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モノクロ〜白鬼と黒鬼〜  作者: 五臓六腑
一章〜門出に笑う鬼〜
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4.運命(仮)


新しい制服に身を包み、季節の匂いを感じながら沢木春とクロミは手を繋ぎ高校へ向かった。

クロミの歩幅に合わせて歩くと、どうしても遅くなってしまう。

しかし先程から何か言いたそうに、クロミが視線をチラチラと向けてくる。


「ん?どした、クロミ?」


「…カッコイイ」


「そうか?まぁありがと」


いつもと違う見慣れない春の格好を、頬を赤く染めながら褒めるクロミ。

自分の気持ちを伝えきった達成感と満足感でテンションが上がり、ピョンピョンと何度も飛び跳ねる。

しかしそんなクロミに対し、いつも通りに素っ気なく返事をした。


(クロミが上機嫌のままで一日終わってほしいな)


学校が近づくにつれ、同じ制服を着た生徒の姿がちらほら増えていく。

グレーのブレザーに、チェックのネクタイにズボン。女子生徒はネクタイの代わりに、大きめのリボンが首元を飾り、個性を競うように一人一人長さの違うスカートを履いている。

初めてのネクタイに違和感を感じながらも、高校生になった事に改めて自覚する。


「高校生か〜…」


意味深な顔で一年前の自分を思い出す。

不登校児だった春は、毎日の様に己を鍛えていた。なので学力は良くて小六程度だった。

なので高校受験出来る学力まで、千代が付きっ切りで教えていた。

正確には数人の家庭教師を住み込みで雇い、春がサボっていないか近くで監視をしていた。


「もうあんな事したくねぇ」


トラウマを思い出していると、いつの間にか周りには同じ制服を着た生徒しか居なくなってた。

そしてようやく目的の場所にたどり着いた。



【神楽第二高等学校】



東区にある普通科高校の一つ。

春は校門の手前に立つと、そこから四階建ての校舎を見上げた。気持ち良い風が吹き抜け、新しい環境に珍しく胸が高鳴った。


「ここか…」


これから始まる高校生活に多少の不安もあるが、舞い踊る桜を全身に浴びて記念すべき第一歩を踏み出した。


「よしっ、まずは職員室だな」


実家に帰っていたので、結局入学式には間に合わなかった様だ。

春は早速校舎に入ると、足早に職員室へと向かった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「そう言えばウチのクラス、昨日一人居なかったね」


「そうだね〜、どんな人だろう?格好いい人だったら嬉しいな〜」



少し騒がしい1-Aの教室で、同じ中学出身の『吉田よしだ 美緒みお』と『雪村ゆきむら あかね』が、昨日の入学式について喋っていた。

ロッカーにもたれかかってクラス全体を見渡すと、二日目にも関わらず、新しく出来た友達同士で話し合っている姿が所々に目立っていた。


すると勝手に校内をうろついていた憑神の雪菜が、歩き疲れた様子で茜の元へ戻ってきた。


『あんたも美緒とばかり喋らず、新しく友達作ったら?このままだとボッチ確定よw』


「あっ、雪姉さん、チーッス!」


「ちょっと!雪姉ぇは黙っててよ!」


いつもと変わらないやりとりで時間を潰していると、校内にチャイムが鳴り響き、一斉に自分達の席に戻り静かに担任を迎える。

しばらくすると、少しドジそうな担任が登場した。

起立、礼、着席の、お決まりの挨拶を済ませると担任からお知らせがあった。


「え〜っと、昨日の家の用事で来れなかった生徒を紹介します。あなた達と同じ新入生だから仲良くしましょうね。それじゃ入って来て」


教室内には程よい緊張感が走った。

ーー男か?女か?

緊迫する空気の中、合図と共にガラガラと教室のドアを開け、クロミの手を引いた春が堂々と教室に入った。

周りを見渡すその鋭い目を見て、茜は時間が止まったように感じた。


「……っあ」

(この人、銀行の時の…)


決して忘れた訳ではなかった。

あの日から少し気になっていたが、まさか学校でもう一度逢えると思っていなかった。

予期せぬ再会に、乙女心に火が着いた。


そんな茜の熱い視線に気付かないまま、黒板に名前を書いて再び正面を向く。

特に目立つような発言はせず、春は無難に挨拶し一礼した。


「初めまして、沢木春です。よろしくお願いします」


(よしっ、とりあえず大丈夫だろ。次は…)


