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モノクロ〜白鬼と黒鬼〜  作者: 五臓六腑
一章〜門出に笑う鬼〜
12/16

11.指折り数えて


初バイトから二日経ち、毎日眠そうな顔をしたクロミと朝食を食べていた。いつもなら聞き流すはずのニュースに、春は珍しく手を止め真剣に見入っていた。



『ーー昨夜未明、神楽市東区で十八歳の無職少年が、何者かに暴行され両足を焼かれる事件が発生しました。少年は現在治療中ですが…ーー』



「うわっ、マジか〜……何か面倒臭くなりそうだな。…てか警察早く犯人捕まえてくれよ」



食パンを持ったまま、他人事のようにボヤいている。

東区内には春の鬼組以外にも、いくつか夜行は存在している。栄えている繁華街や都市部は犯罪の発生率が高いため、同じ区内に複数の夜行を配置して、場合によっては様々な事件を警察と共に解決している。


今回の事件で警察は、夜行の協力を仰いでくるの気配があり、面倒事に巻き込まれたくないので春は心から祈っていた。

しかし本人の意思とは関係なく、大体悪い方に事は進んでしまうものだ。



「…まぁ俺が考えても仕方ねぇな」



夜行に属しているにも関わらず、我関せずといった態度で再び手に持った食パンに齧り付く。

春の独り言を聞いてクロミは気になったのか、眠そうな声で春に話かける。



「ねぇ〜、何かあったの〜?」



「ん?まぁ簡単に言うと、悪い奴がこの街で暴れてるから、警察と夜行の人に頑張ってほしいな〜って思っただけ。」



「ふ〜ん、そぅなんだ…。あのねハル?クロミも久しぶりにブワーッて暴れたいな」



「っ?!」



両手で気持ちを表すように大きな円を描きながら不満を言うクロミに、春は目を丸くして軽くむせた。

確かに実家に居た時は、周りは山に囲まれ自由に能力を使っていた。しかし今は人目を気にして好きなように能力を使っていなかったので、ストレスが溜まっているのかもしれない。


千代からも人前で使うなと言われているが、このままの状態が続いてしまったら、いつ爆発するか解らない爆弾につきまとわれる事になる。そうなると流石に春もその周りに居る人も危険に晒されるだろう。

春は優しくクロミを宥めるも、クロミは聞く耳持たず駄々をこね始める。



「暴れたい!暴れたい!暴れた〜〜い!!」



このままではこの場で爆発しかねない。幼女とは思えない程テーブルを強く叩きながら、段々とヒートアップしていくクロミを何とか落ち着かせようと説得した。



「解った!解ったから落ち着け!今度からなるべく使っていいけど、俺の言う事ちゃんと聞いてくれよ」



「うん、わかった〜♪約束ね♪」



自分の要望が通り、人が変わったようにクロミは大人しくなった。その可愛らしい笑顔に、春は脅されてるとしか思えなかった。

何とか嵐は過ぎ去ったが約束してしまった以上、出来る限りクロミの能力を使わせなければならない。

はっきり言って使える場面は限られるが、積極的に争い事に飛び込まなければならなくなった。



「ハァ、そろそろ学校に行くぞ」



朝食を済ませて制服に着替え終えると、二人は手を繋ぎ学校へ向かった。


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞



いつも以上に騒がしい教室に入ると、今朝のニュースで流れていた事件について話題は持ちきりだった。自分達が住む地域がテレビに出れば、話さずにはいられないみたいだ。席に着くと、早速茜もその話を嬉しそうな顔をして春に話してきた。



「沢木君!今朝のニュース見た?東区で事件だって!」



「あ〜、そうみたいだな。てか何でそんなに嬉しそうなんだ?」



すると茜の顔が次第に赤く染まっていった。

春は〝何故事件が起きたのに、そんなに嬉しそうなのか?〟と聞いたのに、茜には〝何で俺と話す時、そんなに嬉しそうな顔をするんだい?〟と聞こえ、気持ちを見透かされたと思い必死に誤魔化そうとした。



