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ぼくの告白は目前

 吉川さんと話したおかげか、やはり幸せな時間というのは早く過ぎ去ってくれるらしい。吉川さんとの時間が早く過ぎてしまうのは悲しいことだが、並行して行われていた世界史の授業が過ぎてくれるのは喜ばしいことだった。


 でも実際、世界史の時間は体感的にはいつも通りだったのかもしれない。昼休みと比較してみると、そう思えてきた。今日という日だけ、ぼくの時間は早く過ぎ去っているのかもしれない。


 昼休みは葵と、いつも通りに騒がしい昼休みだった。それをどう受け止めればいいいのだろう。いつも通りだったからこそ、意識せずにもこの時間は早く感じているのか。


 そして部活紹介の時間が来た。


 ぼく達は一年生を迎えるために、彼らより早く体育館へと移動する。ちなみに部活紹介と括ってあるこの行事だが、生徒会関係の報告とかもあるため、生徒全員参加の行事だ。報告と言ってもお堅いものでなく、一年間の行事紹介だったり、そんなもんだ。


 体育館にみんな集まり、準備していた各部活の人達も遅れて集まってくる。もちろん、その中に葵も、吉川さんもいた。


 葵は青を基調としたユニフォームを着て、佇んでいる。あのユニフォームがぼくの運んだやつか。ふーん、かっこいいな。


 それに対して吉川さんは体操服を着用している。プリントをしげしげと眺めて何かを確認しているようだった。ふーん、可愛いな。


 それにしても……、体操服着るとやっぱりスタイルってのは一目瞭然なんだな、いい意味で。


 とか思っていると、体育館が一段とやかましくなった。どうやら一年生も到着したらしい。生徒会や教職員の指示に従い整列する。体育館に静寂が満ちたとき、マイクを通して生徒会長の声が聞こえた。


『これより部活紹介及び、その他生徒会報告会を始めたいと思います』


 凛とした声が聞こえて、そういえば生徒会長は女性だったな、と思い出していると、さっそく部活紹介が始まった。


 最初に行われた部活はサッカー部だった。驚いた。まさかこの学校で一番人気のある部活動だったとは。紹介する順番はプリントで確認していない事だった。

そして事前に決めていたのか、ユニフォームを着ている一年生が前に出て、先輩方の指示に従い、体験させてもらっている。ぼく達が運んだユニフォームは当たり前のように使われていて、何も問題はないようだ。


「みんな、幸せそうですね……」


 後ろから呟く声が聞こえた。振り返ると、草加さんがちょこんと体育座りをしていた。そう言えば出席番号が近かった。


「えっと、その地味な能力で?」

「地味ではありません」


 むっとした表情をして唇を尖らせる。


「他人の幸せを少しだけでも覗かせてもらえるんです。確かに超能力っぽくはないと思いますが、この世の中では十分過ぎるものだと、私はそう思っています」

「ふーん、ぼくは手に入るんだったらもうちょっと格好良いのがいいなー」


 炎を操れたり、水を操れたり。漫画の見過ぎか。でも、そう思うのが普通だと思うけどな。


「……まあ地味と思われても仕方ないですよね。でも見てください。……あ、と言っても川島さんには見えませんか。今体験している一年生達、みんな幸せらしいです」


 一年生の方を軽く顎で示す。それを見るとなるほど笑顔でボールのパスをし合っている。


「ケースバイケースで幸せ者を見ていると苛つくことはありますが、やっぱり正直に言うと、他人でも幸せなところを見るというのは、良いものですね」

「えっ、ねえ、苛つくってぼくの事?ねえぼくの事?」


 だって、ねぇ……?ぼく、一位ですから。ま、一位ですから。世界ランキングも一位ですから。嫉妬されても仕方ないよねぇ。


「さーどうですかね」


 嫌みたらしいぼくが問い詰めようとすると、草加さんは一言でかわして、嬉しそうに体験する一年生に視線を戻した。


 なんだよぉー。少しは嫉妬してくれよぉー。


 暑苦しいイメージがあるせいか、部員が入ってこなさそうな柔道部の部活紹介を最後に、部活紹介は幕を閉じた。可哀想に、柔道部。誰か入ってやれよ。


 ずっと座っていたせいか、生徒たちは伸びをしたりしながら、自分たちの教室へ帰っていった。このあと、ホームルームを終わらせたら、それぞれの部活がある人はその部活動に励む時間、つまり放課後だ。


 クラス全員が教室に戻ったところで、七山先生も教室に入ってきて、言った。


「はーい、みんなお疲れー。それじゃーホームルームを始めたいと思いまーす」


 担任の掛け声で教室が徐々に静まり返り、そのまま続ける七山先生。


「部活紹介が終わっても特に報告する事とかないんだけど、みんなからはなんかある?ないよね。じゃあホームルームを終わりたいと思います」


 考える時間すら与えられず、ホームルームを早々と終わらせる担任。なんだか無性に腹が立つ言動だ。大人になってもこういう事はしないぞ、と固く決心。

 担任が締めくくり、いつものように教室に喧騒が戻る。

 ぼくは帰る準備をするふりをしながら、こっそりと二人を盗み見た。


「綾瀬さん綾瀬さん」

「ん?どうかしたの雛子ちゃん?」

「今日の放課後って時間ありますか?」

「放課後?……うーん」

「あ、マネージャーの仕事があるなら別にいいんです」


 草加さんの言葉とは裏腹に、ぼくは吉川さんが時間を作ってくれる確信があった。確信というよりは、考察じみたものだけど。


「あ、いや、別にいいよ。うん、放課後なら大丈夫」

「いいんですか?」

「いいのいいの。今日はお休みだから」

「そうですか、では教室で待っていてください」

「あ、うん。わかった」


 朝の作戦会議なんて、そう大したものではなかった。ただ単に、ぼくは草加さんに頼って、彼女の言う事を聞いてるだけだった。


 だから、吉川さんを呼び出すことも、草加さんに頼っているだけだった。

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