俺とあいつと罪と先生
俺のクラスに存在する「権力」。
そのクラス全員の気持ちを180度変えた人物。
美雪? 真? 茜? ……俺?
さあ、誰だ?
「あたしは悪くないから。
あんたが悪いんでしょ。
あんたがこの学校に来なかったら
あたしと陽は別れなくてすんだのに!!
あんたのせいで……あんたのせいで!!」
茜が叫んだ。
ほとんど悲鳴に近い。
「あたしは本気で陽が好きだったのに。
陽が望むことならあたしは何でもできたくらい
陽のこと、好きだったのに。
陽があたしのこと道具みたいに使ってるってことくらい
分かってた。
あたしは陽にとっておもちゃみたいな存在だってことくらい
分かってた。
でもね、それでもいいから陽のそばにいたかったんだよ
なのに……なのにあんたは…」
茜の声は俺の胸に突き刺さり、ちくりと痛かった。
「なんやそれ……」
茜の言葉をさえぎり、明野が言った。
「自分のした事全部水に流して、
人に罪なすりつけて、なにがあんたのせいや。
冗談も程々にしとけ。廊下にたたき出すぞ」
「明……野」
「明野、もうやめろ」
俺と茜の声が重なった。
「もう……やめてくれ」
俺の心はだんだん罪悪感で満たされていく。
茜のあの言葉から。
『陽があたしのこと道具みたいに使ってるってことくらい
分かってた。
あたしは陽にとっておもちゃみたいな存在だってことくらい
分かってた。
でもね、それでもいいから陽のそばにいたかったんだよ』
その言葉が何度も何度も頭の中で繰り返す。
自分が怖くなった。
茜に謝ろうと思った自分が怖くなった。
「全部……俺が悪かったから。
俺が悪いから……
もう、これ以上茜を責めるのはやめてほしいんだ」
俺が初めて謝った瞬間だった。
「よ…う……?」
茜が首をかしげる。
無理もない。
「俺は…バカだったから。
俺に権力を握る資格は
ない」
自分でも驚いた。
こんなに自分を責めることができるということに。
明野が呟いた。
「何よ…あんた」
「………え…?」
戸惑う俺。
怒りの表情で見つめる明野。
「気付くの遅すぎやねん!
バカっ!!
あんたがもっとそのことに
早く気付いてたら………
誰もこんな風に傷つく事は
……なかった…のに」
下を向いて唇をかみしめた。
キーンコーンカーンコーン…
チャイムが鳴り響いた。
先生が教室へ入ってくる。
「何をしてるんだ。早く席につきなさい」
めがねを軽く押し上げて先生が言う。
こいつ……
今まで俺達がしてたこと
全部知ってるくせに………
全部、全部見てみぬふりかよ。
大人なんて嫌いだ。大嫌いだ。
俺はこんな大人にはなりたくない、絶対に。
でも、こんな大人に俺は、なりかけてるんだ。
逆らえなかった。
俺達は席に着いた。
明野は何事も無かったかのように
歴史の準備をしていた。
茜はまだ落ち着いていないようだ。
涙が絶えず下に落ちている。
先生は、それも無視。
「無視ですか」
明野が呟いた。周りに聞こえるくらいの大きさで。
「明野、何か言ったか??」
あざ笑うかのように先生が聞き返す。
明野の口がフッと笑った。
「無視ですか。
私達がいまこうなってるのに
すべて無視ですか。
へぇ、さぞかし楽なもんですね、大人の世界は。
どんなことでも自分さえ良ければいいんだから。
先生は、金目当てでこの学校の教師になったんでしょ、
そうでしょう。
だったら話ぐらいしますよね。
いい加減にせぇ、ドアホ」
一番最後の言葉には、関西風のドスというモノが
きいていて、威圧感があった。
先生が、半歩後ろへ下がる。
「明野、先生になんてことをいうんだ」
「ほら、そうやって逃げる」
すかさず答えた。
「明野。ふざけたことを言うな。
先生は見て見ぬふりをしているわけじゃない。
君たちで解決してくれることを願って……」
「ええ加減にせぇって、言うとるやろ?
関西人、なめとったらあかんぞ??」
明野が、またキレそうになる。
「あぁ、もういい!」
先生がかぶりをふる。
「そうですよ、先生はずっと見て見ぬふりをしていました。
あなたたちのくだらない見栄の張り合いなんていちいち
関与して、首が飛んだらかないませんからね」
「くだらねぇだ?!」
俺が大げさに立ち上がる。
「ええ、くだらない。くだらないにも程がある。
だいたい、権力なんてなんですか、それは。
君たちはまだ17なんだ。
成人にもなってないくせに、大人を気取って
権力だなんだとぐだぐだ言ってる暇があるのなら
勉強したらどうですか」
大きく息を吸ってもう一度俺らのほうを向く。
軽くめがねを押し上げた。
「君たちは大人をなめきっている。
そんな君たちに大人を気取る資格などない!!
ったく、こんなくだらないことに
なんでなめんなとかドアホとか言われないといけないんですか
君たちね、先生をなめてるくせに
なめるななんて言う権利はありませんよ?
君たちの事を考えてるのは
この私。先生なんだよ」
そういって大きく息をついた。
みんな静まり返って
誰一人口を開く者はなかった。
また、めがねを押し上げる。
「授業を、始めます……あ、そうだ」
先生はほんの少し、微笑んでこういった。
「先生は軽い気持ちで教師という道を選んだんじゃ
ないのだよ、明野さん。
さ、号令は?」