「えっ?えっと、その、違うの!いや違わないんだけど、そうじゃなくて…だって、嬉しいのは………わあぁぁぁあー!!」



「あ、デジャブ…」



茜はかなり取り乱していて、あたふたしながら身振り手振りで何かを伝えようとしたが、突然叫びながら自分の机に顔を伏せた。

その一連の行動を目の前で見た春は、今朝のクロミを思い出し茜の精神状態を心配したのだった。



(しかし誰があんな事するんだ?あそこまでやるならトドメぐらい刺さばいいのに。まぁどっちにしろクロミとの約束があるし、少しだけ首突っ込むか…)



ほんのり薄暗い空を眺めながら、事件や犯人について様々な角度で考える。もちろん授業の内容は頭に入ってこなかった。

昼休みになり、屋上でクロミと寝転んでいると烏天狗から着信が入る。



「はいよ。何かあった?」



「今朝のニュースは知ってるな?ついさっき警察から連絡が入ったのだか、どうやら二人目の被害者が出たみたいだ。」



まだ一日も経っていないのに、二人目の被害者が出た事に驚いた。

烏天狗の話では、酷く暴行を加えられ部位は違うが同様の火傷を負っていたそうだ。間違いなく同一人物の犯行だが、何故急ぐように犯行に及ぶのか解らない。



「解った。とりあえず今から行く」



「ちょっと待て!学校はどッーーーー」



話の途中で電話切ると、クロミを脇に抱えて急いで教室に戻り帰り支度を始めた。すると茜が心配そうな顔で春を見てきた。



「沢木君、早退?どこか具合悪いの?」



「おぅ、ちょと頭が痛ぇから帰るわ。」



何の罪悪感も無くさらりと嘘を付く。ちなみに春は、生まれてこのかた風邪を引いた事がない。やはり白鬼の血が影響しているみたいで、病気にかからない身体なのだ。白鬼様々だ。



「また明日ね。バイバ〜イ♪」



無邪気な笑顔でクロミが茜に手を振り、春とクロミは学校を後にした。


二人は事務所に着き部屋に入ると、烏天狗と制服姿の警察官がソファーに座り何か話し合っている。すると烏天狗が二人に気付きこちらに来るよう手招きをした。



「はぁ、学校をサボる必要などなかったのに…まぁ仕方ない。春、こちらの方はーー」



「すみません、僕の方から自己紹介します。」



烏天狗の言葉を遮り、警察官の男は春に近づき爽やかな笑顔で名乗り始めた。



「初めまして。僕は『山岸やまぎし りょう』。今回の事件で夜行鬼組に協力するように言われて来ました。どうぞよろしく」



自慢するように白い歯を見せつけ、春に握手を求めて右手を前に出した。その山岸の隣には大人しく座る憑神のシェパード『花丸號はなまるごう』が、舌を出してこちらを見ていた。


(何だかな〜。気に喰わねぇな、こいつ)


春の対応は素っ気なく、「おぅ」と一言だけ言って山岸の隣を素通りしてトイレに向かった。

まさかの事態に烏天狗と山岸は、凍りついたように固まってしまう。

山岸の振る舞い方は世間一般では間違っては無く、春の性格が人として間違っているだけだ。

そして春がトイレから出てくると、山岸に自己紹介をした。



「俺は沢木春。こっちはクロミ。まぁよろしく」



今度は逆に春の方から握手を求めた。しかし山岸はなかなかその手を握る事が出来ない。トイレから出てきてすぐ握手を求めてくる人間を山岸は知らなかった。



(何なんだコイツは…)



戸惑う山岸がなかなか握手して来なかったので、春は舌打ちして差し出した右手を戻した。

お互い相性が悪い事に気が付かないまま、春は山岸に上から目線で頼み事をした、



「今日は行きたい所あるし、ちょっと付き合え」



山岸にそう言うと、夜行の服装に着替えるため三階へ上がって行った。春が上に行った事を確認すると、烏天狗は深い溜め息をつき、



「どうもすみません。口の聞き方は多分治りませんが、後でよく言い聞かせますので」



「いえ、僕なら大丈夫ですので…」



しかし山岸の本心は違う。

年下に敬語も使われず、上から目線の態度が気にいらなかった。学生の頃は体育会系の部活に属していたので、上下関係には厳しいのだ。

しかし相手は夜行。いくら新参者でも夜行に入る時点で頭の狂った連中と同じと認識され、その辺に居る小悪党よりもタチが悪い事で警察内では常識になっている。なので山岸はなるべく穏便に事を進めるよう心がけている。


