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猫
「アリスはいってしまったよ」
空も、地も、全てを赤く染め上げていく。
まるでそれは、血のようで。
そんな、夕暮れ時に、私は『猫』に出会ったのだった。
はて、猫とは人間の言葉を喋る生き物だっただろうか?しかし私はつい先程確かに、この猫が喋る所を見た。
ということは、私の頭がおかしくなったのか、これは私の見ている夢かどちらかなのだろう。
「アリスを追いかけなくていいのかい?」
猫は首を可愛らしく傾げて、私に問いかける。
アリス――。
そうだ。私はアリスを捜していたのだった。
醜く、汚い大人である私に、唯一優しく話し掛けてくれたのがアリスだった。
純粋で、穢れを知らないアリス。私のアリス。
それなのに、何処かへ行ってしまったのだ。
私はアリスを追いかけて此処に来たのだ。
早くアリスを追いかけなくては。
「ついておいで。僕は導くものだから」