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モノクロ〜白鬼と黒鬼〜  作者: 五臓六腑
一章〜門出に笑う鬼〜
8/16

7.暴れ鬼


茜達と別れた後、急遽決まった予定に間に合わせる為、家に帰って少し早めの夕食を準備した。


「ねぇ、今日もカレーなの?」


「悪い、今日だけ我慢してくれ」


連日でレトルトカレーだったが、クロミは美味しそうに食べてるので大丈夫みたいだ。春は先に食べ終わると、ベランダに出て煙草を吸い始めた。


「もし千代バァにバレたら……。まぁそん時に考えりゃいいか」


胸の鼓動が高鳴り、珍しく緊張している事を実感する。だがこの緊張が徐々に春を冷静にさせた。


きっかけはテーブルに置いてある一枚のチラシ。

コンビニに貼ってあったチラシを無理やり剥がして持って帰ってきたのだった。

そのチラシに書かれていた見出しが、



ーー来たれ!最強の夜行!

《十八歳以上、高収入、※注)死亡事故多発により自己責任》



夜行の募集だが、命知らずの馬鹿しか来ない気がする。

まぁ人の事は言えないが。


煙草を吸いながら、身バレ対策を考える。

流石に自分の正体を隠さないといけないが、直ぐに用意出来る事はニット帽に穴を開けて覆面にするしかない。

ただの犯罪者に見えるが、今は見た目を気にする時間はないのだ。


「…クロミは大人しく観戦だな」


クロミが能力全開で暴れれば、間違いなく無傷で採用されるが、それは流石に目立ちすぎる。

なので既に憑依した状態を装い、春一人で闘わなければならないのだ。


夕食を食べ終えたクロミにこれからの予定を伝えると、クロミは特に反対する事なく、首を縦に振った。

ありがとうと頭を軽く撫でてやると、いつも通りの笑顔を見せる。


「よっしゃ!一丁やるか!!」


春はジャージの袖を通すと、頬を数回叩き気合を入れる。

対人戦は銀行以来だったが、試験に来る奴等はけして弱い筈がない。

だからと言って、負ける事は春のプライドが許さない。殺しはしないが全力で叩き潰す。



硬い決意を胸に秘め、一世一代の大勝負が始まった。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


プカプカと煙草を吸いながら、クロミと手を繋いで夜行の試験会場へ向かう春。

独特な川の匂いが徐々にすると、やっと東区の川沿いに到着した。


「お〜、川でけぇな〜」


広い河川敷には沢山の篝火が焚かれていて、日が沈んでいるにも関わらずかなり明るく照らされている。

会場には既に五、六十人ほど集まっていて、余程自分の強さに自信があるのか、相手を威嚇している者が大半を占めている。


春も正体を隠すため、覆面を被り鬼へと姿を変えた。

そして歩き疲れているクロミを抱きかかえて、殺気立つ人混みの中へ歩いていった。

しばらくすると、見ず知らずの中年男に馴れ馴れしく話しかけられた。


「お前、夜行の試験は初めてか?」


「そうだけど?」


「がっはっはっはっー。開始までたんまり時間があるのに、気が早いぞ!」


どうやら憑依してると思ったらしく、声をかけたみたいだ。

それもそうだ。角が生えた人間がいる筈ない。

しかし覆面を被っているのは春しかおらず、かなり目立っていた。


「そうか?隙があれば今すぐ暴れて参加者減らすけどな。別にそれは反則じゃねぇし」


それを聞いていた何人かの参加者は、いそいそと憑依し始めた。

たしかに試験が始まっていなければ、只の喧嘩で終わってしまう。多少注意されると思うが、試験に何ら影響はない。


「お前、肝が据わって中々面白いの〜。気に入ったわい!ところで、番号札持ってないように見えるんだが、受付は済ませてあるのか?」


そう言って首からさげた番号札を手に取り、春に見せてくる。


「受付?…してないけど」


「受付してないと、この試験に参加出来ないぞ」


「そうなの?教えてくれてありがと」


表情に出さないまま、焦った様子で足早に受付へ向かった。

