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モノクロ〜白鬼と黒鬼〜  作者: 五臓六腑
一章〜門出に笑う鬼〜
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1.出会い



「おーい、クロミ!そろそろ起きろー」


暖かな朝日が差し込むリビングで、春はテーブルに朝食を並べながら幼い同居人を呼び起こす。何度か呼んで、ようやく小さな返事が聞こえた。


「……おはよぉ〜…」


寝起きの目を擦りながら、薄黒い肌の幼女はリビングに現れた。額から小さな角が二本生えており、肩まで伸びる銀髪は所々はねていた。

祖母から貰った熊の着ぐるみのようなパジャマは、クロミのお気に入りだ。


「おはよ。まず顔洗ってこい、朝飯出来てるぞ」


「あ〜い」


親子のようなやり取りをして、クロミはあくびをしながら洗面所に向かう。しかしその辿々(たどたど)しい足取りは、まるでゾンビのようにおぼつかないものだった。


顔を洗い終えたクロミは、テーブルに用意された朝食を食べる為、全身を使い椅子によじ登った。完全に目が覚めたようで、その紅い瞳が春を見つめていた。


「うっし、それじゃ食べるか」


「いただきまーっす♪」


トースト、スクランブルエッグ、即席のスープと、手間のかからない朝食が並ぶ。簡単な朝食なら、料理スキルのない春でも一応作れるみたいだ。


新生活が春一人だけなら毎日カップラーメンになっていたかもしれないが、クロミがいるのでこれからは料理を覚えなければならない。

祖母からバランス良い食事を、クロミに食べさせるように言われているので、高校の家庭科は必須だ。


「ハル〜これ美味しいよ♪」


満面の笑みで朝食の感想を伝える。

基本的に好き嫌いがあまりないので、クロミは何でも美味しそうに食べる。春はそんな姿を対面から微笑ましく観察する。


朝食を食べ終えた二人は、しばらくして出かける準備をはじめた。神楽市に引っ越してから、家の近くを初めて探索する。

余程嬉しいのか走り回っているクロミが、二枚の肌着を掴んで春に駆け寄って来た。


「ねぇ!『風子ちゃん』と『カトリーヌ』どっちがいい?」


幼女である前に、一人の乙女であるクロミ。

Tシャツを持った両手を春の前に突き出した。クロミなりにお洒落に気を遣って、どちらを着るか春に選んでもらうが、明らかに面倒臭そうな表情で指を差した。


「んじゃ、こっち」


そして適当に差した先には、『風子ちゃん』と呼ばれたTシャツがあった。それは子供向けアニメのキャラクターで、昔から放送されている。クロミはもちろん、熱心な大人のファンもいるらしい。


風子ちゃんのTシャツを着た後、純白の着物に身を包まれ薄ピンクの帯を締める。昔から変わらない服装だが、クロミはこれが一番良いらしい。


見知らぬ土地を散策するのが楽しみのようで、ややテンションが高い。

春もお気に入りの黒いジャージに袖を通すと、肩を回し動きやすさを確認する。

外出する際の服の選び方は、見た目より動きやすさを重視するため、持っている服はジャージが大半を占めている。


準備運動をしていた春に、クロミが尋ねる。


「ねぇねぇ、今日どこ行くの?」


「とりあえず銀行かな。口座の作り方知らねぇから、プロに直接聞きに行くのが一番早ぇ」


「ふーん、わかったー」


わからない事はその道のプロに聞くようにしている。そうする事によって、自分で調べて間違えるリスクを減らしているらしい。

携帯の地図で確認すると、徒歩15分程の場所に銀行があった。


「じゃあ行くか。ちゃんと帽子かぶったか?」


「おっけー♪」


帽子を深く被らせ、手を繋ぎ歩幅を合わせる姿は、まるで年の離れた仲の良い兄妹のようだ。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「ハァ、もぅすぐか〜」