ーーと、自分の足元に視線を落とすと、クロミは恥ずかしがって右足に隠れて出てこない。

そんなクロミを無理やり抱き上げると、余りの恥ずかしさに半泣き状態になってしまい、春の胸に顔を押し付けた。

春が優しく励ますと目に溜まっていた涙を拭い、大きな声で自己紹介した。


「沢木 クロミです!お願いします!」


テンパったのか、わざとなのか解らないが、何故沢木を名乗ったのかその真意は解らない。

挨拶を終えると、甲高い黄色い歓声が教室を包み込んだ。

ざわついているのは、主に女性陣だ。


「なにあの子!?可愛い〜!!」

「兄妹なの?」

「着物似合ってる」


やはり〝カワイイ〟はどこに行っても正義のようだ。

こんな大勢から褒められた事のないクロミは、林檎のように顔を真っ赤に染めていた。


しかし同じ新入生なのに、まるで転校生のような扱いで少し落ち着かない。

新生活を始めた時に、波風を立てないように高校生活を送ろうと思った。だが初日から達成出来る自信が無くなり、半ば諦めかけていた。


そんな騒がしい教室の中で、一人だけ舞い上がる感情を押し殺している生徒がいた。



「……運命じゃん」


茜は心の中でガッツポーズをキメて、自分が持っている幸運に感謝した。

高校生活二日目にして、描いてた幻想が早くも現実味を帯びてきた。

年頃の娘にとって、〝運命の出逢い〟や〝偶然の再会〟などの乙女心をくすぐるシチュエーションは、何よりも大好物だ。

少女漫画のヒロインを自分に重ねる事で、無駄に期待してしまう。


あまりの騒がしさに担任が軽く咳払いして、生徒達を落ち着かせた。


「昨日居なかったから、沢木君の席は窓側の一番後ろね」


「はいよ」


担任から言い渡された特等席に、クロミを抱き上げたまま移動する。するとどこにでも居る、態度も頭も悪そうな生徒が視界に入った。

腕を組みニヤニヤしながら片足を伸ばして、挑発するように進路を遮っている。

そのくだらない行為に、春は不機嫌な顔になると一瞬足を止めてしまう。


(……ブッ殺して〜!)


そんな安い挑発に乗ってしまうのが沢木春だ。

くだらない輩に鉄槌を喰らわせる為、脳内で攻撃パターンを瞬時にはじき出した。


1、全力で足を蹴り飛ばす

2、全力で足を踏み潰す

3、全力で顔面を殴りつける


尋常じゃない反射神経を持つ春は、考えたと同時にすでに体が動き出していた。

パターン2の態勢に入っていたが、春の心に残っている極小の善良な心が、ギリギリの所でその動きを止めた。


(落ち着け俺!高校生活はなるべく穏便に過ごすんじゃねぇのか?と、いう訳でここは…)


4、怒りを押し殺してスルー


何とか落ち着き、出された足を避けてそのまま素通りした。

後ろで笑い声が聞こえたが、ここで何かやらかせば高校生活初日で、いきなり頓挫してしまう事は避けられない。

そうならない為に、何事にも耐えれる強い精神力と忍耐力が必要なのだ。


(…こいつ、いつか天誅下してやる)


怪訝な顔をして再び席に向かっていると、自分の席の前に座っている女が、頬を赤らめて春に熱い視線を向けていた。

春は少し驚くも不思議そうな顔で、一瞬だけ女を見た。


(…何この女?)


(…やっぱりカッコイイ)


恋は盲目とはこの事だ。

春の外見は多少良くても、中身は色々な意味で人ではない。

密かに好意をもたれてる事に気付かないまま、やっと自分の席に座る事が出来た。とりあえずクロミを膝の上に乗せて、生徒を後ろから眺める。


すると担任が目を丸くして、春に注意する。


「沢木くん?クロミちゃん霊魂になってないわよ」


「はっ?こいつ霊魂になった事ないっすよ。それ以前に出来るかどうか解らないっす」


「そぅ、困ったわね。みんなの憑神は霊魂になってるのに…」


後ろを振り向くと、ロッカーの上には沢山の霊魂が所狭しと浮遊していた。


「ひとまず学校が終わるまで、保健室の先生に預かって貰いましょう」


ナイスアイディアだった。手を叩き、心から賛辞を送ってあげたい。

たまには一人で過ごす事も必要だが、クロミは離れたくないのか、涙を浮かべ切ない表情で春を見つめる。

しかし春は無情にもその手を離し、優しい言葉を投げ掛けた。


「後で迎えに行く。頼むから大人しくしてくれよ」


クロミが暴れ回ったら流石に春でも止められないうえ、始まったばかりの平和な高校生活が音を立てて終わってしまう。

だから本気で大人しくしてほしいと願った。


担任と手を繋ぎ、今生の別れのようにしきりに振り返ってくるクロミに、春は手を振り笑顔で見送った。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「なんで昨日休んだの?」