やはり経験者に教えて貰うのが一番手っ取り早いかもしれない。あのままウロウロしてたら時間を消費して、無駄に終わる所だった。

受付場所に着くと、物静かに二人の男が座っていた。


「試験に参加したいんですけど?」


「こちらに名前を書いて、身分証の提示をお願いします」


マニュアル通りの対応を見ると、夜行に全く興味のない只のバイトの様だ。

大方、割高な時給目当ての大学生といったところだ。


「っ?!………あ〜、身分証…忘れてた。ちょっと取りに帰ります…」


そう言って急いで受付から離れる。


(おいおいおい、身分証とか知らねぇぞ…)


確かにチラシには書いていなかったが、参加資格が十八歳以上という事なので、身分証の提示は必須だ。

まだ時間はあるが、腕を組んでこの事態をどう対処か考える。

しばらくして春の頭の中で、悪魔が囁いた。


「…やるか」


外道のようなミッションを遂行する為、ひと気のない所へ移動した。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「へぇ、ここが会場か…」


一人の男が会場付近に到着した。

どうやらこの男も初参加のようだ。緊張に呑まれそうになるが、強気に笑って誤魔化しながら会場に向かっている。


「おっと、…その前に」


トイレが無いのが困りものだ。

幸いにも辺りは暗闇、生い茂る背の高い雑草のおかげで、難なく用をたす事が出来た。


「ふ〜…、っと。暗くて助かったぜ」


地の利を活かして、ダムの崩壊を未然に防いだ。

試験の前に済ませる事が出来て、再び試験会場へ歩き出した。


しかし地の利を活かしていたのは、彼だけでは無かった。

完全に気配をけし、獣の様に鋭い目付きで春は息を潜めていた。

いつでも襲いかかれる距離を保ちながら、四つん這いで獲物を追っていた。


(…今だッ!!)


次の瞬間、突如男の後頭部に強い衝撃が走り、立ち向かう事も無いままその場に倒れてしまう。

すぐ後ろに立っていた春は、気絶した事を確認すると、倒れている男の財布を漁って身分証を拝借※(強奪)した。


「悪いな。けどお前みたいなショボい奴は、夜行になれても直ぐに死ぬ。まっ、生きてる事を俺に感謝するんだな」


正論だが、強盗紛いの事をした春には言われたくないだろう。

不正に入手した身分証を持って再び受付へ向かった。

春の後ろには人が列を成していて、時間も迫っていたので怪しまれながらも受付係は渋々番号札を春に渡した。

そのついでにクロミを安全な場所に移動させるように頼んだ。


篝火の近くで軽くストレッチを始めていると、上空から突然、法螺貝ほらがいの音色が騒がしい会場に響き渡った。

上空を見上げると、三体の烏天狗が横一列になってゆっくり降下してきた。

真ん中の一回り大きな烏天狗は法螺貝を手に持ち、両端の烏天狗は提灯をぶら下げていた。

静まった事を確認すると、今回の試験内容の説明を始めた。


「よくぞ集まった、無名の猛者たちよ!誇り高き夜行

の一員になる為に、これより試験を受けてもらう!」


地面を震わすような力強い声に、参加者は息を呑んだ。

試験内容は毎回違い、直前にならないと解らないので対策しようがない。

なのでそれぞれに向き不向きの内容かもしれないので、全員に緊張が走る。


「試験内容は……『バトルロワイヤル』!三人程度残っていればそこで終了!試験とはいえ命の安全は保証しない!全て自己責任だッ!自分の命が惜しいと思う者は、今すぐ立ち去れ!」



アバウトすぎる合格の条件だが、誰一人疑問に思っていない。

要は全員が敵で、己の力を振るってその少ない椅子を勝ち取ればいい。

早く暴れたそうに参加者は一斉に憑依して、始まりの合図を息を荒くして待っている。

牙を鳴らし、地面を蹴り、拳を鳴らし、それぞれが興奮を抑え切れない様子だ。


それは春も同じで、手には自然と力が入って無意識に笑みがこぼれる。

自分に流れている鬼の血が、気分を高揚させているのだと春は感じた。


(やっぱ普通じゃねぇな…俺は…)




