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モノクロ〜白鬼と黒鬼〜  作者: 五臓六腑
一章〜門出に笑う鬼〜
13/16

12.灼熱系男子


『ーーオイ、太。あいつ今までの奴とは全く違うぞ』



頭の中に直接ディアボロスが警告してくる。太もただの夜行ではないと気付いているが、自分より強いか弱いか、その事だけしか考えてない。



「あぁ、解ってる…。行くぞッ!」



まず先手を仕掛けたのは太だ。力強く地面を蹴り前へ飛び出し、それと同時に漆黒の翼を羽ばたかせスピードをさらに上げた。風のように早く、そのスピードのまま右の拳を構えた。

まず先に太が狙ったのが春ではなく見るからに弱そうな山岸。相手が複数の場合は弱者から潰していき、残った一人に集中する為だ。


「まずいッ」


その事に気付いた春は咄嗟に山岸を蹴り飛ばし、その直後、勢いのついた太の拳は空を切った。


突然ブロック塀に背中を叩きつけられた山岸は、内臓を掴まれたような脇腹の痛みで蹴られた事に気が付いた。そしてこの戦いで、自分は足手まといになる事を身を以て知った。



「…チッ」


狙いがバレて攻撃を躱された事に軽く舌打ちをした。何故考えが見抜かれたのか頭を使わなくても解る。おそらく同類だ。

しかし仲間を助けたつもりが、逆に戦闘不能になっているので余計な手間がはぶけた。

そのまま勢いを殺さず空中で旋回し、さっきよりもスピードを上げて春に向かって突っ込んで来た。


「おっしゃー!来いやぁーっ!」

(馬鹿がッ!カウンターぶち込んでやるよ、クソ悪魔!)


タイミングを合わせて春は渾身の一撃を振るったが、今度は春の拳が空を切った。太は直前までスピードを落とさず、まるで羽が舞うようにヒラリと春の頭上を飛び越えてみせた。春は後ろを取られすぐに振り返ると、既に太の拳が目の前まで伸びていた。


「何ッ!?」


「ォラッ!」


春は避ける事が出来ず黒い拳が頬にめり込み、豪快に吹き飛ばされ硬い地面を転がった。憑依した事によって格段に威力が上がっていたので、この痛みは想像以上だった。



(クソッ…こんなに強ぇとは……)

「……ますます気に入った!」


笑いながら立ち上がった春の口元からは、一筋の血が流れ落ちていた。しかしその血と殴られた痛みを感じさせない表情でクロミに指示を出した。


「クロミー、絶対手ェ出すなよ!これは漢と漢の喧嘩なんだからな!」


「えー!?ん〜、解った〜…。その代わり早く帰って来てね〜」


「任せとけ!」


少し心配そうなクロミは邪魔にならない様に、山岸と共にテクテクと歩いてこの場から離れていった。

春は二人を見送り再び太に視線を向け、思い立ったように走り始めた。


「よっしゃ!次は俺の番だ」


「カスが、遅ぇよ!」


そう言って太が脚に力を溜め飛び出そうとした瞬間、突然目の前に春の姿が映し出された。

緩急を付け距離を詰めた事で、太は咄嗟に反応が出来なかった。


「ーーなっ?!」


「お返し…だ、ォラァッ!!」


大振りの鉄拳は太の右脇腹に重く、そして深く突き刺さり、動きが一瞬だけ鈍くなった。


「がっ…は…息が…ッ」


あまりの激痛に息が出来ず苦悶の表情を浮かべる太に向かって、すかさず右の拳を振り上げた。その拳は狙い通り顎に当たり、その衝撃で黒い巨体がのけ反った。


(決まった!)


