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モノクロ〜白鬼と黒鬼〜  作者: 五臓六腑
一章〜門出に笑う鬼〜
3/16

2.金棒


(…まぁこんなもんか)


起きたばかりにも関わらず、楽しそうにお絵描きしてるクロミの横で、シュミレーションを頭の中で軽く行う。するとしないでは成功率が格段に違うと、人気漫画で描かれていた事を思い出す。

それとこの作戦に必要な人物は、既に目を付けてある。


あまり他人に頼りたくなかったが、このまま一人で暴れても周りに被害がでるのは明白だ。かと言って大勢の人前ではクロミの能力は使えない。

それに成功するかは協力者の行動に大きく左右される為、少し不安は残るが春は静かに行動に移した。


「あの〜、スンマセン。ちょっといいですか?」


「あ?何だッ!?」


牙を剥き出し威嚇しながら銃口を向ける。いつ撃たれるか解らない緊迫した状況の中、あまり使わない丁寧な口調で春は喋り続ける。


「トイレに行きたいんですけど、ダメですかね?」


そう言いながらクロミと手の繋ぎ立ち上がる。なるべく相手の神経を逆なでしないよう下手に出るも、端から見ればこの状況で強盗に喋りかける神経の図太さに驚かされる。


予想外の申し出に面喰らうも、リーダー格の男は仲間の男に目で合図をだす。合図を受けた男は頷き、翼を広げ春の前まで軽く跳び上がると、自分に着いて来いと顎で指示を出す。上から目線の態度に不快感を覚えるも、そのまま男に着いて行きトイレへ向かった。



(凄い、本当に上手くいったぞ)


その二人の背中を固唾を呑んで見送る一人の男性。撃たれた足を押さえるその手は、蜘蛛の糸の様にか細い希望を掴んでいた。


『俺が隙を作るから、こいつらを守る壁を作れ』


春が立ち上がる際に、周りに聞こえない様に小声だが確かにそう言っていた。


その男性は二つの事に驚いた。

まず一つは、少年の勇敢な行動力。他の大人でさえこの状況で迂闊に行動できない。仮に行動したところで、自分と他の人にも危険がせまるのは誰にでも予想できる。

そして二つ目は、この場には居ない自分の憑神の存在。居ないというより、姿を隠していると言った方が正しい。


男性の憑神は、普段から地中に潜って行動しているので、この場にいる誰にも気付かれない。

しかもどのような能力を使えるかも見抜かれていたので、男性は何故?と疑問に感じていた。

しかし今はそれどころではない。勇気ある行動を無駄にしない為、すぐに憑依して壁を作れるよう神経を研ぎ澄ませていた。


しかし希望を粉砕するように、一発の銃声が響き渡った。その銃声は、春達が向かった方向から聞こえた。人々はざわつき、いつ自分が狙われるか解らない恐怖に怯えた。その暗く沈んだ表情を見て、強盗達は嬉しそうに口元を緩めた。


だが銃声が鳴った方向から、聞き覚えのある声がした。


「ーーオイッ!やっ、やめっ!来るなァぁー!」


銃声が聞こえてしばらく経ち、トイレに案内しに行った仲間の叫び声が、フロア全体に響き渡った。

その叫び声と共に大きな物音も近づくと場の空気が凍りつき、静寂と緊張が走った。

全員が息を呑んで、男の叫び声が近づく扉に視線を向ける。



「ーー助けてくれーっ!」



叫びながら扉を勢いよく開け、命からがら逃げて来た様子で男が飛び出してきた。

その焦り方は普通ではなく、息も荒く、顔一面には冷汗が噴き出していた。

しかしその扉から出てきたのは、その男だけではなかった。



人々の目に映る〝それ〟は黒く、暗く、煙のように漂いながら揺らめいていた。扉の開いた部分を埋め尽くして、そこから巨大な黒い腕が現れ男の腰を鷲掴みにした。地面に叩きつけられ男は必死に抵抗するも、見た目と違いその黒い【闇の手】はピクリとも動かなかった。


「…ッ!?何だ…あれは?」


得体の知れないものを見て、待ち構えてた男達は動く事ができなかった。目を見開き、何が起こっているのか必死に理解しようと頭を働かせた。

ただ解っている事は、この能力ちからは異常な上、危険過ぎるという事だけ。



(…ここだ、今しかないっ!)

