その熱が与えるのは、恐怖か安息か
来るもの拒まず去るもの追わず。
そのスタイルを崩すことなく生きてきた。
というか、最終的には自分が一番なんだから誰かを傍に置くことに関して無頓着なだけ。
友達の定義が分からないから友達はいない。
そもそも欲しいと思ったこともないわけだけど。
群れることでしか何かを成し遂げられないのならば、絶対に一人の方が有意義だから。
絶対、なんてこの世にはない。
裏切られないなんてことない。
友達じゃなくなることなんてザラにある。
誰かを追いかけることは面倒だ。
執着を見せて傷付くのは自分だから。
「だから、要らない」
ふる、と首を小さく振りながら拒否を見せてもその笑顔が崩れることはない。
友達なんていない。
人付き合いは苦手。
自分の殻に入って自分を守ってきた。
今も守っている。
彼は土足で人の中に入ってくるのだ。
内側に入り込もうとする。
私の外側にいるだけでも嫌なのに。
「要らない要らない、嫌なの」
ふるふる、首を横に振りながらの拒絶を彼は気にしない。
笑顔のままに更に足を進める。
大丈夫だから、俺がいるから。
そんな言葉要らない、聞きたくない。
怖い怖い怖い。
一人はいい。
独りは怖い。
独りになるなら一人でいい。
一人と独りは違うから。
一度得た温もりは怖い。
いつ消えるんじゃないかって怖い。
絶対になんて信じられない。
いなくならない、なんて嘘。
「嫌なの、嫌」
お日様みたいな匂いはしない。
でも柑橘系の香水の匂い。
大丈夫大丈夫、って私の背中を一定間隔で叩く手と、その体の持つ熱。
嫌だ、お願い、嫌だ。
来るもの拒まず。
だって結局は外側だから。
去るもの追わず。
執着したら傷付くのは自分だから。
隣の人間に興味がない。
いつかいなくなるから。
友達がいない。
自分を守るために切り捨てた。
怖い怖い。
独りになるのは怖い。
嫌だ。
だから逃げる。
「俺が傍にいるよ」
お願い、止めて。
熱が怖い。
消えるのが怖い。
内側に入られるのは怖い。
一人が二人になったら最後は独り。
お願い、消えないで。