しかし春の考えは甘かった。

相手は憑神無しで憑依してる奴と喧嘩する程のタフな男だ。いくら手応えがあっても、憑依した事で強さと同様で更に頑丈になっていた。

体が宙に浮き上がり後ろに倒れそうになった太は、衝撃を逃す様に翼を羽ばたかせ後方に飛び上がった。


「ハァ…ハァ…、中々やるな」


接近戦でしか闘う事しか出来ない春にとって、空中を飛ぶ太は相性が悪かった。そんな中、口に溜まった血を吐き捨てた太は、乱れた息を整えていた。

しかし太はあまり長引かせるつもりはなかったので、なんとか決着を着けたいと気持ちが先走り苛立っていた。


するといつの間にか目を覚ましていた三人目の被害者の男が、辺りを見渡し地面を這いながら逃げ出そうとしていた。太はその事に気付くと、猛禽類の如く上空から獲物に向かって猛スピードで降下した。


「あっ、おい!待てやッ!!」


春の言葉を無視して頭上を通り過ぎ、男の前に降り立つと同時に、顔面に蹴りを放ち強制的に再び眠りにつかせた。

そして駆け寄って来る春に向かって、右手を伸ばすと、


「ーーもぅ死ねよ」


その右手からこぼれ落ちる程の炎が生まれた。そして春に向かって放たれた灼熱の炎は、道を埋め尽くし一帯を赤く染めあげた。


「…ヤベッ」


炎が目の前まで迫って来ると、間一髪の所で電柱の陰に隠れ身を潜めた。しかし隠れるには電柱は細く、通り過ぎていく炎にはみ出した左肩がジリジリと焼け焦げた。


「テメェ、それ(炎)は卑怯だぞ!近付けねぇだろ!」


皮膚が焼けただれ、人肉が焼ける独特な臭いが鼻腔に突き刺さる。痛みよりも近づけない事に歯を食いしばりながら、炎が通り過ぎ去るのを待っていた。

しかし痺れを切らした春は、意を決して炎の中に飛び込むとそのまま突き進んだ。

しかし腕で顔を防ぐも、息をする度に熱気で肺が焼けそうになった。


(クソッ、もう限界ッ!)


視界が悪く、呼吸も出来ない。このまま進む事は危険と判断して、炎から逃れる為に上空へ高く跳び上がった。

灼熱地帯から抜け出すと、すぐに大量の酸素を体に取り込み肺を潤した。太の位置を確認すると、法被の懐に忍ばせていた全長二十センチの棒手裏剣を抜き出した。棒手裏剣には幾つか種類があり、春が今回使用したのは刃先が剣のように薄くなっている【平板型手裏剣】を太に向かって投げつけた。


「ーーぉらッ!」


音もなく夜と同化して、まるで引き寄せられるように太の右腕に二本突き刺さる。

突然の腕の痛みに思わず炎を止めて、突き刺さった棒手裏剣を顔を歪ませながら勢いよく引き抜いた。地面に捨てると、高い金属音が鳴り住宅街に響き渡った。


(刺されるとこれだけ痛たいのか…)


右腕から溢れ出る血と傷口を見ながら、無言で上空へ飛び上がった。痛みで小刻みに震える腕を抑え、春を睨みつけた。


『ーー太、大丈夫か?』


「あぁ、何とかな。…とりあえず今日はここまでだ」


太は背中に巻き付けてあった発煙筒を取り出した。四本の発煙筒は一列にまとめられて、導火線に火を着け地面に落とした。すると直ぐに白煙が吹き出して、煙幕のように辺り一面を濃い煙で覆い尽くした。


「クソッ、何だこりゃ?全然見えねぇ」


煙を手で払いながら、太の姿を目を凝らして探すも全く見えず、この煙に乗じて攻撃される事を警戒した。しかしこの煙では太も春の姿を捉える事が出来ないと気付き、急いで走って煙の中から抜け出した。


「チクショウッ!もうあんな所まで…」


時すでに遅し。

煙から抜け出した時には、もう太の姿は小さくなっていき、そしてしばらくすると闇夜に消えてしまった。

治った肩をさすりながら、納得してない顔で決意を固めた。


「絶対に仲間にしてやる!覚悟しとけよー!!」


こうして勝負の着かないまま、闘いは終わった。春は疲れた様子でその場に座り、タバコに火を着けて大の字に寝転んだ。


「しッかし疲れた〜〜!」


このままだと確実に眠ってしまう程の疲れに襲われた。

しばらくするとどうやら誰かが通報したらしく、遠くからサイレンの音が近づいくる。

仕方なく疲れた体に鞭を打ち、春の帰りを待つクロミと山岸の元へゆっくりと歩き始めた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