「ーー憑依っ!」


男性は一瞬の隙を逃さなかった。座ったままの状態で憑依し、強盗から人々を守る為にその能力ちからを振るった。


両手を地面に向けて力を注ぐと、轟音と共に分厚い土の壁を人質全員を囲うように創り上げた。

それを見た強盗の一人が壁に突進するも、天井部分から土埃が落ちる程度で、短時間では壊せないと判断し諦めた。


壁が創られる音を聞き、闇の向こう側から若い男の声が聞こえた。


「予定通りだな。そいつまた飛ぶと面倒臭いし、羽でも捥ぎ取ろっか?」


「あいっ♪」


闇の中から新たにもう一本の腕が伸びると、片翼を無雑作に掴み、ゆっくりと引き千切る。言葉にならない痛みが男を襲い、苦痛によって絶叫した。

そして魔の手からのがれようと必死に抵抗するも、まるで相手にならず辺りには血が飛び散っていた。


「ブッチブチ〜♪」


何の罪悪感もないまま、クロミは楽しそうに歌いながら根元から剥いだ翼を投げ捨てた。

だがまだ息のある男を見ると、


「まだ生きてんじゃん。てっきりショック死するかと思ったけど…。まぁいぃ、残りもいっとくか?」


「あいっ!」


あまりに無慈悲で躊躇ない言葉に、男は目を見開き耳を疑った。

このままでは本当に殺される。

そう思い、残った力を振り絞り全力で抗い続けるが、次第に痛みが全身に広がり思うように体が動かせなくなっていた。

すると恐怖からなのか、無駄だと諦めたのか、男の目には涙が溜まっている。


「た、助…けてくれ…」


男は許しを乞うが、その言葉は春の耳には届かない。

そして残った羽を千切り終えた時には、激痛に耐え切れず男は気を失っていた。


やっと静かになったところで、クロミを抱きかかえた春が、ゆっくりと闇の中から姿を現した。

まるで何事もなかったかのように辺りを見渡すと、男達を見て静かに言い放つ。


「とりあえず、こいつ返しとく」


そう言って現金を回収しに行った男が、闇に掴まれたまま引きずられ男達の近くに放り投げられた。

その男はすでに意識がなく、顔には無数の痣があり手足も所々腫れ上がっていた。


ボロ雑巾のように扱われた仲間の姿を見て、ようやく犯罪者らしい行動をとった。



「てめぇー!ぶっ殺してやるっ!!」


痺れを切らして、怒鳴り声を上げると荒ぶる猛牛が走り込んできた。

その男は憑依した事で、全身の筋肉が隆起していた。

それは人間が鍛えても手に入らない程の体つきで、まるで巨大な岩が迫ってくる錯覚を覚える。

押し潰される程の気迫を全身に浴びるが、春は何一つ変わらない表情で幼女の名前を呼んだ。


「…クロミ」


「ヨッシャ、殺っちゃうよ〜♪」


何をしろと言わずとも、名前を呼べばそれに応えてくれる。

春とクロミの信頼関係は、それ程まで深く親密に築かれているのだ。


「ウ〜…、うりゃーー!!」


溜められた力を吐き出す様に、渦巻く能力を束ねて巨大な腕を作り出す。

持て余していた巨大な腕を、迫る筋肉の塊に正面から放った。


「こんな物、俺に効くと思ってんのかぁー!!」


硬い物ならコンクリートすら破壊する威力がある。

それは日々鍛え上げた肉体によって生み出される威力。

余程の自信があるのか、猛牛は頭からその腕に突っ込んだ。

だか一人の男は口元を緩ませて、


「…はい、三人目〜」


その光景はまるで交通事故。激しい衝突音が辺りに響いた。


「…ぅごッ!?」


押し負けたのは強盗だ。筋肉の鎧に覆われた身体は首の根元からへし折れ、その勢いを殺さないまま壁に叩き付けた。

闇の手の僅かな隙間からは、勢いよく鮮血が飛び散っていた。

ゆっくり壁から引き剥がすと、ネットリと血肉が糸を引く様に垂れ下がってた。


「あちゃ〜、ねぇハル?クロミやり過ぎちゃった?」


「ん〜…、普通。まぁ良くやった」


「えへへ〜、もっと褒めて褒めて〜♪」


ぶっきら棒にクロミに応える春も、それを聞いて嬉しそうにするクロミも、死体を前に何一つ感情が揺るいでない。


「テメェ!これのどこが普通だよ!!」


仲間の変わり果てた姿を目にし、怒りで血液が沸騰しそうになっていた。

それだけではなく訳の解らない憑神相手に、ここまで予定を狂わされている。


「くそッ、折角の計画が台無しじゃねぇか」


どこか諦めた表情で腰に備えた拳銃を抜き出し、その鈍く輝く銃口を春へ向けた。

直ぐにでも引き金を引ける様に指をかけるが、春は全く動じていない。


「クロミ、こっからは手ぇ出すなよ」


「わかった〜…」


物足りない。殺し足りない。

少女には似つかない感情が腹に残るが、渋々と春の指示に従って少し後ろへ下がった。

だがその行動を見た男は、ある事に気が付いた。

戦闘が始まってから薄々と疑問に感じていたが、それが確信へと変わった。


「お前、憑依出来ねぇみたいだな」


その言葉を笑顔で口に出す。

それは確実に殺せると安心したのか、気持ちに余裕ができる。

それもそうだろう。イカれた憑神を従えても、使えなければ勝機はある。確実に殺せる。


「死ね」


男が一言呟き、引き金を引いた。

軽く指を動かすと重厚な音を発して、眉間に鉛玉が撃ち込まれた。

銃声が聞こえた瞬間に、頭蓋を削り脳を掻き乱しながら貫通した。


その姿を見ると、男は鬱憤を晴らせた事で満足していた。


(撃った!殺した!確実に死んだ!…なのに)


