の鼓動をこの世界に響かせるように。


 そう、この世界は、時の音が鳴る世界。

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