「あいつ、かなり強かったな。結構ヤバかった」


『そうだな。でも今日の目標はギリギリ達成したけど、あんな邪魔が入らなかったらもっと順調に進んだのに…』


翼を広げ上空を滑るように飛んでいる最中、先程の戦闘について振り返る。突然夜行に邪魔され、ディアボロスの声は少し怒りで震えていた。


『しかし流石俺様が見込んだ男だ。余力を残してあそこまで闘うとは正直思ってなかったぜ。この調子で次のターゲットにも恐怖を教えてやろうぜ』


「あぁ。けどその前に…」


太は右腕の傷を見ると、左手の人さし指から小さな火を出して、薬を塗るように傷口を焼き付けた。


「…ぐっ……」


歯を食いしばりながら、その痛みに耐える。

刺された時よりも治している方が何倍も痛みを感じ、冷や汗が滲んできた。

しばらくして太の家の前に到着し、憑依を解いた。


「それじゃ部屋の窓の所で待っててくれ」


「解った。早くしてくれよ」


ディアボロスと契約した事は誰にも教えておらず、太の計画が終わるまで秘密にするつもりだ。

疲れ切った体でいつもより重く感じるドアを開けると、いつもと変わらず彩香が出迎えにリビングから出てきた。


「おかえりなさい。あの…太君、お父さんがリビングで待ってるから早く来て」


「ッ?!親父が?!」


その瞬間、腹の底から怒りを吐き出てきそうになった。眉間にシワを寄せながら、敵意剥き出してリビングの扉を開けた。

そこにはスーツを脱ぎ晩酌中の父親が居た。銀縁の眼鏡は鋭い目元を飾り、オールバックの髪型が良く似合う。太と全く似ていなく、父親と言われても疑ってしまう程だ。


「久しぶりだな、親父。俺に何か用か?」


太の父親は仕事で全国を飛び回っていて、家に居る事はかなり珍しい。勢い良く椅子に座った太は、腕を組み父親を睨む。しかし太の傷付いた顔を見て静かに問いかける。


「こんな時間まで何をしてたんだ?」


「別に親父には関係ねぇだろ」


鉄仮面のように無表情で太の言葉を聞くと、グラスに注がれた度数の強い酒を一口飲み、ため息をついた。


「喧嘩か…。いつまでそんな事をやっているつもりだ。高校生にもなっーー」


「っせぇんだよ!今更父親面してんじゃねぇ!」


話を遮り机を叩きながら立ち上がり、今まで溜まっていた怒りをぶつけた。リビングを出ようすると、ソファーには父親の憑神である『九尾』の狐が陣取っていて、あざ笑うような目で太を見た。


ーー親父もあの女も嫌いだ。


音を立てながら階段を上がり、足早に自分の部屋に戻ると、窓を開け外で待っていたディアボロスを中に入れた。


「遅かったな。もしかして忘れてたのか?」


「違う、親父と少し喋ってただけだ」


「ふ〜ん、親父ね〜」


太はベッドに横になり、なかなか静まらない怒りを抑え込んでいた。体は疲れて睡眠を求めているのに、父親に会ったせいで妙に頭が冴えていた。


「あ〜ぁぁ、クソ親父が!」

(またあんな目で見やがって…)


父親とも仲が悪いが、それ以上に見下すような目を向けられるのが、何よりも嫌で腹が立ってしまう。それは父親に限った事ではなく、全ての人間が対象となる。


「ケッケッケッ。さて太、また夜行の奴らに邪魔されねぇ様に次の作戦でも考えようぜ」


「…そうだな」

(…夜行か…あいつは何か違ったな…)


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「「疲れた〜」」


春とクロミの声が合わさり、クタクタの様子で家に着いた。キッチンの冷蔵庫から牛乳を出しコップに注いでクロミに渡した。


「ありがと〜♪」


「それ飲んだら風呂入れよ」


「は〜い」


クロミが風呂に入っている間にテレビを付けるが、この時間にニュースは放送されてなく、仕方なく携帯を出しネットニュースを見た。すると早くも今日の事件が書かれていて、その記事を確認すると太の事も自分達の事も書かれてなかった。


