ぼくの落胆と彼女の順位
「はい。そして吉川さんの順位ですが世界ランク──」
と、その直前に彼女は少しだまり、
「いえ、世界ランク・国内ランクはいいでしょう。簡潔に答えますね。彼女の両ランクは、可もなく不可もなし、一般人レベル。要するに平凡、です」
「よかったぁー」
ぼくがまず感じたのは安堵だった。ここまで間を空けられたから、てっきり彼女の順位が悪いかと思ったのだ。
「え、いいんですか?」
だが逆に少女のほうは虚をつかれたようだった。少し意外そうな目で僕を見る。
「え、ダメだった?」
逆に問い返してみると、彼女は少しうつむいて言った。
「いえ、ダメではないのですが、そこは普通落ち込むと思って……」
「落ち込む?なんで?」
はっとした少女はぼくの方をじろじろと見て、
「あなたって馬鹿なんですね」
「せ、成績は中の上だ!」
無駄に言い返してしまう。少女は「成績の問題ではありません」とぼくを一蹴して、
「考えてみてください。あなたはとなりの席が吉川さんだから幸せと感じている。これは大体あってますね?では逆の立場である吉川綾瀬さんはどうでしょう?」
少女に問いかけられたが、それを答えるのは容易なことだった。なぜなら先ほど答えがでたからだ。
だが、それを口に出すのはどうやら時間がかかったらしい。
「ふ、普通……?」
「正解です。普通と思っている。そうです、別に彼女は席が変わったからといって、なにも思ってない」
「ほ、本当に?」
頭は少女が言ったことを理解したつもりなのに、体は、口は、勝手に動いてしまう。そして、彼女はなんの慈悲も見せずに、言い放った。
「本当です」
吉川さんは、ぼくのことを好きじゃない?わかってるよ、そんなこと。ドラマやアニメじゃないんだから。でも、さっきの言葉は、ぼくに今は期待するなって言ってるようなもんじゃないか。それは、寂しい。
ぼくの高校生活、これから泥色じゃないか。
ぼくがうなだれている姿を数秒見つめた彼女は、ぷぷっと可愛い笑い声をあげながら言った。
「あ、世界ランク7位に。すごいですね、この精神攻撃を受けてもまだ世界ランク7位ですか」
「おちょくってんの?これでもがっかりしてんだからね?」
項垂れながら問うぼくに、彼女はまたもハァとため息をついて、
「そんなにがっかりしなくてもいいじゃないですか。別に嫌われているわけじゃないんですから。これからですよ。それに先ほどこれは参考に、って言ったじゃないですか」
「わかっているよ……わかっているけど……」
絶望していたそんなぼくに、少女は手を差し伸べた。それは、その時の僕にとって救いの手だったのである。
「ですけど、今私が言ったことを信じるのなら、私も手助けができます」
「ホント!信じる、信じるよ!」
その言葉を聞いたが早いか、ぼくはさっと顔を上げて、彼女の手を取る。彼女の顔はまるで天使のように笑っていたが、ぼくが手を取ると、彼女はかなり驚いた様子だった。
「分かりました。これからあなたの恋愛を援助してあげます」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
ただただ礼を言うぼくに、彼女はそっと手を離した。
「ええと、ではとりあえずお互いの連絡先を交換しておきましょう」
そう言って少女はケータイを取り出す。その行動の速さに驚き、突っ立ていると、草加さんは疑念のこもった眼差しを投げかけたので、急いでぼくもそれに倣った。
やっぱり女の子はこういう社交辞令に慣れているのかなぁ。
時たま聞こえる電子音。それだけが教室に響き、女子と二人っきりの沈黙に耐えられずに、思わず口を開く。
「あー、同じクラスなんだよね。気付かなかったよ」
いきなり声をかけられたときは誰かと思った。ま、それほど吉川さんを見ていたということだね!
「それほど、吉川さんにご執心なんですね」
心の内を読まれ、内心傷ついた僕に、少女は簡潔に告げた。
「雛子、草加雛子」
そう言われたときは、一瞬名前だとわからなかった。メールアドレスも本名をもじったアドレスではなかったし。
「草加さんね、これからよろしく」
握手をしようと思い手を差し伸べたが、草加さんは応じる気配がなく、はい、と言っただけだった。まあね、初対面で握手する人なんていないしね。そして彼女はアドレスを交換し終わったケータイをしまいって、あと、と付け加え、
「明日やってみることはメールで送ります、ではこれで」
と言って足早に去っていった。
どうしよう。初めての女の子のメールアドレスだよ。どうしようどうしよう。