「ーーー始めぇッ!!」



「「お゛お゛おおぉぉー!!!」」




始まりの合図と共に法螺貝が吹かれ、割れるような雄叫びが会場を包みこんだ。

胸から込み上げる闘志を吐き出すように、春も牙を剥き出して雄叫びを上げた。



試験が始まって数分後、今のところ順調に殴り倒している春。参加者全員が肉弾戦ではなく、能力を使う者も目立っている。

やはり遠距離からの攻撃は、多少有利になっている。


「おっしゃぁー!次の奴ーー」


周りを見渡していたら、春にに向って巨大な炎が迫ってきた。

避ける余裕が無く軽く舌打ちすると、近くに倒れていた男を盾の代わりに使いその炎を防いだ。

ほんの数秒で辺りに焼けた臭いが漂い、燃えている事で意識が戻ったのか、突然盾にした男が叫びだした。


「っつぁぁああーッ!!」


絶叫する盾を棄てると、放ち続けられている炎を躱しながら間合いを詰める。左右に動き相手を翻弄して、顔面に拳を突き刺した。


息つく間もなく隙をつくように、後方から斬撃が襲ってくる。明かりに反射する鋭い一閃を、間一髪回避しする。


「うおっ、危ねぇな!」


髪の毛が斬られる程ギリギリの所で避けながら、少しずつ後退して距離をあける。

このままだと埒があかないので、右腕を犠牲にして斬撃を受け止める事にした。


「ってえぇぇえ!」


「何だとッ?!」


その右腕には刀が骨まで食い込んで、大量の血が溢れ出てきた。まさかの行動に男が怯むと、円を描く様に回し蹴りを顔面に浴びせた。

男は脳を揺らされ、倒れた後に小刻みに痙攣していた。


「あーーッ、しんどッ!」


右腕の傷が再生している中、辺りを確認すると最初に比べて半分以上が脱落していた。


(こいつらボチボチ強ぇな。まぁ千代バァの木偶デクと比べたら、少し弱いぐらいだな)