「フー、ひとまず安心だな。しかしあいつ夜行に入ってくれたらいいのに。それだけが心配なんだよなぁ…」


基本面倒臭がりの春だが、一度決めればどんな手を使おうと諦めない強欲な性格の持ち主だ。気に食わなければ破壊し、欲しいものは手に入れる。まるで子供がそのまま成長してるみたいだ。

今までの春は、こんなにも他人を気に入る事は無かったので、何としてでも仲間(部下)にしたいのだ。


「ハル〜、髪乾かして〜」


「はいはい、ドライヤー持って来いよ」


いつの間にか時間が経っていて、風呂から上がったクロミの濡れた綺麗な銀髪を丁寧に乾かす事に。そして何気なく今日の敵、つまり太についてクロミの感想を聞いてみる。


「なぁ、クロミ。今日いた奴の事どう思った?」


「ん〜…クロミはハルの方が大好き♪」


まだ乾かしてる途中なのに、そう言ってクロミは笑顔で振り向き春に抱きついた。


「ハァ…。アリガトー」


「ウヘヘヘ♪」


「ほら、髪乾かすから前向け」

(明日バイト休みか…。とりあえず明日も探して見るけど…手掛かりがな〜)


警察よりも他の夜行よりも先に、太を捕まえないと仲間に出来なくなる可能性が高い。バイトの休みを返上してまで、探す価値は太にはあった。


「あ〜ッ!手掛かりあるじゃん!」


突然何か閃いて、急いで山岸に電話をかけた。


「よぅ、俺だけど。今すぐ調べてほしい事がある。言っとくけどお前に拒否権ねぇから」


半ば強引に頼むと、携帯の向こうで山岸は渋々引き受けた。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「ったく、何なんだよ。太の奴今日も休むつもりか?」


コンビニの前に立っているだけなのに、絵になる男だだ。通学中やコンビニに寄る女子生徒の熱い視線を、一挙に集めた。


『旅?特訓?それとも死んだ?』


「おいっ!縁起悪い事言ってんじゃねぇよ」


苛立っている様子で煙草を地面に投げつけ、その足元には吸い殻が何本も落ちていた。佐時はギリギリまで太を待つ事にしたが、いつまで経っても現れない。


「電話もでねぇし、メールも返ってこねぇ…。一体何してんだよ」


少し心配しながら再び煙草を取り出した。煙草を咥え火を着けようとすると、突然横からライターを持った手が伸びてきたので、そのライターで煙草に火を着けた。


「…どうも」


いきなりの出来事に少し戸惑いながら、手が伸びてきた方向を向くと、そこには笑顔の春とクロミが立っていた。


「…?…誰だ?」


「誰でもいいじゃん。そんな事より火野太って奴知ってるか?」


春の口調が気に食わなかったのか、太の事を知っているのか、機嫌の悪かった佐時はいきなり掴みかかった。


「お前、太の事知ってんのか?あいつ今何してるんだ?」


「オイッ、離せ。今俺が質問してんだろ」


取り乱した様子で太の事を尋ねてくる佐時に対して、春は胸元に伸びた手を掴み冷静に答えた。


「…悪い。…実は全く知らねぇんだ。学校も数日休んで、多分今日も休むつもりだ。」


「ほー、なるほど…。教えてくれてありがとうな」


これは貴重な情報だ。太と一緒にいた男を狙ったのは正解だった。最悪の場合、太の通う高校に乗り込むつもりでいた。


「あぁ。さっきは取り乱して悪かった。こんな物しかねぇけど貰ってくれ」


律儀に謝ると、ポケットから飴を取り出し春に渡した。さらにクロミの目の前で片膝をついて座ると、


「さっきは大きな声を出して悪かったね。これお礼だから貰ってくれるかな?」


「…ぁりがと」


おいおい、幼女も口説くのか?と思ってしまう程のイケメンスマイルで、クロミにも飴を差し出した。

クロミは満更でもない表情で、掌の飴を奪い取るように素早く取った。


「もし太を見かけたら、俺に連絡するように伝えてくれるか?俺は名前は佐時だ」


「あぁ、解った」

(…気が向いたらな)


別れ際に佐時と約束を交わし、春はある事を考える。


「クロミ、今日は学校休むぞ」


「やった〜!いっぱい遊ぼうね♪」


「違う、あいつを探しに行くんだよ」


あからさま嫌そうな顔をするクロミの手を引き、何処に居るか解らない相手を探す為、まず二人は鬼組のビルへ向かった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「おい、何で学校に行ってないんだ?!」