着替え終わった春が再び二階に戻ると、その姿を見て山岸は改めて気を引き締めた。警察と違い常に死と隣り合わせの夜行の人間は、数々の修羅場を潜り抜け独特の雰囲気が漂っており、春からもそれを感じ取れた。


仲睦まじい様子でクロミに法被を着せると、山岸の方を向き少し低い声で言った。



「よし、…行くぞ」



そぅ言ってクロミの手を握り、先に出て行った。春の雰囲気に圧倒されその場に立ちすくんでいたが、すぐに二人を追いかけ小走りで追いかけた。



「沢木君!ちょっと待って!」



「あ?何?」



手を繋いで歩く姿からは想像も出来ないほど、春の声は針のように鋭く尖っていた。

山岸は少し気圧されつつも、さらに話しかける。



「いったい何処へ向かっているんだ?」



「何処って、最初の被害者が居る病院に……あっ、場所全然知らねぇや。ちょっと調べてくれねぇか?」



気恥ずかしそうに笑顔で頼む顔を見て、少しだけホッとした。初めて見せた笑顔に春との距離が少し縮まったと思い、無駄足にならないように知っている情報を教えた。



「もしかして被害者から話を聞こうとしてるみたいだけど、警察でもあまり手掛かりになる情報は得られなかったみたい…ッ?!」


(なんだ、この感じは?)



手帳を持つ手が震えだし、歪みだした空間に巻き込まれる様な錯覚に陥った。目眩がする中、その発生源が春である事にすぐ気付いた。



「あのなー、そんな事はどうでもいいんだよ。俺は調べろって言っただろ。それとも知ってんならさっさと教えろ」



笑顔になったかと思えば、突然怒気を放って威圧してくる。同じ頼み事でも、心臓を鷲掴みされたかの様に異なっていた。

被害者の情報を外部に漏らす事は避けたい。しかし春がこれ以上癇癪を起こせば、自分がどうなるか解らないので、山岸は自身の安全の為、被害者が居る病院を渋々教える事にした。



「被害者が居るのはここから歩いてすぐの【桃治総合病院とうじそうごうびょういん】だ」



「んじゃ早速そこに行くか」



「お〜!!」



まるで遠足に行くみたいなノリで、クロミは元気良く拳を空に向かって突き上げた。この二人が病院で何をしでかすか、恐ろしくて考えられない。



(大丈夫…だよな?)



しばらく歩いていると三人は目的の病院に着いた。建物は大きく、外観も真新しく清潔感がある。人の出入りも多く、人気のある病院だと一目見て解った。



「被害者のくせに結構良い所に入院してんだな」



病院の中はとても広く、案内図を見ても迷いそうだったので、山岸に案内してもらう事にした。しばらく長い廊下を歩き病室の前に着いたが、事件の被害者という事も個室が用意されていた。


「個室か…」


ニヤリとした口元は、何か悪巧みを思い付いた子供の様だ。ノックもせずにいきなり扉を開けると、男はベッドに足を伸ばして座っていて、漫画を読みながらヘラヘラと笑っていた。すぐに春の存在に気付くと、慌てた様子で喋り始めた。



「誰だテメェ?何勝手に入ってんだよ!」



突然の訪問者に強気に出るが、春は無言で近づきいきなり髪の毛を鷲掴みにした。遅れてクロミと山岸が後を追う様に入ってきたが、山岸は春の行動に唖然とした。



「お前、警察に嘘教えてねぇだろうな?」



「は?知らねぇよ!てかその手離せや!」



男を睨みながら問いただすが、知らないの一点張りで一向に話が進まない。苛立ちが増し髪を掴む手には徐々に力が入り、男は歯を食いしばり痛みに耐えていた。

すると見兼ねた山岸が、春を落ち着かせようと説得する。



「沢木君、警察が調べて何も出なかったんだ。ここは諦めて次へ行こう」



しかし山岸の言葉は春の耳には届かず、今度は男の左手首を掴んで、漫画が置かれているキャスター付きのベッドサイドテーブルに叩きつけた。男は掴まれた手を振りほどこうと力を入れるが、万力で固定された様にビクともしなかった。