だが男の顔は次第に曇り始め、勝ち誇った顔ではなくなっていた。

有り得ない光景を目にして、額に冷や汗を浮かばせながら慢心した気持ちを打ち壊した。


「何で…、何でまだ立ってるんだよ!!」


撃たれた反動で天井を見上げたまま、立ち尽くしていた。

何故倒れないか、直ぐに本人の口から説明があった。


「ってぇ…。撃たれたの久しぶりだな」


顔を上げると、確かに眉間からは血が流れていたが、傷跡が何処にも見当たらない。

何事も無かった様に動いている。いや、生きている。


「くそッ!死ねよ化け物がぁ!!」


気が動転しているのも無理もない。照準も定まらないまま銃弾が尽きるまで撃ち続けた。

だがクロミの意思で春を守ろうと闇が球体となって、雨の様に降り注ぐ銃弾を防いだ。

弾かれる事もなく、闇に触れた瞬間に銃弾の勢は無くなりポツリと地面に落ちていった。


やがて闇が晴れる様に消え、その中に居た春が無傷で姿を現すと、その顔は不機嫌そうに男を睨んでいた。


「本当、癪に触る音だな…」


春の発したその一言は、男達を威圧した。

溢れ落ちた鉛玉を足で払いのけると、ゆっくりと近づいた。


「本当に…、ぶっ殺したくなる!!」


突如春から殺気が溢れ出すと、その姿が一変した。

纏まりを無くした黒い髪は肩まで伸び、額には一本の角が生えていた。


「ッ?!マジで何なんだよ、テメェはー!?」


「俺は…【白鬼】だッ!!」


正確には白鬼と人の〝混血種ハーフ〟。

普通、憑神と人間の間に子は授からない。仮に授かっても、奇跡でも起きない限り産まれてくる事ができない。

そんな奇跡の結晶である混血種(春)は、この日本で確認されいてる個体は沢木春だけである。

それ故に様々な苦労もしてきた。壁を創るよう頼んだ本当の理由は、人質を守る為でなく自分の存在と情報をなるべく隠すためであった。


「俺が平穏に過ごす筈の一日を…。お前ら、覚悟出来てんだろうな?」


一歩。また一歩。近づいて来る怒気の塊に、男達は今まで感じた事のないプレッシャーを肌で感じた。


「うおおぉぉおお!!」


向かわなければ殺されると感じた、鰐と憑依した男。

何の策も無いまま、得体の知れない男へと駆け出した。だがそれは愚策。

相手の力量も計れないまま、威勢が良いだけで攻撃はまるで素人。春は余裕を持ってゆらゆらと躱していく。


「何で当たらねぇんだよ!クソがッ!」


痺れを切らしたのか、大きな口を開け春の首めがけて飛びかかって来た。鋭く並んだ牙に噛み付かれると少なからず痛いと思い、咄嗟に両手で受け止めた。


顎の力が予想よりも強い事に若干驚くも、春も負けじと力づくで顎を外した。

強靭な顎が外された事に驚き、その怯んだ一瞬の隙に春は喉元へ手刀を放った。喉を潰す程食い込むと、男は苦しそうに喉を押さえながらその場に倒れた。


「ん〜、抉った方が派手に殺せたな」


若干後悔しつつ、手刀を放った右手を見つめる。たがその足は男の顔を踏付けていて、亡骸を仏とすら思っていない。

深く溜め息を吐くと、残った最後の男に視線を向ける。


「なんかテンション下がるわー。ここまで手応えないなら、最初からクロミに一掃して貰えば良かった」


その鬼の目から殺気やなどの感情が消えていた。しかし全身から溢れ出す威圧感を肌で感じ、このままでは逃げ切れないと男は悟った。


圧倒的強者と対峙して、逃げるという選択肢がない現状。覚悟を決めるも未だ全身の毛は逆立ち、頬には汗が流れる。

そんな相手を気遣うように、春は話しかける。


「まぁ人間は殺さねぇから安心しろ」


仲間の姿を見て、今更自分だけ無事に済むと考えられない。徐々に距離を詰めてくる春に向かい、男は鋭い爪で攻撃を仕掛ける。しかしそんな決死の攻撃すら簡単に捌き、躱し、春は遊んでいる。