バイトが無い日にも関わらず、せかせかと部屋の掃除に勤しむ烏天狗が、驚きながら詰め寄って来た。

その姿をみて、春もクロミも腹を抱えて大笑いした。


「何だよその格好?まるで家政婦じゃねぇかw」


「烏チャン、カワイイ〜w」


二人に馬鹿にされると、急に羞恥で顔が赤くなりプルプルと体を震わせた。

すると先程よりも大きな声をあげ、


「学校はッ!どうしたんだッ?!」


「テメェそんな事より事件を解決する方が先に決まってるだろ!このままだとご近所の皆様が、不安で夜も眠れなくなるんだぞ!」


まさか春の口からそんな言葉が聴けるとは思ってもいなかったので、烏天狗は口を開けたまま目を丸くしている。

さらに春の熱弁は続く。


「いいか?俺達は夜行だ!この事件を解決する事が出来るのは、俺達しかいない。だから今この場所に居るんだ!」


春の思いが伝わったのか、烏天狗は感激して大粒の涙を流している。まさか泣くと思っていなかったので、烏天狗を見て若干引いてしまった。


「うッ……ッんぐ…、まさか春がこッ、こんなにも成長ていたとは…っ私は今、感動しているッ!」


(プッ。…チョロいな)


烏天狗にバレないよう、春は静かに嘲笑った。

春達が部屋の中を見渡すと、掃除されたばかりの室内は塵一つなく、設置された家具も新品のように輝いていた。

この烏天狗は、戦闘よりも執事のスキルが高いように思えた。


春は着替えを済まして下へ降りてくると、ソファーに座りテーブルの上に東区の地図を広げた。そして烏天狗をソファーに座らせ持ってきた地図を見せる。


「春、何だこれは?」


地図には所々印が付けられていて、その下に時間が書かれていた。


「山岸に頼んで、地図に被害者とその友人の自宅、被害現場を調べて印を付けてもらった」


ーー約三十分前ーー


春とクロミは事務所に向かう途中、交番へ向かい勤務中にも関わらず眠そうな山岸に声をかける。


「ウィーッス、山岸。昨日頼んでたのは出来てるか?」


「あ?あぁ、ここに…」


虚ろな瞳で引き出しの中を探し始めた。


「お前警察だろ?そんな状態でちゃんと仕事出来んのか?」


この一言で何かが弾けたように机を叩き、春に対して溜まっていたストレスを吐き出した。


「元わと言えば全てお前のせいだ。あんな時間に連絡してきて、お前が傷付けた被害者にもう一度会って他の被害者と面識あるか聞けだぁ?ふざけるな!他にもよく連む奴を聞けだのそいつらの情報聞けだの一体何様のつもりだ!」


あまりの声の大きさに二人は思わず耳を塞いでいたが、そんな二人を見ても自分の怒りをぶつける事を

止めなかった。


「本当に大変だったんだぞ!あの被害者、鬼組の名前を出すまで何も喋らなかったし、逆に出したら急に怯えて暫く喋れなくなって。帰る時も不審者扱いされて警備員に止められて…もぅウンザリだ!」


ようやく怒りが収まったのか、荒くなっていた息が落ち着いてきたようだ。春を見る目は怒りと寝不足で充血していて、話の内容に信憑性をもたせるには充分だった。


「そうか〜、それは悪かった。それで地図は?」


春にとってそんな苦労話しよりも、頼んでいた地図の方が重要だった。山岸は地図を手に取り、そのまま春に向かって投げつけるように渡した。


「これだよこれ〜。また何かあったら頼むから、そん時よろしくなぁ」


「こちらこそッ!」


ーーもう二度と連絡してくるな


そんな目付きで春に訴えかけるも、その思いは全く届いていなかった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「っと、言う訳だ。あいつが犬のように働いてくれて流石に助かったぜ」


「…鬼だ」


人を奴隷のように扱う精神は、まさに鬼畜。


「何だその顔は?まぁいい、話を戻すぞ」


そう言って広げた地図を指を差しながら、若干引いている烏天狗に説明を始めた。



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