「クロミ、山岸を押さえつけとけ」



「わかった〜!」



この時の山岸は、春の言葉を理解出来なかった。いくら憑神とはいえ、こんな幼い少女に押さえつけられる訳がない、そう思っていた。



「ん〜〜〜…やーーーッ!!!」



クロミは少し前かがみになり、両手を握り締め力を溜めた後、その両手を広げ能力を解き放つ。背中から二本の揺らめく闇の腕が飛び出して、春の言いつけ通り山岸の体を壁に押し付け固定した。



「何…だ、これは!?」



「今から俺のやり方で聞き出す。お前はそこで黙って見てろ」



そう言い放つと男に視線を戻し、手首を握ったまま再び問いかける。



「もう一度聞くぞ。本当に何も知らねぇのか?」



「だから何も知らねぇって言ってるだろぉが!!」



何度も同じ事を聞かれ、男はいい加減鬱陶しくなったのか春を睨み付けて怒鳴った。

しかし苛立っていたのは春も一緒だ。



「……ふーん」


ーーーバキキッ



押さえつけていた左手の人さし指と中指を突然握り締め、無表情で勢いよく折り曲げる。まるで小枝を折る様に、容易にその指をへし折った。



「ギぃゃぁあぁあーー」



二本の指は破裂しそうな程赤く腫れ上がり、それと同時に男の叫び声が病室に鳴り響いた。あまりの痛さにベッドの上で暴れるも、掴まれた左手は少しも動いていない。



「ほらほら〜、さっさと本当の事言っちゃえよ〜。次は薬指いっちゃうよ〜?」



狂気の混じった笑顔で再び問いかける。まるで拷問だが、春にとってただの遊びにすぎないようだ。クロミも男の無様に泣き叫ぶ声を聞いてただ笑っていた。

警察である山岸は、この光景をただ見ている事しか出来ず、恐怖と怒りで全身が震えてた。



「ほ、本当に…知らなーー」


ーーーゴキッ


「がぁあァあああー!」



「はぁ。あのなぁ、本当の事言わねぇなら歯を全部へし折って喋れなくするからな」



それは脅しでは無い。全身から殺気を放ち、鋭い眼で男を睨み付ける。そして右手の拳は、男の口元に狙いを定めていた。

あきらかにさっきと違う雰囲気を肌で感じ、男は観念したのか小さい声で真実を話した。


「それじゃこれが最後。……本当に何も知らねぇのか?」」



「…ひ……と…」



「はっ?聞こえねぇぞ!!」



「ひッ、火野太ですっ!」



予想外の名前が出てきて、少し驚きを隠せなかった。



(…あいつか?)



春が太に会った時は憑神は居なかったはず。この短期間で憑神と契約した事があまり信じられなかったが、ここまで痛めつけて嘘を付ける訳が無い。とにかく犯人は解ったのだが、この事はここだけの秘密にしないといけない。



(通りでこいつ、言わねぇ訳だ)



人間相手に憑依した状態で危害を加えると、例え未成年であっても重い処罰が下されるのだ。一人納得した春はクロミに合図を出すと、押さえつけていた闇の腕がゆっくりと霧散して山岸を解放した。すると春の行為に対し警察として許せなかったみたいで、胸ぐらを掴み一喝した。



「オイッ!お前の行為は決して許されないぞ!被害者にこんな事して、夜行として…いや人として恥ずかしく無いのか?!」



我慢していた感情が一気に爆発し、冷めた目をした春に言い聞かせていた。すると突然真横から車に跳ねられたような衝撃に襲われ、大きな音を立てて壁に激突した。そこには頬を膨らませ怒っているクロミと、消えた筈の闇の腕が再び現れていた。



「おまえ、クロミに殺されたいの?」



「おい、待て待て待てッ!警官を殺すのはダメだ」



山岸に向かって殺す為に伸びた腕は、春の言葉のおかげで寸前の所で霧散した。春は座り込む山岸に近づくと、ゆっくりと手を差し伸べた。意外な行動に多少驚いたが、その手を掴むと潰されそうな程の力で握られ無理矢理体を引き起こされた。



