ぼくの順位
「──ってことだから、来週は放課後空けといて?じゃあねー川島くん」
「え、あ、うん」
その日の放課後、高校二年生のぼくたちは入学してきた一年生と違い、新参者ではない。だから普通に授業があったのだった。だがいつもは憂鬱な授業も、愛の力さえあれば解決できたのだった。
そしてホームルームのときに、学級委員長として決められたぼくと吉川さんは残ってラブっていました。
……じゃなくて普通に仕事のチェックを行っていました。なんでも来週は一年生のために部活紹介があるから、その準備を終わらせるらしい。
ちなみに事務的なことは、吉川さんが終わらせてくれるらしい。ぼくも手伝おうと言ったのだが、いや、言おうとしたのだが言わせてくれなかった。行動が早くて、言うタイミングを逃してしまった。はい、決してぼくのコミュニケーション能力が低いからじゃないです本当です。
だからぼくが出来る分はしっかり手伝おう、そう決意したのだった。
「さて……ぼくも帰るか」
あ、一緒に帰ろうとか言えばよかった。いや、無理だと分かっているんですが。 机の上に置いてある鞄を肩にかけ、歩きだそうとした瞬間だった。
「やれやれ……たかが女の子一人にそこまで挙動不審になるもんですか?」
夕焼けに染まりつつある放課後。そして閑散とした教室。教室に少女の声が響き渡った。窓から差し込む夕日がその少女を照らし、ぼくの背中も暖めてくれている。まだまだ春は始まったばかりで、肌寒い季節だ。
扉付近に立っていた彼女は、つかつかとぼくの所に歩み寄り、ぼくの目を凝視する。大人しそうな印象を与える黒髪のセミショート。整った顔立ちは理想的とも言えるのだが、触れたら壊れそうな雰囲気を醸し出している。まじまじと見られておもわず目をそらしてしまう。
そして彼女は寸分の迷いもない様子で言った。
「あなたは……、川島さんは……吉川綾瀬さんの事が好きですね」
いきなり言われたことに虚をつかれたぼくはしどろもどろといった様子になり、困惑した。
そして周りをキョロキョロと見回す。誰か聞いた人がいないか確認するためだ。本人の名前を出されたため、余計に緊張した。こういう話には慣れていないのである。
見回しながら吉川さんがまだ教室付近にいると危惧したのだが、運動部が外であげる大声や金属音しか聞こえてこず、とりあえずは落ち着いた。
ええと、吉川さんの事が好きかだって?ば、バレているの?それとも鎌をかけられているの?こういう場合はどういう答えが十全なのだろうか。それを頭の中で模索していると、少女は、はあとため息をついて、
「わかっていますよ。だって私、席あなたの後ろですし。わかりやすいですよ、いつもニヤニヤしていて」
「に、ニヤニヤはしてない!」
反発するぼく。そこまで気持ち悪いことはしてないぞ。
「それにちゃんとしたデータもとってあります」
「デ、データ?」
データってなんだろう。ニヤニヤしたぼくの写真とかでも撮っているのだろうか。だとしたらまずい。すぐに削除してもらわなければ。自分のニヤニヤした顔とか気持ち悪い。けれど彼女が言ったセリフは理解不能なものだった。
「はい、世界ランク1位、国内ランク1位。あなた今ぶっちぎりで幸せ者ですよ」
「は?なにそれ」
純粋に訳がわからなかった。最後の幸せ者というところくらいしか解らない。前半の順位はなんぞ?
「つまりですね。順位ですよ。幸せの。私の能力なんです」
幸せ。という言葉を何回も口の中で反芻する。つまり先ほどの数はぼくがどのくらい幸せかと言っていて、それの順位が凄くいいってことだろう。それは人を見ると、その幸せの順位が分かる能力。
なるほど。
「いやいやいやいやいや!何言ってんの!」
危うく納得するところだった。僕もテレビの見過ぎか。リアルとオカルトの区別はきっちりつけないといけないね。今のぼくはメディア・リテラシーが足らないな。
「あなたの幸せの順位です。……まあ信じてもらえないのが普通です。能力というのもそう。私は視界に入れた人の幸せの順位が分かるんですが、この話はとりあえず置いておきましょう。ですからこれから私の言うことは参考程度に受け取ってください」
そう言うと少女は少し沈黙して、また話を続けた。
「あなたの隣の席は吉川さんです。それはいいですね?話はここからです。先ほど私があなたに言った順位を覚えてますか?」
「一位です」
間髪いれずに答えられた。世界ランク一位っていうのは自分でもインパクトが大きかったようだ。すぐに答えられたからか、少女はわお、と小さい声で言ってから話を本題に戻した。