突然正面から大量の石飛礫いしつぶてが弾丸のように飛んできた。

風を切る音に反応して咄嗟に両腕で首と目を防いだが、攻撃範囲が広く身体には無数の石が突き刺さった。


「うっ……。このクソ野郎がッ!」


直ぐに傷の再生が始まったようで、体に刺さった石が勝手に抜け落ちた。

だが攻撃を受けた事よりも、大切なジャージに穴が開きまくった事に対して、思わず怒りで眉をひそめた。

足元の少し大きめな石を手に取り、相手に向かって全力で投げた。

物凄い速さで飛んでいく石は、もはや相手の目には捉えられず、そのまま肩直撃して豪快に肉をえぐった。


倒した相手を確認する間もなく、次から次へと湧いて出てくる相手に追われた。


素早い連撃を躱し、振り下ろされた斧を頭上で受け止めるが、鬼化しているとはいえ流石に骨が軋む。

歯を食いしばるが腕は限界の近づき、斧は徐々に重さを増して頭に向かい沈んでくる。

身動き出来ない春は、急所を蹴り上げて男の行動を封じた。

言葉にならない激痛に必死に耐えていたが、斧を奪い取り、その側面で殴りつけた。



次の相手を警戒していると、突然終わりの合図が鳴響いた。

周りを見渡すと春を含め三人が、静まり返った河原に立っていた。

三人は息が上がっており、春はやっとの思いで煙草に火を着け吸い始めた。


「おめでとう!今日から君達は夜行の一員だ。これから別の会場に移動して、今後について説明する!」


最初と違い、参加者の呻き声が聴こえるほど静かになった河川敷に、烏天狗の声が吹き抜けた。

しかし春が狙っていたかのように、烏天狗に異議を申し立てた。


「ダメダメダメッ!こいつらじゃ話にならねぇ。夜行になってもどうせすぐ死ぬ!」


「おい、お前!その言い方は何だ、失礼だぞっ!」


煙草を吸いながら、乱暴な言葉で残っている二人を挑発した。

春の狙いは一人勝ちして、夜行のリーダーになり自分の思い通りの組織にする事だ。


「こんな弱ぇ奴等なんか、壁役にもなんねぇよ」


二人の男は完全に頭に血が昇っている。

戦闘の疲れを感じさせない動きで立ち上がると、殺気の篭った目で春を睨みつけた。

三竦み、正確には二対一。一触即発の空気に包まれた。


「はぁ、わざわざ忠告してやってんのに……」


次の瞬間、春は誰よりも先に動き出した。

さっきまでの戦闘で傷付いた身体は、すでに完治して体力も回復している。

地面にめり込む程強く踏み込むと、近くに居た男までの距離を一気に詰めた。

男の目の前に突然春が現れた様に見え、一瞬怯んでしまう。


「もう手加減しねぇぞ」


その眼には濃い殺気が宿り、ハッキリと男に聴こえるように春は警告した。

男は必死に攻撃するも、虫を払うように軽々と捌かれ顔面に拳を喰らった。その威力は凄まじく、後ろに流れている川まで吹き飛ばされた。


残った一人は、その威力を見て驚愕した。

接近戦では勝ち目が無いと悟り、川の水を操り遠距離から攻撃を放ってきた。

放水車から放たれるような水圧だが、春は両腕で防いで耐えている。


(面倒くせぇ、近寄らせねぇつもりだな……)


だが春は男の考えを見抜くと、攻撃を受け止める事を止め男に向かって走り出した。

無謀とも言えるが、必要最小限のダメージを喰らいながら距離を詰めていった。


「ッ?!マジかよ?!」


普通とは思えない行動に男は驚いた。

常人離れした動体視力に、それを可能にする身体能力。

まるで狩りをしている獣のような動きに、恐怖し後ずさる。


「ただの放水…、芸がねぇな〜」


懐に入った瞬間、鋭い拳が男の顔面に狙いを定めた。しかし寸前の所で、操っていた水を盾に変えて春の拳を防いだ。

だが止められたぐらいで、この白鬼は全く動じていなかった。

すぐに、二発目を打ち込む体勢に入っていて、止められた一発目よりもかなり強めに殴った。

鬼の放つ拳骨は、水の盾を貫き渾身の一撃を男に喰らわせた。

白目を剥いて泡を吹いている。もう男は立ってこないだろう。


二人を倒して気が抜けたのか、春は大の字に倒れるように寝転んだ。


「俺の勝ちだぁーっ!」


予定外の戦闘に烏天狗達は唖然とした。

バトルロワイヤルで勝ち残って尚、疲れを感じさせない動きで、相手を圧倒してしまう力に驚きを隠せなかった。


「見てみろ!こいつらが居てもどうせすぐ死ぬ。仲間になりそうな奴は、俺がその内決める。それでいいな!?」


「ん〜、仕方ない……か。それでは別の会場移動する」


試験が終わった事を確認すると、待ちきれなかった様子でクロミが駆け寄って来た。

そのまま寝転ぶ春の上に、のしかかる様に飛びついてきた。


「っうげ?!」


「大丈夫?怪我してない?…っあ、ハルは治るから平気よね♪」


潰された蛙の様に、情けない声を出した春。

久しぶりに疲労感を感じゆっくりと立ち上がると、いつもの様にクロミを抱き上げる。


二体の烏天狗がブランコのような乗り物を運んでくると、春とクロミはそのブランコに乗って、別の会場へ烏天狗達に運ばれていった。


「へー、結構いい景色だ…」


上空から煌びやかな夜の街を見下ろし、春は戦闘で疲弊した心を癒していた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