「いいか?火野太の事は誰にも言うなよ。約束しろ!」



「わ、解ったから、その手を離してくれ!」



「よしっ、じゃあ戻るか」



どこに地雷があるか解らないので迂闊に発言出来ない山岸は、ただ機械のように頷く事しか許されなかった。



∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


時刻は二十三時を回り、三人はひと気の少ない住宅街の見回りをしていた。



「なるほど、そういう事だったのか。しかし良く気が付いたね」



「まぁこれぐらい普通だろ。てか警察が無能過ぎてワロタw」



ケラケラと笑いながら春は鋭い一言を放つと、山岸は少し頭に血が昇るもなんとか平常心を保っていた。どうやら先ほど春が気付いた事を山岸に教えたみたいだ。



「しかし火を出す憑神か〜。何か羨ましいな」



「クロミちゃんが居るだろう。沢木君は充分恵まれていると思うんだけどな…」



そう言って花丸號の背中に乗るクロミを見ると、心なしか照れているのが解った。



「確かにクロミは強ぇけど、能力使うの制限してるし我儘だし扱いづらいんだよなー」



贅沢な悩みを打ち明けると、気分を害したクロミは能力を発動し春の頭を強く殴った。

そんな光景を山岸は苦笑いしながら見ていると、突然花丸號が足を止めた。顔を上げ何か感じ取るように耳を前方へ向けた。

すると春も何か感じ取り、三人に急ぐように指示を出した。



「急げ!多分こっちの方向で合ってる筈だ」



二人とクロミを乗せた一匹は街灯に照らされた住宅街を進むと、何者かの気配が徐々に強く感じ取れてきた。

山岸に憑依するよう指示を出すと、春も鬼化して戦闘準備に入る。



「多分あいつで間違いねぇと思う。いいか?絶対に本人の前で名前を口にするなよ」



「解った。けど何でダメなんだ?」



名前を知っている事がバレたら犯行を止め何処か遠くへ逃げられる。もしくは逃げられないと思い自首する可能性がある。最悪被害者にトドメを刺す事も考えたが、これは春に全く関係ないので問題ない。

他にも理由は色々あるが一番重要な理由が、



「あいつを仲間(部下)に引き入れる為だ。もちろん拒否権なんてねぇし、拒んでも力尽くで首を縦に振らせる!」



実に春らしい理由だったので、山岸はあまり驚かなかった。しかし子供のようにワクワクした横顔を見ると、何故か自分も薄っすらと笑っていた。


すると遠くの街灯に照らされ、ブロック塀に向かって立っている人影を捉えた。

すでに暴行を加えた後のようで、目の前にぐったりと座り込む男の姿があった。狙いを定めた右手から赤く燃え上がる炎は、すでな男を焼き尽くす準備が整っていた。その炎は離れている二人でもはっきりと確認できた。



「ちょっと待てやー!」



春の声に気付き、逃げる様子もなくゆっくりと二人の方に顔を向けた。いつの間にか右手の炎は消えていたが、春達を睨むその〝悪魔〟の眼は敵意剥き出しだった。



「よっしゃー!ナイスタイミング、俺ッ!!…いや、既に被害出てるからアウトか」



悪魔と対峙てなお通常運転の春に対し、山岸は味わった事の無い緊張感に息が詰まりそうになっていた。



「夜行…鬼組…」



「おぅ、その通りだ。」



一度だけこの姿で名乗った事があり、太は虚ろながら覚えていたようだ。しかし名前を覚えていても、決して友好的になろうとはしなかった。



「このクソ夜行、いったい何の用だ!」



太の質問に良くぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、春は笑顔になった。



「お前、鬼組に入れ」



それはお願いではなく、相手の意思を無視した命令だった。しかし太は腹を抱えて笑いだした。この反応は予想外だったのでかなり期待が持てたが、笑い終わった後、殺気の込められた目で春を睨んだ。



「ハァー、馬鹿かお前。まず先にお前達から燃やしてやるよ」



「まぁいいか。早くかかって来い。とりあえず叩き潰して解らせてやるから」



事件に終止符を打つため、眠りにつく静かな住宅街が小さな戦場に変わった。


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