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ぼくのお姉ちゃん

 長文のメールを読んで疲れたのか、それとも先ほど感じた感嘆の余韻がまだ残っていたのかは定かではないが、ふー、と息を吐く。

と、ドタドタと足音が聞こえてきた。

 その足音は二階のぼくにも聞こえるくらい大きくなってゆく。いや、正確にはその足音の発生源が近づいてきている。一瞬、母さんかな?と訝しんだ。

 しかしその足音がバタンとぼくの自室の扉を力強く開けてきたので、その考えは吹き飛んだ。母ならノックくらいはするもの。いや、しないかもしれないけど、『ババアッ!ノックしろよ!』みたいな状況は一度も発生してないからわからない。

 ぼくの部屋に現れた人物は怒りをあらわにしていた。

 扉を開いた後、右足をドスンと叩くようにして踏み出し、左足も同様にして仁王立ちをした。その仁王立ちとともに怒りを現わしているのが、彼女の右手に持っているプラスチックのカップである。それがプルプルと震えている。

 扉を開いた音に驚いたぼくは肩をビクンと震わせながら上半身だけを起き上がらせた。

 仁王立ちしている女性。ゴムで一束に束ねた茶髪に、あどけなさが取り除かれつつある顔立ち。そしてぼくと同じくらいか、ちょっと下あたりの背丈。そして年上だとしても育ちすぎているかのような胸。時折見せる子供っぽい仕草は家族であるぼくが知っている。要するに、ぼくの姉である。

「……ゆ、悠一……。あんたぁ……」

 怒りをぎりぎりのところで抑えている姉さんはずいっと右手のカップをぼくの眼前に差し出した。

「あんた!あたしのプリン食べたでしょ!」

「いやっ!母さんが食べてもいいよ的なことを言ったんだって!勘弁してよ!それに姉さんのだって知らなかったんだよ!嫌だったら名前でも書いてよ!」

 姉を前にして、すぐに防御体制に入る。はい、言い訳の事です。

「問答無用!」

 そう言い終わるが早いか姉さんは鬼のような形相でぼくに襲いかかってきた。いくら男といえど、家では常に母や姉の方が強い。その強さとは権力的な意味だが。

 それに言い訳をさせてもらうならば、ぼくは女の子に乱暴をしない紳士なのである。なので数秒後にぼくがズタズタにされているのは当然のことなのだろう。しかしぼくは精一杯の反撃を見せた。

「うぅ……。陽子姉さんだってぼくのシュークリーム食べたじゃないか……」

 昨日に!こちとらまだ根に持ってんだよ!

「何か言った?」

その言葉に反応した姉さん。上からぼくを見下ろしてニコニコと怖いくらいに微笑んでいる。いや、実際ものすごく怖い。そんな恐怖にぼくの脳内の思考回路は、姉さんにたてつくという選択肢をすぐに捨て、代わりに否定という選択肢を選んだ。

「な、なんでもありません……」

 おずおずと引き下がるぼく。それを見て、よし、と言う姉さん。そこに慈悲なんか微塵もない。そして続けて姉さん。

「うん。今日のところはこれで許してやる。でも明日にはプリン二個買ってこいよな」

「ええーーー!なんで倍になってるの!」

ギロリ。

そんな効果音が聞こえるくらいに鋭く睨まれた。反抗できません。すいませんでした。そんなぼくの心情を読んだのか、姉さんは再度、よし、と言い、顔の筋肉を緩ませた。

「へへ~、これで明日はプリン二個だ~~~」

「ねえ、姉さん。もしかしてそれを狙ってたわけじゃないよね……?」

 姉さんはぼくの方をちらりと見ると、微妙に広角を上げて言った。

「……思い通り」

「ひどい!あんたそれでも姉か!」

 ぼくが罵詈雑言を姉さんに言ってやっても、今度は手のひらを返したかのように、笑いながらぼくの部屋を後にしていった。

 ……ちなみに姉さんはこんな性格の人でも十九歳なんです。

 ……ババア、ノックくらいしろよ……。

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