運ばれてしばらく経ち、見慣れない街の体育館に到着した。

中に入ると体育館の中央には長机が並んでいて、烏天狗三羽がそこに座り、向かい側に春とクロミが座った。


「予想外の事態があったが、とりあえず合格おめーー」


「暑っ!!」


その激励の言葉を遮って蒸れた覆面を脱ぎ捨て、その場で鬼化した姿を露わにした。烏天狗は春を見て明らかに焦っている。その焦りは、初めて鬼を見た時の反応では無かった。


「暑っ〜。蒸し風呂に入ってるみてぇだ」


「ちょ、ちょっと待て!いったいどういう事だ!?」


烏天狗達はその白鬼を知っていた。

直接会った事はないが十年前に起こった事件で、とある混血種の存在は一部の関係者に知れ渡っていた。


「お前がッ、何故参加している?沢木春ッ!!」


「は?そんなの俺の勝手だろぅが!ぶっ殺すぞッ!!」


流石に烏天狗達も春を相手に下手に出ない。

彼等も夜行に携わる憑神としてのプライドがあるのだ。


「この街に引っ越して来た情報は耳に入っていたが…。夜行は十八歳以下は禁止されてるんだぞ!」


「うるせぇな。さっき「おめでとう」とか言ってただろ!さっさと夜行にならせろや!!」


折角ここまで来たのに、話がまとまらなければ全て水の泡になってしまう。

そんな事態にならない様に、春はどんな手を使っても阻止しなければならない。

しかし烏天狗も一歩も引かないようだ。


「ダメだ!今回の試験は無効だ!」


「そんな事してみろ、毎回乱入して参加した全員ブッ殺すからな!」


脅迫とも取れる発言に、流石に烏天狗達は折れ始めた。

今までの春の言動と性格から察して、本当にやりかねないと感じたようだ。


「………はぁ、なぜ解らん?十八歳以下は禁止と言っているだろう」


「…チッ。……ちょっと黙って待ってろ」


子供でも解るように説明してるにも関わらず、全く聞く耳を持たない春。

ふと何かを思い付き、どこかへ電話をかけた。

先程と打って違い、その相手に対しての口調は別人の様に落ち着いていた。


「ぅん…そう……。何か俺みたいな奴が必要らしい。……うん、……ちょっと待って。……ほらよっ」


突然携帯を烏天狗に投げ渡した。

訳も解らないまま電話に出ると、受話器の向こうには予想外の人物が待機していた。


「…?…もしもし…、お電話代わりました」


『…初めまして。私、『山神やまがみ 千代ちよ』と申します』



「ッ〜〜〜??!」


春が用意した最終兵器リーサルウェポンは、この国で最も力を持っている一人なので、誰も逆らう事が出来ない。

まさかこんな大物を出してくるとは、全く予想していなかった。


『この度、私の孫がそちらでのバイトが決まりましたので、そのご挨拶をーー』


目を丸くした烏天狗が春を見ると、勝ち誇ったようにニヤニヤしている。

一言一言放たれる言葉は、電話越しでも重圧を感じられる程の重みがあった。


『バイトとはいえ、初めて働くのでご迷惑お掛けするかと思いますが、店長さん…どうかよろしくお願いします』


「……はい、わかりました」


春の勝利が確定した瞬間だ。

用事が済んだので烏天狗から携帯を奪い取った。


「そうゆう事だから。まぁバイト頑張るわ」


『立派に育ったわね。やはり独り立ちさせて正解だったよ。〝桜子〟さんにも見せてあげたかったわね』


ーーそのセリフは卑怯だ。



一瞬何かを思い出すと、春は言葉に詰まった。


「また連絡する」


『頑張りなさいよ』


やっと終わった。

努力が報われ、自分の存在が認められ、縛られた鎖から解放されたような感覚だ。呼吸を整えて烏天狗をゆっくり見る。


「これからよろしくな」


そう言って烏天狗を見下しながら、白い鬼は不敵な笑みを浮かべた。



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