「てめぇ、夜行じゃねーだろっ?!何が楽しくて仲間を殺してんだっ?!人は殺さないんじゃねぇのかよ!!」


お互い取っ組み合っている最中に、男が問いかけてきた。確かに春にとって人質を助け強盗を捕まえる事は目的ではない。それは副産物、成り行きに過ぎない。


「ん〜。なんかお前ら見てると無性に腹が立つんだよ。まぁ俺にとっては、飛び回る鬱陶しい蠅を叩き潰すのと一緒の事だ」


春はただ蠅を殺してるだけで、違うのはその蠅が大きいか小さいかという事。つまり今の戦闘はその程度の小さい事だった。


「後なぁ…俺は人は殺さねぇけど、人と思わねぇ奴は問答無用で殺すッ」


「くそッ…。だったらーー」


男は組み合っている春の腕を引き寄せると、肘から下の肉を噛みちぎった。


「ッ!?痛てぇーな!」


「これでどぉだッ!殺される前にこの爪と牙で、これからてめぇをグチャミソにして殺してやるよ!」


春の左腕から大量の血が流れ落ち、足元は真っ赤に染まっていた。噛みちぎれた部分は燃えるように熱く、空気に触れるたび剣山で突かれるような痛みが襲う。

決して手を抜いたわけではないが、これ程の傷を負う事は考えてもいなかった。


ハイエナの男は初めて攻撃が当たった事で、まだ勝機があると舞い上がり強気になっている。

しかし次の瞬間、現実を思い知らされた。

噛みちぎったはずの腕が、徐々に再生し元通りになっていたのだ。


「ッ?!嘘…だろ。さっきといい何で治るんだよぉ?!」


憑神の中で上位の種族である鬼。その鬼の中でも最強と謳われる白鬼が持つ能力【再生】。その血を引き継ぐ春にとって、このぐらいの傷は何ともない。治った腕を確認し、その手を握りしめ力を込める。


「この白鬼おれがッ!お前みたいなカスにやられるわけねぇだろ!!」


姿が消えたように一瞬で間合いを詰めると、男の顎に拳を突き上げた。上体が浮き上がったと同時にハンマーで殴られたような重い衝撃が横腹に走り、男の体はくの字に折れ曲がる。


「ーーゴフッ?!」


吹き飛ばされる程の衝撃は、男の肋骨を容易くへし折った。息が苦しくなり段々と顔が青ざめていた。

最早春が手を下さずとも、勝手に死んでしまいそうな状態だ。

しかし春は男に近づく。


「ハハッ。死ね」


何の躊躇いもなく、ただその一言を冷たく言い放つと、上げた右足で頭を踏み潰した。

まるで卵が落ちて割れたみたいに、床には花火の様に血が散乱した。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ハル〜、もぅ終わった?」


余程退屈だったのか、待ちくたびれた様子でクロミが顔をのぞかせる。状況を確認すると軽いストレッチで筋肉をほぐした後、小走りで駆け寄ってきたクロミを慣れた手つきで抱き上げた。


「とりあえず終わりだな。さて、これからどうする事やら…」


辺りには血が飛び散っていて、凄惨な光景が広がるにも関わらず、その中心に立つ春はいつもと変わらない調子で答える。

突如発生したゲリライベントに巻き込まれ、仕方なく力を使う羽目になったが、久しぶりにいい運動したなとなるべくポジティブに考えた。


(あの人達の気配しねぇけど、上手く逃げ出せたみたいだな)


どうやら人質になった人達は、自分達の周りに壁が現れた直後、誰かが憑依して銀行の壁を砕き脱出したのだろう。

それにしても自分達はどうやって帰れば良いのか考えていたとき、春の携帯が突然鳴った。

画面には知っている名前が表示されており、その名前を見て春は不機嫌な顔をした。



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