ここは神楽市東区にある銀行。

デニムのジャケットに団子ヘアの少女は、膝に置いた小さな鞄を軽く握り、ため息と共に不安な気持ちを吐き出した。


『茜、もう少しシャキッとしたらどうなの?いくら溜め息ついても、何も変わらないわよ』


まるで姉のように注意する声。

茜と呼ばれた少女の左肩に浮いている【霊魂】から、その声が聴こえた。

一般的に憑神は、公共の場や人混みなどでは邪魔にならないよう霊魂になるのがマナーとされている。

それはソフトボール程の大きさで、まるで火の玉のように僅かに揺らめいていた。


「雪姉ぇはいいよね〜、勉強しなくていいから」


『はいはい、嫉妬するぐらいなら勉強しな。馬鹿な女はモテないよ』


茜は口を尖らせ憑神の『雪菜ゆきな』に愚痴をこぼすも、モテないという言葉を聞き頭に血が昇って興奮してしまった。

そしてその勢いのまま、高校生活における最も大切な目標を熱心に語り始めた。


「そんな事ないもん!馬鹿でも少しは可愛く見えたりする筈だもん!!私は絶対素敵な彼氏を作って、ラブラブな高校生活を送ってやるんだから!」


右手を貧相な胸の前で握りしめ、その瞳には決意の炎がメラメラと燃えていた。ポジティブなのは良い事だが、その決意を少しは勉強に向けれないものだろうか。

やれやれと今度は雪菜がため息をついた。


そんなやり取りをしていると、茜の隣にジャージ姿の男が勢いよく腰を下ろした。気付かれない様に恐る恐るジャージの男に視線を向けた。黒髪で整った顔だが、目つきが悪くどこにでも居そうな男が視界に入る。


(…ふーん、チョット格好良いかも)


一瞬興味を持つも、発展しなさそうな他人には恋心を抱かないようにしている。首を左右に振り、一旦気持ちをリセットした。

だが男の腕の中で、ぐっすりと眠っている銀髪の幼女を発見してしまった。



(超可愛んですけどーーー!!)



先ほどと打って変わって、小動物に向けるような感情が一気に沸き上がった。両手を胸の前で握り合わせて興奮を抑えようとするも、いたずらしたい衝動に駆られている。まるで飢えた獣みたいだ。


すると茜の心の声が聞こえたのか、急に幼女を椅子に寝かせ直し、男は一人で窓口に向かった。

「チャンス!」と茜は思い、可愛い天使を愛でる事にした。

恐る恐る頭を撫でると嬉しそうな顔をするので、茜も嬉しくなりニヤニヤが止まらない。


「結婚したらこんな可愛い子供ほしいな〜」


『今まで彼氏もいなかったくせにw結婚ってww』


茜の耳元で雪菜が小刻みに笑うも、できるもんっ!と頬を膨らませ茜はそっぽを向く。ふと顔を向けた先にはジャージの男と従業員が、楽しそうに話してる姿が視界に入った。


(…彼氏ほしぃな〜…てかこの子とあの人って兄妹なのかな?何か似てない)


茜は妙に気になって数回視線を行き来させていると、静かな店内に突如銃声が鳴り響いた。


突然の出来事に悲鳴をあげ、周囲の人は音の発生源へ目を向ける。そこに居たのは獣人、いや憑依した五人の男達がこちらに銃を向け歩み寄ってきた。


それぞれ違う姿をしており、牛のように角がある男、翼が生えている男、ワニのように硬い鱗に覆われている男など、憑依した憑神の特徴が身体に表れていた。



「テメェら!死にたくなかったら大人しくしとけっ!」



先頭に立っていたリーダー格の男と数人が、客や従業員を一か所に人質として集めた。鋭い牙と爪で威嚇しながら命令を出すが、その表情はどこか楽しんでるようにも見える。

それからさらに一発、拳銃から発砲された音が鼓膜を揺らした。その銃弾は、二十代後半の男性の太ももに直撃した。経験した事の無い痛さでその場にうずくまり、動けなくなっていた。

必死に痛みに耐えながら、傷口を押さえる手には力が入っていた。


「悪いな。今のはちょとしたデモンストレーションってやつだ」


ゲラゲラと笑いながら撃たれた男性を見下ろすリーダー格の男。そんな中、犯罪グループの男が従業員を一人連れて現金を回収しに奥へ向かい、他の男達は人質を見張っていた。

しばらくすると、建物の周囲がサイレンの音で騒がしくなってきた。


「やっぱり夜行のゴミどもが居ねぇ分、安心して仕事が出来るぜ」


警察が建て物を包囲していても、逃げ切れる自信があるのかあまり警察を気にしていない。

それ以上に人質が手元に居るから、警察は下手に動けず先手を打つ事が出来ない。

強盗達は目を合わせて計画が順調に進んでいる事を確認する。



(どぉしよ〜、雪姉ぇと憑依しても私一人でどうにもできないし……。誰か助けて〜!まだ死にたくないよ〜!)


人質となっている茜は、打開策を考えるも現状を確認するたび無理だと諦めている。むしろ警察は既に来ているので、大人しく助けが来るのを待つべきだという考えに辿り着く。


順風満帆な高校生活を送る予定が、こんな所で潰されたくないと切実に思っている。

ビクビクしながら周りを見渡していると、ジャージの男が目に止まり一緒にいた女の子も確認できた。


(…あの子、まだ寝てる?)


無事な姿を見て安心したが、男の目付きが鋭くなっていた。その視線は強盗に向けられていて、その男達に対して怒りが込み上げているのだと茜は感じた。


だが茜の予想とは全く違っていた。



「……面倒くさ…」


小声で呟いた男はジャージの袖を捲り、腕の中の幼女を静かに起こす。男は予定が狂った事に腹を立て、早く帰る為に強盗達を討ち取る事にした。




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