「ちょっと家の都合でね…」


「さっきのクロミちゃんって、沢木くんの憑神ってより妹みたい」

「まぁ家族だからな」


転校生のような怒涛の質問タイム。

結局このポジションになってしまったと後悔しかない。

小、中学から友達の居ない学校生活を送っていたので、あまり同年代と会話するのが慣れてない。

できれば一人にしてほしいと思っていた。


そんな春に茜は話しかけれずにいるが、その代わり妄想の中で幸せな一時を過ごしている。

恋する乙女も中身はおかしいようだ。

そして午前の授業が始まるが、春は授業に参加しているように見えない。顔を伏せ机と一体化したかと思えば、肘をつき外の景色を眺めていたりしている。


(面倒臭ぇ。早く昼にならねぇかな)


(お昼休みが勝負よッ、茜!)


二人に温度差はあるが、待ち望む時間は奇しくも同じ。

昼休みが徐々に近づくと、何の前触れもなく教室の扉が開いた。

そこには目の周りを赤く腫らしたクロミと、そのクロミを抱っこしている保健室の先生がいた。


「沢木春君は居る?クロミちゃんが沢木君の所に行きたいって、言う事聞かないのよ」


「…………」


何故上手くいかない?と春は頭を抱えて考えた。

するとこの時間の教科を受け持つ教師が、余計なアドバイスをクロミにしはじめる。


「ん〜、それなら椅子を一つ用意して、沢木の隣で一緒に勉強してもらおう。それでいいかい、クロミちゃん?」


「…うん」



「…………」


しばらくしすると、生き返った表情でお絵描きを始めるクロミ。さっきまで半泣きだったくせに、立ち直りが早すぎる。


(この…ボケナスどもがぁぁああ!!)


やっと手に入ると思った時間が、三時間程で終了した。

どうやら運命は、一人きりにはさせてくれないみたいだ。


「…ハル、お菓子食べたい」


「我慢しろ。後で買いに行くから」


これから3年間、このスタイルの学園生活を送らなければならないのかと思うと、もう目標とかどうでも良くなってしまう。


そして待ちに待った昼休憩になり、春はスーパーで買っていた菓子パンや惣菜パンを取り出したが、飲み物がない事に気付く。

目の前に座っている茜の肩を叩くと、ビクッと背筋を反射的に伸ばし、オドオドしながらこちらに振り向く。


「えっ?えっと、なっ何かな〜?」


平静を保とうとするも、突然のアプローチに顔が赤くなり視点が定まっていない。

男に免疫がないのか、頭がおかしいだけなのか春は判断に困った。


「自販機ってどこにある?あと売店に菓子って売ってんの?」


「え〜っと、確か一階の端に売店があって、食堂の入り口に自販機があるよ。あっ、お菓子は売店に売ってるよ!」


茜はテンパりながらも質問に答えると、春は立ち上がりもう一つ重要な頼み事をする。


「ちょっと買いに行ってくるから、クロミの相手してくれねぇか?」


「お安い御用でぇ!」


「それじゃ頼んだ(汗」

(…なんか頭悪そうな女だな)


クロミを一人残して、教室から出て行く春をじっと見つめる茜。そしてパンを食べ始めていたクロミに声をかけた。


「ふふふ、クロミちゃんこんにちは。私は雪村茜。よろしくね!」


春との距離を縮めるため、まず春の憑神であるクロミの心を掴む必要があった。憑神とはいえ幼女を巻き込む戦術は完全に大人気ない。


「…よろしく」


俯きながら、なんとか聴き取れる大きさで返事をしたクロミ。すぐに手に持っているパンを、再び齧り始めた。


(…やっぱりカワエェ)

「クロミちゃんって、沢木君の事が大好きみたいだね」


何気なく聞いたつもりだったが、その質問は特大の地雷だった。クロミは満面の笑みでその質問に答える。


「うんっ!だってクロミ、春のお嫁さんだもん!」


「………えっ?」


今日一番の声量で、堂々と答えた。

その地雷の衝撃は、教室全体にまで蔓延していた。

聞き耳を立てていた生徒達は言葉を失い、教室には静寂が訪れた。


「えへへ〜」


言っちゃった。みたいな顔を両手で押さえ、体をクネクネし始めた。

そして茜の頭の中では、叶いかけていた夢が音を立てて崩れ落ち、喪失感に襲われた。


しかし一番の被害者は、今この場に居ない沢木春に違いない。自分の知らない間に、平穏な高校生活にピリオドが打たれていた。

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